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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

「明け渡し停止」の仮処分! ~石神井駅前再開発~

石神井公園駅南口西地区の市街地再開発事業をめぐっては、2022年8月、地権者や地域住民が再開発組合設立認可の取り消しなどを求めて認可権者である東京都を提訴、東京地裁で審理が続いています。
事業は、今年の2月に権利変換計画が認可され、3月15日が法に基づく明け渡し期日になっていました。再開発地区内の権利者は、この日までに土地・建物などを再開発組合に明け渡さなければならない、そんな期日です。これに対し、原告側は訴訟の判決まで明け渡し処分の執行などを止めるよう、2月20日に仮処分を申請、それに対する裁判所の判断が3月13日に出されました。

結果は、マスコミ等でも報道されている通り、原告の申請を認め、5月16日に予定されている本訴の判決から3か月を経る日まで、明け渡し等の執行を停止するというものです。市街地再開発事業において同様の仮処分が認められたケースはないのではないかと言われるほど、画期的な意味を持った決定です。

決定の評価はまた改めてとして、まずは決定書中、裁判所の判断の部分を再録します。決定そのものよりも、その根拠となった裁判所の判断の方がさらに重要であり、その内容は本訴の行方にも深く関わるように思われます。ぜひご覧ください。

※本文のテキスト化は本記事作成者。決定書中、参照文書番号は省略

決定書の全文pdfは、石神井まちづくり訴訟サポーターズの公式サイト こちら に掲載されています。

仮処分決定書 「当裁判所の判断」

第1申立てについて

※第1申し立ては、明け渡し処分の停止を求めるもの。そのうちすべての権利者に係る処分の停止を求めるものが「主意的申立て」、訴えを起こした地権者に係る停止を求めるものが「予備的申立て」。

(1) 主位的申立てについて

申立人は、相手方再開発組合が施行地区内の土地又は当該土地に存する物件を占有している者に土地の明渡しを求めることの停止を求める。
しかし、施行地区内の土地又は当該土地に存する物件を占有している者であって申立人ではない者に対して、相手方再開発組合が土地の明渡しを求めても、申立人に重大な損害が生じるということはできない。
したがって、主位的申立ては、手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるということはできないから、理由がない(申立人に対して土地の明渡しを求めることの停止を求める部分については、後記(2)で予備的申立てについて判断するとおりである。)

(2)予備的申立てについて

ア 申立ての内容及び本案事件との関係
申立人は、本件各土地又は本件各土地に存する物件を占有している者に土地の明渡しを求めることの停止を求める。
この点、本件設立認可処分により、相手方再開発組合が本件再開発事業の施行者となり、その施行のために、本件各土地又は本件各土地に存する物件を占有している者に土地の明渡しを求めているのであるから、この土地の明渡しを求めることは、本件設立認可処分の手続の続行の一部を成すというべきである。
そして、本件各土地又は本件各土地に存する物件を占有している者は現時点において、本件各土地を所有する申立人であり、それが変更される事情も見当たらない.
そこで、以下、本件再開発組合が、申立人に土地の明渡しを求めることを停止すべきかについて検討する。

イ 重大な損害を避けるため緊急の必要があるか
申立人は、本件各土地上の建物に80年以上にわたって居住し、歯科医院を営んできたものであるから 、本件各土地の明渡しにより慣れ親しんだ生活環境や地域社会との密接なつながりを失うことになる。
申立人は、近隣地区に転居可能であって、また、新たに建築される建物の区分所有権を取得し、そこに居住することができるものの、本件各土地において歯科医院を営む申立人が近隣地区において同様の事業を継続するのは容易ではないし、新たに建築される建物に居住できるようになるのも約 4年後である。このように慣れ親しんだ生活環境や地域社会との密接なつながりを失うことによる損害は自己の居住する場所を自ら決定するという居住の自由(憲法22条1項)に由来して発生する居住の利益に係るものであって、純粋な財産的損害とは異なる面があるから、同利益が一度失われた場合の損害の回復が容易であるとはいい切れない。そして、本件再開発組合は、申立人に対し、令和6年3月15日までに本件各土地を明け渡すことを求めており、本件各土地の明渡しが完了すれば、その後は特段の障害もなく既存建物の解体工事等まで進み、申立人における上記損害が一挙に現実化することとなるのであり、このことは、申立人に発生する損害の程度の問題として勘案されるべきである。
また、本案事件(令和6年5月16日判決言渡し予定)において申立人が取消しを求めている本件設立認可処分は本件変更後地区計画を前提とするところ、地区計画制度は、地域に密着した計画プランであって、関係権利者らの理解、合意を得ながら進めるべきものであるほか、本件再開発事業の施行区域は約0.6haであり、本件再開発事業の施行により環境が整備されるのも石神井公園駅南口西地区にとどまるのであって、本件設立認可処分のこのような内容及び性質も勘案する必要がある。
以上によれば、申立人が被る損害は、重大なものと評価すべきである。
そうすると、申立人は、令和6年3月15日に予定されている本件土地の明渡しにより、重大な損害を被るものといえるから、予備的申立てについては、手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるというべきである。

ウ 本案事件について理由がないとみえるか
申立人は、本案事件において、本件設立認可処分は本件変更後地区計画を前提とするところ、本件変更後地区計画への変更決定(本件変更決定)は、建築物の高さの最高限度に係る制限を緩和した点で違法である旨主張している。
地区計画の変更決定に係る判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量に委ねられ、裁判所が地区計画の変更決定の内容の適否を審査するに当たっては、当該変更決定が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り裁量権の常囲を海脱し又はこれを濫用したものとして違法となると解される。
この点、申立人は、本件変更決定は、駅前商業地区Aにおける建築物の高さの最高限度を、高度利用地区の指定を受けられれば無制限にするものであって、本件変更前地区計画において定められた制限を大幅に変更するものであり、練馬区景観計画に定められた景観形成基準にも反すると指摘するところ、申立人の同指摘を踏まえれば、現段階においては、本件変更決定に係る練馬区の判断が上記の各場合のいずれにも当たらないとまではいえない。
したがって、本案事件である本件設立認可処分の取消請求について、理由がないとみえるということはできない。

エ 公共の福祉に重大な損害を及ぼすおそれがあるか
本件再開発事業の施行区域は約0.6haであり、本件再開発事業による直接の利害関係者は、土地所有者18人、借地権者6人にとどまると一応認められる。また、本件再開発事業が石神井公園駅南口西地区の環境整備につながるものであったとしても、本件再開発事業は高さ100mの高層ビルの建設を可能とするものであり、石神井公園からの眺望の中で突出しないよう高さを抑えるという景観形成基準との抵触も間題となる。そうすると、本件再開発事業の施行の停止をもって、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると直ちに評価できるかについては疑間がある。
さらに、本案事件の第一審判決の言渡しの期日として、明渡しの期限日の約2か月後である令和6年5月16日が指定されており、上訴審の審理期間を考慮しても、本件再開発事業の施行が一時的に停止される期間は長いものとはいえない。加えて、施行地区内の土地のうち本件各土地を除く部分については、既存建物の解体工事などの本件再開発事業の施行が妨げられるものではない。
したがって、申立人に土地の明渡しを求めることの停止により、本件再開発事業の施行が一時的に停止されたとしても、それをもって公共の福祉に重大な損害を及ぼすおそれがあるということはできない。

オ 小括
したがって、相手方再開発組合が、本件各土地または本件各土地に存する物件を占有しているもの、すなわち申立人に土地の明け渡しを求めることについては、これを停止するのが相当である。(以下、略)

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