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建物は”間借り・又借り” ~児童相談所は「区立」で!(5)~

都が新たに設置しようとする練馬児童相談所は、”窮余の一策”ゆえの悲しさか、様々な限界、課題を抱えながらの出発になりそうです。一時保護所がないというだけではありません。実は、何とも危なっかしい綱渡りの中で整備されようとしています。練馬児童相談所は間借り、それも又借りしての間借り、なのです。

区が借りた建物を”又借り”

都立の練馬児童相談所は、今、練馬区の子ども家庭支援センターが入っているビルに整備されます。このシリーズの第3回で触れたように、このビルは練馬区が民間の方から賃貸借しているものです。都は、区が借りている施設を”又借り”することになるのです。
行政が設置する公の施設、それも事業の継続性、安定性がとても大切な児童相談所のような施設を、都がみずから貸借するのならまだしも、他人=練馬区が借りている施設を使わせてもらいながら設置するというのはほんとうに異例なことです。おかげでずいぶんおかしなことも起きています。

これは、2022年度予算のプレス発表資料の一部です。ただし、東京都の予算ではありません。練馬区の予算です。
不思議だと思いませんか? なぜ練馬区の予算に都立の児童相談所の開設準備が出てくるのでしょう。なぜ練馬区の予算で、都立の児童相談所のために1,100万円もの支出が計上されているのでしょう?

実は、こうなっているのです。

都立練馬児童相談所が入る施設は、練馬区が民間からお借りしているものです。児童相談所が入るスペースも、練馬区が借りている建物部分の一角になります。賃貸契約の当事者はあくまで練馬区であり、都ではありません。都は、区からいわば又借りすることになります。
契約者が練馬区である以上、児童相談所を整備するための内装やレイアウトの変更も、大家さんの了解を得て練馬区がやるしかありません。そこで、こういう形にしたようです。①練馬区と東京都の間で協定等を交わし約束事を決める、②練馬区が練馬区の予算で設計等を行う、③②の費用は都が別途、清算する、と。設計だけでなく改修工事もすべて同様の方法になるのか、また協定書はどういう中身になるのか、まだ確定的には決まっていないようですが、大枠はこんな感じです。

練馬児童相談所は、自分で持っていないだけでなく、自分で借りてもいない建物の中で事業を始めなければなりません。お金の清算だけなら、なんとかなるでしょう。しかし、実際に児童相談所が開設しても、施設面での一つ一つの課題で都と区の間での調整や整理が必要になります。不安定きわまりない運営です。

貸借契約は10年間。あとは2年ごと…

しかも、”又借り”というだけではありません。練馬児童相談所が入る建物は、賃貸借期間がたった10年なのです。

建物の賃貸借契約書を取り寄せてみました。練馬区と建物のオーナーとの契約です。建物全体の賃貸借面積は1352.68㎡となっています。練馬区子ども家庭支援センターが700㎡を使っていると区は説明していますから、2階の練馬区総務課統計係、そして3階の文化振興協会がすんなり立ち退くとしても、単純計算で児童相談所は区の子ども家庭支援センターと同程度の規模にしかなりません。世田谷区立の児童相談所は一時保護所とは別棟ですが、専用フロアの面積は1800㎡近く。江戸川区立児童相談所は一時保護所と一体型ですが、あわせて4000㎡を超す床面積があります。練馬児童相談所は、おそらくは最低限の相談機能に特化した、なんとも小ぶりで地味な児童相談所です。

契約によると、賃貸借期間は2020年7月1日から2030年6月30日までの10年間。そして、それ以後は2年ごとに更新する、となっています。
都の説明では、練馬児童相談所は令和6年度、つまり2024年度に開所予定となっています。ということは、開所から契約の更新期限の2030年までたった6年しかありません。いくら”窮余の策”だとは言っても、また、いくら管轄区域の「適正化」が差し迫った課題だと言っても、6年後には契約の更新をしなければならなくなる施設を児童相談所にするというのはさすがに安易ではないか?
地域に根も足も窓口も持たない都にとって、新たに児童相談所を作る、そのための場所を探すことはとてもしんどいのだと思います。そしてもちろん、契約の更新は十分に可能だと判断しているのでしょうし、契約期間を見直すことだってありうるでしょう。しかし、それにしても綱渡りです。

都としては、こういう異例な形ででも、とりあえず練馬に児童相談所を作るしかなかったということかもしれません。なにしろ管轄人口の基準に関する法令違反の事態を解消しなければならないのですから。「広域行政」の大義名分のもとに、児童相談所が巨大人口を抱え込むに任せてきたこれまでのツケを、今、私たちは払わされようとしているのです。

練馬児童相談所は、一時保護所が併設されていないという意味でも、そして”間借り・又借り”という不安定な施設環境のもとにあるという点でも、とても中途半端で過渡的な性格を持った施設になりそうです。しかし、都立練馬児童相談所がもし過渡的なものでしかないのだとしたら、その先の道を考えたらどうでしょう。そう、区立の児童相談所の準備を始めるという道を。 (続く)

→ 第6回 着実に進む”区移管” ~児童相談所は「区立」で!(6)~

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