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“アンパンマン”とはわけが違う ~としまえん跡のスタジオ施設~

としまえん跡地、石神井川北の一帯9haで建設されようとしているハリー・ポッターのスタジオツァー施設。まちづくり条例の手続きが進み、正式な協議申請ののち、1月6日付で近隣住民などからの意見書に対する見解書が事業者から提出されました。見解書には、気になるところがいくつもあります。ここではその一つ、建築用途に関する見解を取り上げます。

たとえば、「周辺が第一種低層住居専用地域であることも踏まえ…規模も内容も、ほとんどの住民が『これは博物館なんだ』と思えるようなものであるべきです」という意見。事業者の見解はこうです。

本計画の建築用途分類としては博物館法における登録博物館ではないものの、それと同種の機能を有する施設であるとの認識で建築基準法施行規則別紙の「博物館その他これに類するもの」と考えております。なお、参考までに博物館その他これに類するものとして、本計画の類似建築物と考えられる例としては、「横浜アンパンマンこどもミュージアム/主用途:博物館その他これに類するもの」などがあるものと理解しています。

類似施設として「横浜アンパンマンこどもミュージアム」がある。規模も大きいし、キャラクター展示だし、営利企業の施設だし…事業者としては、実例、先例のつもりで挙げたのでしょう。しかし、これはちょっといただけない。アンパンマンが泣いてしまいそうな、牽強付会というものです。

「横浜アンパンマンこどもミュージアム」は、横浜市西区みなとみらい6-2-9。横浜市の湾岸、広大な埋め立て開発区域の一角にあります。とにかく一度、googleマップででも現地の様子を見てみてください。当該地は「商業地域」。建築基準法の用途地域の中でも、最も規制の緩い地域です。ミュージアムの西側には幅16mの、南側にはなんと幅30mの道路が走っています。自動車交通の便は、抜群。そして、周辺には民家は…ない。

一方、としまえんの跡地にできる“ハリーポッター”の方は、向山、春日町の低層住宅街に取り囲まれた中にあり、当該地自体も住居地域です。いくらかでも大きな道路といえば、東側のとしまえん通りくらい。周辺環境は全く——隔絶して違います。周辺住環境と調和したものであるべきというのは、建築基準法の用途規制の大きな原則です。それなのに、こんなに異なる環境にある施設を「類似施設」として引いてくるとは、いったいどんな感覚なのか。不思議です。

しかも、事業活動や建築・開発行為としてはとても厳しい、制約の多い周辺環境であるにもかかわらず、実はハリー・ポッター施設の方が周辺への影響は逆にはるかに甚大ではないかと思える計画になっています。
たとえば、“アンパンマン”の方は建築面積が4,632.63㎡。“ハリー・ポッター”は、なんとその6.9倍にもなります。営業時間を見ると、“ハリー・ポッター”の方は、協議申請書に記載された計画では開店9時、閉店22時、駐車場の利用時間は8:00~24:00となっています。一方、“アンパンマン”の方はと言えば、ミュージアムが10:00~17:00、ショップ&フード・レストランが10:00~18:00です。いやいや、こんなに条件の違う施設を「類似」だと言われてしまったら、“アンパンマン”は泣いてしまう…。

「横浜アンパンマンこどもミュージアム」は、確かに「博物館その他これに類するもの」として建築確認がおりています。厳密にいうと、用途は「美術館」となっていますが、美術館として博物館法に基づく指定を受けているわけではなく、あくまで「その他これに類するもの」としての用途です。ただ、一言付け加えると、アンパンマンをテーマにしたミュージアムの創始、“本家”ともいうべき≪やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム≫は、まぎれもない美術館なのです。こちらは、高知県香美市立の公の施設。博物館法に基づく相当施設として、高知県の指定をきちんと取っているそうです。学芸員も置かれ、やなせたかしという魅力的な作家の業績を広く取り上げた質の高い美術館になっています。少なくとも、日本国内での法的な位置づけ、文化芸術上の評価という点でも、“ハリー・ポッター”の類似扱いされたら“アンパンマン”はかわいそうです。
   ➡やなせたかし記念館アンパンマンミュージアムの公式サイトは こちら

高知県香美市立『やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム』のパンフレットから

としまえん跡の地域にふさわしい用途ではないのではないか? こんな疑問、批判を受けて、事業者も先例、実例を探したのでしょう。しかし、「横浜アンパンマンこどもミュージアム」を引き合いに出してきたのは、決して賢明なことではなかったと言わざるを得ません。もっとも、ここくらいしかなかったのかもしれません——営利企業が、営利的な事業として営む大規模な集客施設を、「博物館その他これに類するもの」として建設したケースは。

としまえん跡に“ハリー・ポッター”のスタジオ施設を造る計画は、やはり無理があります。

コメント

  1. 井上和代 より:

    「採算」重視の方向が第一なんでしょうね。
    「住民」のための心地よい場、安全で 「ここで暮らしたい❗️」と思える場にしたいと考えてみてほしいものです。

  2. 野木千珠 より:

    ハリーポッターの様な流行ものには興味ないので自分は行かなければいいとだけ思っていました
    そんな私自身を今恥じています 何の考えもなく豊島園の樹木を伐採したのなら自然との共生を
    まったく無視した魔法の学校なんて真逆の流行遅れです
    せめて幻想の世界の建物が災害時には皆の(入園者 近所の人…)ノアの箱舟になる様な構造や創意工夫はしてほしい コンペとかあったのだろうか…不勉強で話がそれました