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「待機児童」はどうなっているのか (続き)

保育所等を希望しながら入れなかった人が「665人」。他方で、区が正式に発表した待機児童数は「11人」。この大きな落差の中に、実は子どもの預け先を求める保護者と区との温度や認識の差が幅広く横たわっているかもしれません。

665人と11人の違いがなぜ生まれるか。議会の委員会に出された資料を拾ってみました。

これは待機児童が出た1歳児のところを抜き出してみたものですが、保育所等へ入れなかった子どもの数は335人。そこから①認可外保育施設に入った数76人を引き、②「他に利用可能な保育所等がある場合」の数218人を除き、最後に③育児休業中で当面、復職の意思のない人として30人を除く。その結果、「11人」になるというものです。これらは、国が『待機児童調査実施要領』で示している待機児童の「定義」 に基づくものと説明されています。

まず、①について。

ここに言う認可外保育施設に何が含まれるかは、『要領』にはこう書かれています。

・庫補助事業による認可化移行運営費支援事業及び幼稚園における長時間預かり保育運営費支援事業
・特定教育・保育施設として確認を受けた幼稚園又は確認を受けていないが私学助成若しくは就園奨励費補助の対象となる幼稚園であって、一時預かり事業(幼稚園型Ⅰ・Ⅱ)又は預かり保育の補助を受けている幼稚園
・企業主導型保育事業
・地方公共団体が一定の施設等の基準に基づき運営費支援等を行っている単独保育施策(保育所、小規模保育事業、家庭的保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業に類するもの)

ちょっとわかりにくいですね。区の所管課の説明をもとに具体的に該当するものを拾ってみると、認証保育所、練馬子ども園などの幼稚園あずかり保育、1歳・3歳の1年保育、企業主導型保育が含まれることになります。
これらの認可外保育は、今では区の補助などで保護者負担もずいぶん軽減されるようになりましたが、それでも認可保育に比べれば負担が重くなりがちです。特に幼稚園の預かり保育を使った場合は保育の経費以外に入園料等、様々な支出が付いてきます。また、保育環境も、認可保育所に比べると人的にも空間的にも厳しい場合が少なくありません。認証保育所で園庭があるところはほとんどありません。1年保育では、来年度以降の保育の保証自体がまったくありません。”やむなく”認可外を利用する人が大半であると思われるのに、その人たちが待機児童の数から除外される、したがって整備が必要な保育定員数から外されるのはなんとも理不尽です。

②「他に利用可能な保育所等がある」というのも、大きな問題をはらんでいます。
この要件も国が示したもので、『要領』にはこう書かれています。

6. …保護者の意向を丁寧に確認しながら、他に利用可能な保育所等の情報の提供を行ったにも関わらず、特定の保育所等を希望し、待機している場合には待機児童数には含めないこと。

※ 「他に利用可能な保育所等」とは、以下に該当するものとすること。
(1) 開所時間が保護者の需要に応えている。(例えば、希望の保育所等と開所時間に差異がないなど。)
(2) 立地条件が登園するのに無理がない。(例えば、通常の交通手段により、自宅から20~30分未満で登園が可能など、地域における地理的な要因や通常の交通手段の違い等を考慮した上で、通勤時間、通勤経路等を踏まえて判断する。)
なお、には、4.の(1)から(3)及び7に掲げる事業又は施設を含むこととする…。

「他に利用可能な保育所等」には、上で紹介した認可外保育所などがそのまま含まれます。これらの認可外の保育施設・事業についても、それが保護者の利用する保育時間に対応しており、かつ「立地条件が登園するのに無理がない」のにそこを利用しない場合は、待機児童としてカウントしないということになります。立地条件は考慮することになっていますが、練馬区の運用では距離が2km以内であれば「利用可能」と判断されます。この距離の考え方を保育課長が答弁しています。こんな感じです。

◎保育課長 ここでの距離の考え方でございます。厚生労働省の基準では、20分から30分程度で通園可能なというように言ってございます。これに対しまして、私ども練馬区では、時間的な距離に換算して概ね2キロメートルという基準を定めてございます。具体的には、いわゆる不動産屋で賃貸物件等のご案内をするときに、1分間につき80メートルという徒歩の大まかな目安があるかと思います。こちらを準用すると、例えば80メートル掛ける25分で2キロメートルという形になります。このあたりを概ねの距離と考えてございます。(2019.06.24)

2kmも離れた認可外の保育施設に空きがあったとして、そこを使わなければ「待機」じゃないと言われるとしたら、どうでしょう。2kmは大人の足でも30分。小さな子どもを連れて、自転車ならまだしも歩きで連れていくことがどれほど大変か…。それでも「利用可能」だなんて、ずいぶん乱暴な運用だと思えてなりません。こうして、認可外に入れても、入れなくても、待機児童には数えませんよ…ということになり、待機児童の数は見かけ上、どんどん減って見えてくるのです。

③は、希望する園等に入れない中で育休を延長することとしたというケースです。もともとは育休を切り上げて職場復帰をしようとして申し込んだはずです。復職をあきらめる過程で様々な葛藤や困難があったのではないかと思いますが、「復職意志」がなくなったということで待機児童の数字からは消えたことになります。しかし、育休延長を選択した親と子は、次の年には結局また、保育の利用を申し込むでしょう。ニーズは消えていないのです。これもまた、「隠れ待機児童」と言わざるを得ません。

「待機児童11人」は、見せかけの数字減らしを幾重にも重ねてやっと出てきた数です。本当に必要なことは、見かけの「待機児童」を減らすことではなく、保育が必要な子どもたちすべてに適切に保育の場を提供することです。基本を違えてはなりません。

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