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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

都、33年ぶりの児相新設へ ~児童相談所は「区立」で! (1)~

東京都が、「練馬児童相談所」を2024年度に開設する方針を公表しました。都立の児童相談所の新設は、1991年に世田谷児童相談所を開設して以来、33年ぶり。この話題の“練馬児相”について、少し詳しく書いてみようと思います。なぜ今、「都立」の児童相談所なのか。そして私、池尻成二はなぜ「区立」の児童相談所を求めているのか。

基本的な立場

何回かのシリーズになりそうですので、あらかじめ私の基本的な立場を書いておきます。

①都が練馬区内に児童相談所を設置するのは、何よりも、児童福祉法改正で新たに設けられた管轄区域に関する基準を守ることを迫られたからである
②都立練馬児童相談所の設置は、管轄区域の適正化をはかり、また地理的に身近になるという点で、練馬の児童相談体制の改善につながるものである
③他方で、設置される都立練馬児童相談所は、一時保護所が併設されないこと、建物も“仮住まい”であることなど、児童相談所としては様々な課題、限界を抱えている
④練馬における児童相談体制の充実のためには、抜本的には一時保護所を併設した区立の児童相談所の設置を目指すべきである
⑤児童相談所の区移管は着実に実績を重ねつつあり、23区で唯一、しかも頑迷に区移管に反対し続けてきた前川区長の主張は破綻している

それでは、シリーズを始めます。

都はなぜ練馬児童相談所を作るのか

なぜ練馬児童相談所を作ることになったのか。東京都の予算資料を見ると、こう書かれています。児童相談所を所管する福祉保健局が局としての予算要求をまとめるにあたって作成したものです。

「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」及び「児童福祉法施行令及び地方自治法施行令の一部を改正する政令」等を踏まえ、以下の通り、管轄区域の適正化を図るため、都立児童相談所の設置準備に係る予算を要求する。
1 練馬区への児童相談所設置
児童相談所と子ども家庭支援センターがより緊密な連携の下で児童相談に対応できるよう、練馬区子ども家庭支援センターと同一建物内に都立練馬児童相談所(仮称)(相談部門)を設置するための工事実施設計に係る経費を支出する。
2 多摩地域への児童相談所設置
多摩地域に都立児童相談所を設置するために、施設規模や設置場所、設置形態等に関する調査検討を実施する。

実は、今回、新たな児童相談所設置に向けた予算が計上されたのは練馬児童相談所だけではありません。この福祉保健局のペーパーにあるように、もう一つ、多摩地域にも新たな児童相談所を作る方針が明確にされたのです。長く児童相談所の新設をしてこなかった、それどころか施設の集約を進めてきた都の児童相談行政の大きな、歴史的と言ってもよい転換です。そして、その目的は何よりも「管轄区域の適正化」でした。背景にあるのは、ここに書かれているように児童福祉法の改正です。

東京都練馬児童相談所が入る予定の建物(豊玉ビルディング)。練馬区が3階建ての建物全部を借り上げており、1回が子ども家庭支援センター。2階と3階に都の児相が入ることに。
管轄区域「50万人」が法定基準に

児童福祉法の2019年改正は、とくに深刻化する児童虐待への対応などを柱とした大きな改正でしたが、その中で児童相談所の管轄区域の「基準」を定める条文が新たに付け加えられました。12条の2項です。

第12条 都道府県は、児童相談所を設置しなければならない。
②児童相談所の管轄区域は、地理的条件、人口、交通事情その他の社会的条件について政令で定める基準を参酌して都道府県が定めるものとする。

この法改正を受けて、管轄区域の基準を委任された政令(児童福祉法施行令)は、次のように改正されました。

児童福祉法施行令及び地方自治法施行令の一部を改正する政令
第1条の3 法第12条第2項の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 一又は二以上の市町村の区域であつて、児童相談所と市町村及び学校、医療機関その他関係機関とが相互に緊密な連携を図ることができるよう、管轄区域内の主要な関係機関等の利用者の居住する地域を考慮したものであること。
二 児童相談所が児童虐待の予防及び早期発見並びに児童及びその家庭につき専門的な知識及び技術を必要とする支援を適切に行うことができるよう、管轄区域における人口が、基本としておおむね50万人以下であること。
三 管轄区域における交通事情からみて、法第25五条第1項の規定による通告を受けた場合その他緊急の必要がある場合において、速やかに当該通告を受けた児童の保護その他の対応を行う上で支障がないこと。

児童相談所が管轄する区域は 「人口が、基本としておおむね50万人以下」でなければならない、と。この条文にある「おおむね」という表現の解釈については、さらに厚労省の通知で次のように説明されています。

「児童福祉法施行令及び地方自治法施行令の一部を改正する政令」の公布について(通知)
「おおむね50万人」との規定は、児童虐待相談等によりきめ細かく対応していくことが求められていること、国において中核市等への児童相談所の設置支援を行っていること、児童相談所の設置の基準に関するワーキンググループにおいて、管轄人口が100万人を超える児童相談所では対応件数が膨大になるとの指摘がされたこと等から、管轄人口20万人から100万人までの範囲が目安となる趣旨であり、これを踏まえて積極的に管轄区域の見直しを検討されたいこと。これは、管轄人口20万人を下回る児童相談所の設置を妨げるものではなく、また、管轄人口100万人以下の児童相談所が存する地域についても、児童相談所の新設等により管轄人口をおおむね50万人以下とするような管轄区域の見直しを積極的に検討されたいこと。

児童相談所の管轄区域は「おおむね50万人」、目安としては管轄人口20万人から100万人までの範囲に。こういう「基準」が新たに示されたのです。
これまで、児童相談所の管轄区域については法令の基準はありませんでした。しかし、これからはこの新たな基準を満たさない児童相談所は“違法状態”に置かれることになります。法改正は2019年、この管轄区域に関する条文の施行は2023年4月1日です。もうすぐです。そして、この基準を何とか守るために本当に大わらわで都が打ち出した対応の一つ、いや柱が、練馬児童相談所の設置だったのです。 (続く)

第2回『練馬を切り離すしかない… ~児童相談所は「区立」で!(2)~』

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