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「一時保護所」は、なくてよいのか ~児童相談所は「区立」で!(4)~

都立練馬児童相談所の開設は、法令上の義務の履行を迫られた東京都と、都との「連携」をアピールしたい前川区長が講じた“窮余の一策”だった――前回の記事で、こう書きました。
“窮余の一策” だったということは、もちろん、それが意味がないとか、後ろ向きだということを意味するものではありません。法令に違反する事態を解消することは、当然とはいえ切実で大切なことです。また、これまで新宿まで通わなければならなかった負担を考えれば、身近な練馬に児童相談所ができることは歓迎すべきことです。
しかし、計画されている練馬児童相談所は、“窮余の一策”ゆえの様々な限界も抱えています。

最大の課題は、都立練馬児童相談所には「一時保護所」がない(併設されていない)ということです。

児童相談所と一時保護所

「一時保護」とは何か。厚生労働省の『一時保護ガイドライン』にはこうあります。

児童福祉法第33条の規定に基づき児童相談所長又は都道府県知事、指定都市の長及び児童相談所設置市の長が必要と認める場合には、子どもの安全を迅速に確保し、適切な保護を図るため、又は子どもの心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、子どもを都道府県等が設置する一時保護施設に保護し、又は警察署、福祉事務所、児童福祉施設、里親その他児童福祉に深い理解と経験を有する適切な者に一時保護を委託することができる。

「子どもの安全を迅速に確保」すること、もしくは子どもの置かれている状況を把握することを目的として、子どもたちを一時的に保護するための場所が「一時保護所」です。『ガイドライン』は「緊急保護とアセスメント」、そして「短期入所指導」を行う場所と位置づけています。一時保護は、児童養護施設などの第三者に委託する場合もありますが、一時保護所での保護が基本になります。
一時保護は、児童相談所長や設置自治体の長が職権をもって子どもたちを通常の養育環境からあえて引き離す行為(「行政処分」)であり、原則2か月以内という短期間とはいえ、子どもたちを意に反して保護者から分離し、あるいはその自由を制約する面が常にあります。子どもたちの「最善の利益」を実現するための保護のあり方や手続きなど、もっとも厳しくまた困難な課題に向き合う中で児童福祉を担っていくのがこの一時保護(所)であり、それは児童相談所業務の核心の一つでもあります。

しかし、新たに開設される都立練馬児童相談所にはこの一時保護所がありません。できるのは「相談部門」だけ。これが都の計画です。

児相の区移管と「一時保護所」

都道府県が児童相談所を設置する場合は、それぞれの児童相談所には「必要に応じ」一時保護所を設けなければならない(児童福祉法)とされています。「必要に応じ」ですから、すべての児童相談所に一時保護所を置かなければならないわけではありません。実際に、2021年4月時点で全国には225の児童相談所がありますが、一時保護所の数は145ヶ所です。つまり、3分の1の児童相談所には一時保護所はありません。

東京都は現在、10ヶ所の児童相談所を設置しています。これに対して、一時保護所は今年度は8ヶ所、定員にして250名です。ただし、8ヶ所といってもうち3つは児童相談センターにあります。新宿にもう一つ。あとは足立、江東、立川、八王子です。つまり、一時保護所を併設しているのは10ヶ所の児童相談所のうち半分だけということになります。1400万都民に対して児童相談所が10ヶ所しかないこと自体があまりに少なすぎましたが、一時保護はさらにそれ以上に「広域的」に処理されてきたわけです。

都は、管轄区域の適正化のために練馬に児童相談所を作ることは決めましたが、練馬に一時保護所が必要だとは考えませんでした。それは、都全体を「広域的」に見れば、一時保護所の新たな整備が差し迫った課題であるとは考えていないからです。
都の一時保護所はここ数年、苦労して定員を増やしてきてはいますが、それでも慢性的な定員超過状態です。都立児童相談所の入所率等はこうなっています。

すべての施設を合わせ、しかも通年で計算しても100%を超える。日によって、施設によってはまさに超過密状態になっているはずです。それでも都が一時保護所の新設を考えない背景の一つは、区立の児童相談所が次々と生まれる中で、一時保護所の数自体が確実に増えていくからです。

広がる「区立」の一時保護所

都道府県の児童相談所については、一時保護所は「必要に応じ」て併設すればよいこととなっていることは先に紹介しました。実は、23区も含む「市」が児童相談所を設置する場合は、一時保護所の併設が原則となっています。

児童相談所設置市に設置された児童相談所については、原則として一時保護所を設置するものとする。  (『児童相談所運営指針』)

2020年度の世田谷、荒川、江戸川の3区を皮切りに、区立の児童相談所が毎年、新たに開設されています。これら区立の児童相談所には、すべて一時保護所が併設されています。3区の分だけで定員は71名にもなります。区立の3つの児相だけで、都立の一時保護所の総定員の3割にもなります。一時保護所の基盤という点で児童相談所の区移管の進展がいかに大きな意味を持ったか、改めて実感できる数字です。上の表で平均入所日数が増えているにもかかわらず入所率が10%近くも下がった、つまり入所の実人数が大きく減ったのは、この区立児相の一時保護所開設のおかげです。
これからも、区立の一時保護所は確実に増えていきます。一時保護が必要な子どもたちが今後、さらに増えて行ったとしても、それでも都は、みずからの(都立の)一時保護所を増やさずとも何とか乗り越えられると判断しているはずです。都立練馬児童相談所に一時保護所を併設しようとしなかったのは、まずはこの事情があります。

今後、一時保護所は区立の児童相談所に併設されるものを基本に整備が進んでいくことになりそうです。しかし、そうだとすれば、練馬の子どもたちのための一時保護所は練馬にはできないということになってしまいます。なぜなら今、練馬区(前川区長)は絶対に都立がよい、区立の児童相談所などありえないと頑固に言い張っているからです。
練馬の子どもたちの一時保護は「広域的」に、つまり練馬以外に設置された都の一時保護所で対応するしかありません。少なくとも前川区政が続く限りは。  (続く)

第5回 『建物は”間借り・又借り” ~児童相談所は「区立」で!(5)~』

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