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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

『覚書』から『協定書』へ ~練馬城址公園~ (下)

『協定書』の内容を紹介しながら、都と西武鉄道で合意した練馬城址公園整備の枠組みを見てきました。とにかく複雑です。
なぜ複雑になったのか。
一言で言えば、土地の取得についての整理ができないままに、解体や整備に入ろうとしているからです。
では、なぜこんなイレギュラーな整備の方法を取ろうとするのか?『協定書』に先立つ最初の協議の文書には、こう書いてあります。

「早期の整備、開園に向け、貴社と連携して既存施設の撤去設計・工事や公園の新規整備の設計・工事等を進めるため、別途協定を締結する。」

「早期の整備、開園」——これが大義名分です。所管のヒアリングでも、繰り返し「一日でも早く開園するために」という言葉が出てきました。
そりゃ、早く開園できるに越したことはありません。しかし、通常の事業の順番、つまりまずは土地の取得もしくは貸借を整理し、それから都がみずから責任をもって設計整備を進めるという順番をわざわざ崩してまで急ぐ理由は、それだけではないはずです。

公園はスタジオ施設の出入口?

気になっていることがあります。当初開園エリアの開園予定時期は2023(R5)年度。そして、ハリーポッターのスタジオツアー施設の開園予定が「2023年の前半」とされているのです。ピッタリ一致?
実は、スタジオツアー施設の入口は東側と南側に設けられることになっています。そのうち、東側のゲートはとしまえん通りの交差点に面しており、主としてバス等の出入り口として位置づけられているようです。他方、南側の出口は石神井川側に設けられるのですが、これがとしまえん駅からのお客さんのメインの通路となります。
スタジオツアー施設の説明会で配布された資料には、こんな図面があります。

2020年9月、『としまえん関連施設解体工事ならびに土地利用計画についての説明会』資料より

この図の下方、「としまえん駅からの人の流れ」という記載がある場所が南側のゲートです。そして実は、この橋は練馬城址公園のBゾーン「エントランスと交流ゾーン」にそのままつながっているのです。公園のBゾーンが完成しなければ、駅からのお客さんは遠回りしないとスタジオツアー施設に行けません。つまり、練馬城址公園の当初開園エリアが整備されることは、スタジオツアー施設開業の前提ということになります。
都が通常の整備の手順や流れを無視してまで公園エリアの解体と整備を急ぐ本当の理由は、これではないか。私はそう見ています。

なぜ西武鉄道に「特命」なのか?

しかも、開園を急いで無理を重ねたために、公園整備の在り方に疑念や疑問を抱かれる事態になっています。整備の中身が後回しにされていないか、そして税金の使い方がおかしくなっていないか?

当初開園エリアについては、既存施設の解体撤去だけでなく、新たな公園の設計整備も西武鉄道が「特命」でやることになっています。「特命」というのは、あらかじめ事業者を特定して行う契約の在り方で、競争入札を原則とする自治体の契約では例外的にのみ認められているものです。
当初開園エリアだけにしても、さまざまな提案を受け公開の場で設計を深めることがよい公園をつくるための欠かせない条件です。しかし、実際には”西武鉄道ありき”で話が動き出しています。西武鉄道はさらに事業を第三者に”下請け”に出すことが想定されています。都や都民、都議会から見れば、事業の透明性も競争性も大きな制約を受けてしまいます。

都の所管は、当初開園エリア以外の部分についての設計整備は、西武鉄道がやると決まっているわけではないと言っています。「当初開園エリア以外(2023年度以降)は、土地の貸借契約を前提に、東京都の事業として通常の公園整備方式で進める。ここは、西武鉄道ありきではない」と。当然のことですが、だとしたら当初開園エリアも同様であるべきです。このエリアは全体の公園の一部、むしろ表玄関としての「顔」とさえいえる場所です。あえて言えば、スタジオツアー施設の表玄関ではなく、都立練馬城址公園の表玄関です。コンセプトも、景観や形状も、公園全体の整備・設計と一体のものとして進めるために、都が直接、責任を負う形で、当初開園エリアの設計・整備の在り方も見直すべきではないでしょうか。

気になる税金の使い方

もう一つ、とても気になるのが税金の使い方です。

練馬城址公園整備事業全体でどのくらいの経費がかかるのか。事業認可申請の際に添えられた「資金計画書」の数字を単純に合計するとこんな感じになります。あくまで概算、見込みですが、事業の大きさが実感できます。

支出額
 用地費 755.2億円 / 土木費 21.71億円 / 建築費 39.4億円 / 植栽費 9.25億円
 計 830.56億円
財源内訳  
 国庫補助 26,538,731千円 / 一般財源 56,517,269千円

狭い土地に大きな建物を建てるわけではありませんから、支出の大半は用地費、つまり土地の購入費や解体工事費になります。とはいっても、それ以外のいわゆる工事費関係が約70億円。大きな公共事業であることは間違いありません。
一方、財源は約3割を国からの補助金で賄う計画です。社会資本整備総合交付金というメニューが基本になりそうですが、ヒアリングによると、こちらはまだ国との協議が終わっていないようです。残りは都みずからの財源です。基金を取り崩す、起債するといった方法もありますが、都立公園整備の際は一般財源を充てることが多いという説明です。

総額で800億円を超えるこの事業費のうち、今年度と来年度、つまり『協定』に基づいて行われる期間に予定されている支出はというと、こうなります。

2021-22年度の事業費見込み 
 用地購入費 / 200億円 解体・整備工事 / 46.2億円 物件補償 / 1億円

用地購入費200億円は当初開園エリアの土地の購入費で、2022年度予算に計上する予定です。解体・整備工事は、今年度は主として解体、来年度が主として整備。この中には、先に触れたように当初開園エリアだけでなく全事業区域の、したがってプールなども含めた解体工事費が含まれます。
2年分の合計が約247億円。事業費全体のほぼ3割がこの2年でつぎ込まれることになります。そして、支出先はすべて西武鉄道。気になるのは、用地費200億円を除く47億円です。

都立公園を整備する場合、普通は都が入札で事業者を選びます。しかし、練馬城址公園のうち少なくとも当初開園エリアの設計と整備工事、そして旧としまえん全区域の解体工事については、入札などの手続きなしで西武鉄道が事業者になります。工事費も、入札であれば事業者の競争で価格が決まります。しかし、今回は違います。『協定書』には都が支払う事業費の上限が「概算総額」として示され(開示資料では墨塗りになっています)、実際の支払いは各年度ごとの概算額(これも墨塗りです)の範囲内で、西武鉄道の資金計画書に基づいて分割で支払うことになっています。
概算事業費がどのように決まったのか所管は説明しませんが、西武鉄道の”言い値”で税金が出ていくことがないか、よほどしっかりしたチェックが必要です。

「物件移転補償」に1億円…

もう一つ、『協定書』に関連して交わされた『都市計画練馬城址公園の用地取得に伴う物件補償について(照会)』に基づいて、都は西武鉄道に「物件移転補償費」を支払う約束もしています。想定金額は1億円。
これが何のことかというと、下の図に示された建物の「移転補償費」なのです。

「物件移転補償」の対象となる建物リスト。出札(発券)の建屋が8棟、検札が1棟、店舗1棟。このほか西側のエリアに残っている倉庫も合わせて計11棟

これら11棟は、土地の売却もしくは貸借の契約以前に、西武鉄道の責任において除却されることになっています。そのための建物の「補償」が1億円? 物件移転補償の主な内容は、その物件が持っている価値に対する補償と物件の除却移転に伴う経費に対する補償です。西武鉄道は「移転」は考えておらず除却するとのこと。あの出札や検札の建物はそれはそれで思い出の詰まったものだとは思いますが、しかし、1億円もするんですね…。

としまえんの残した建物や工作物等は、原則としてすべて撤去するというのが現在の都の立場です。当初開園エリアにある上記の11棟については、土地の貸借契約の締結前に西武鉄道がみずからの責任において解体撤去し、その「補償費」を都が支払う。他方、それ以外の建物や工作物——当初開園エリアの外にあるプールや古城、そしてエリア内にある正門もそうですが、これらについてはすべて土地の貸借契約を交わしたのちに都の管理と責任において撤去することになっています。
前者については、貸借契約を待つ必要はないとはいえ、実際には物件移転補償の詳細についての約束事が交わされるまでは手を付けられそうにありません。後者については、土地の貸借契約が前提であり、この貸借契約はまた公園整備予定区域全体の土地取得に関する整理と不可分離でしょう。

としまえんの思い出とともに残された様々な建物や工作物等の取り扱いは、これから、都自身の責任において改めて判断をすることになります。実際に解体工事が動き出すまでは、まだいろいろな紆余曲折がありそうです。しっかりと都の判断を問うていきたいところです。

公園整備も『覚書』に引きずられて

長くなりましたが、『協定書』の枠組みは「早期の整備、開園」のためと言われていますが、実際には『覚書』が認めたスタジオツアー施設の計画に強く引きずられて出来上がった可能性が高いと言わざるを得ません。そして、この枠組みの下、よりよい公園整備をオープンな議論の下で進めること、そして透明で公正な税金の使い方に意を尽くすということが後回しにされてしまっているのではないか。これが私の問題意識です。
原点に立ち返り、都の責任で、都民とりわけ地域の皆さんとともに、広域防災拠点という本来の目的や歴史あるとしまえんの跡地を活かすにふさわしい公園整備を進めてもらいたいと強く思います。

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