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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

前川区政と「気候市民会議」

≪前川区政と「気候市民会議」≫という見出しを見て、えっ、前川区政が!? と思われた方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、前川区政が「気候市民会議」を設置する英断を下したということではありません。逆です。前川区政がむしろその流れをつぶした、そんなお話です。

浮かんで、消えた「区民討議会」

お隣の武蔵野市が「気候市民会議」を設置し、7月26日に第1回が開催されました。テレビや新聞でも報道され、注目が集まっています。この「気候市民会議」の原型になっているのが、いわゆる”市民討議会”です。もともとはドイツを中心に始まった市民参加の方法、形態で、ドイツ語で”Planungszelle”と言います。英語にすれば”planning cell”、計画をつくる細胞、でしょうか。市民社会の縮図(細胞)となるような会議体を作って、そこでの合意形成のプロセスを通して自治を高め、行政への市民参加を図るというものです。

実は、練馬区はこの”市民討議会”の設置に向けて動いたことがあります。8年前のことです。2014年度予算案に「仮称区民討議会経費」が盛り込まれたのです。

2014年度練馬区予算説明書より

当時、この予算を見て、私はほおっ! と思いました。練馬区政の中からはなかなか出てこない発想だと感じていたからです。もっとも、当時、区政改革推進条例が制定され、区の『行政改革推進プラン』の中にも、「区の政策づくりへの区民の参加・参画機会の拡充」としてこう書かれていました。

① 区の政策的な課題について、きめ細かく意見を聴取できるよう、年代や性別、地域等さまざまな区民の参加・参画を促す仕組みを導入します
(例)無作為抽出した区民委員

予算案に盛り込まれた「仮称区民討議会」はこうした流れを踏まえたものだったということになります。
予算案の提示を受けた2014年2月の区議会予算特別委員会で、私は、この「仮称区民討議会」の問題を取り上げました。何のために、どんな会議を組織しようとしているのか。確認を求める質疑です。

池尻成二委員 続けて、87ページ、行政改革推進経費。
 先ほど少し出ましたが、区民討議会の話で、何点かお聞きしたいと思います。
 今、練馬区は、区政改革推進条例で、大きく原則で区民意見の反映を立てているのですが、具体的には、公募区民の参加であるとか、あるいはパブリックコメント制度をやっていらっしゃいます。
 こうした既存の手法に加えて、あえて今回、区民討議会という手法を、試行とはいえ導入される趣旨、とりわけ、これまでの手法との違いについて簡潔にご紹介いただければと思います。

経営改革担当課長 まず経験的に申し上げまして、公募区民の仕組みでは、同一の方が複数の附属機関等の委員を経験される例があるように、参加に偏りが見られるという事実がございます。
 また、区民意見反映制度、パブリックコメントで寄せられるご意見ですとか、あるいは住民説明会でのご発言は、言ってみれば、強い意見をお持ちの区民の方の意見と言えるのではないかと思います。
 一方、アンケート調査のようなものにつきましては、設定された設問に対する、回答される方の個別意見の集計にとどまってしまうということが言われてございます。
 こうしたことから、無作為抽出した区民に参加を要請することで、練馬区という地域の社会の縮図をまず構成して、そこで、これまでのような行政と区民との質疑応答形式ではなく、参加区民による少人数グループの討議により意見の傾向を導き出そうと。
 これによって利害関係者や声の大きい人ではなく、これまで区政に声を届けることがあまりなかった、よく「サイレントマジョリティー」と言われる人たちの声を吸い上げる有効な手段となり得るものだと考えたところでございます。

池尻成二委員 これまで専ら声が大きい人がマイノリティーとして意見を出してきたとまで言われると、それは違うだろうと思いますが、ただ、大事なことは、区民のある種の縮図をつくって、そこでバランスのとれた構成の中で議論を熟成させていこうという姿勢は、私は大事だと思います。
 同時に、そのことを保障するために、1日幾らという一定の報酬をお支払いして、有償でお願いをするということも、これはすごく大事な話。時間と、お金の余裕がある方だけではなく、皆が等しく参加できるようにするという保障もあるわけです。
 そういうことも含めて、私は、これは大変注目しています。試行なので今の段階の考え方をお聞きしたいのですが。
 一つは、対象とする案件。
 いただいた資料ですと、「今後の計画策定時における活用を視野に入れ」とありますが、例えば、非常に漠たる行政計画を議論することもあってもいいのですが、例えば、このまちの、この施設計画をどう考えるかとか、このまちの、この道路をどうしようかという意味での事業計画ベースでの議論も、私はすごく意味があると思うのです。
 どういうことを対象として念頭に置いていらっしゃるかということが1点。
 もう1点は、この区民討議会の大事な点は報告書をとることなのです。
 報告書をとって、討議会としての一つのまとまった見解を出していただく。ということは、その報告書を受け取った練馬区が、それをどうしんしゃくし、どう受けとめ、受けとめないかについて、非常に大きな重い責任が問われてきます。
 この報告書の受けとり方、例えば報告書を尊重する。報告書を反映する。いろいろな言い方がありますが、どういう意味合いで、この報告書を受け取りになるか。
 以上2点についてお聞かせください。

経営改革担当課長 まず、討議するテーマでございます。
 平成26年度は、試行ということもございまして、多くの区民の皆様に関心を持っていただき、討議しやすいようなテーマ。
 まだ決まってはございませんが、例えて言えば、「練馬区の魅力を更に発信していくにはどうしたらいいだろうか」といったテーマでまず試行をやってみて、この制度の有効性を検証したうえで、その後、どのように展開するかということを慎重に検討したいと考えているところでございます。
 また、これの報告書の受けとめ方ということでございましたが、先ほどからお話に出てございます、ほかのさまざまな制度、パブリックコメントでありますとか、説明会での質疑でありますとか、意識・意向調査でありますとか、あるいはモニターアンケートでありますとか、そういったものに新たに一つつけ加える制度として考えてございます。
 そして、この制度は、いかに無作為によって選ばれた区民の方々に討議してもらうものとはいえ、これまでの既存の制度に比べて特別な位置づけを与えるものではなく、同列に参考として扱うというものを考えているところでございます。

池尻成二委員 もう時間がないので終わります。
 もともと、ドイツで「プラーヌンクスツェレ」という形で始まったときのこの会議の意味合いというのは、全然違います。
 あってもなくてもどうでもいいような会議ではないですから、そういう歴史的な経過も含めて、あるいはさまざまな各種の実践経験も踏まえて、ぜひ区民にとって、区民の参画が実態的に進むような企画にしていただきたい。
 お願い申し上げて終わります。

質疑の印象は、う~む、腰が引けている…というものでした。もともと行政改革推進プランでは、「見込まれる効果と指標」として「幅広い区民の参加・参画により、全体として平均に近い意見が得られる」とされているだけでした。区民の自主的な取り組み・アクションを作り出していく起点となる、あるいは行政の意思決定に区民の意思を反映させる効果的な手段となるといった視点は、とても希薄です。「平均に近いかどうか」、もっと言うと区政に批判的な区民が公募委員として関わってくることを嫌がるメンタリティが顔を覗かせているような区の答弁ではありました。

しかし、それでも新しい取り組みとして期待はしたのです。ところが、この「仮称区民討議会」事業は、結局、日の目を見ることもなくあっという間に予算書からも姿を消してしまいます。

補正予算で、事業抹消

2015年2月に開催された区議会第1回定例会に、区は2014年度予算の補正予算(第4回)を提出します。2014年度の最終補正予算ということになります。この補正予算で、「仮称区民討議会経費」169万6千円はまるごと、減額されます。

こちらがその補正予算の説明資料です。

練馬区2014年度補正予算の概要より

予算額がゼロになっても、事業自体は残り、次年度に引き継がれるということもよくあります。しかし、「仮称区民討議会」は予算上、ゼロにされただけでなく、事業自体が廃止されました。いや、「廃止」は正しくないですね、何しろ一度もやっていないのですから。なかったことにされたのです。事実、2014年度決算書には事業名の記載すらありません。

どういう経緯、理由で「仮称区民討議会」が消えたのか。議会で解明する機会がありませんでしたが、しかし、一つだけはっきりしていることがあります。それは、消したのが前川区長だということです。
2014年度予算は、前川氏の前任、当時の志村区長が編成したものでした。2014年2月に志村氏が急逝、4月の区長選挙で当選したのが前川氏です。前川新区長は、志村区政の下で進んできた事業やプランを就任初年度からいくつも大きく転換させましたが、この「仮称区民討議会」もその一つ、象徴的な一つでした。区政への区民の参加・参画に対して前川区長はとても冷淡な姿勢を繰り返し示してきましたが、そんな姿勢がここにも表れていたのだと思えてなりません。

武蔵野市の松下玲子市長は、気候市民会議の意義についてこう語っています。

市では、令和3年2月24日に「2050年ゼロカーボンシティ」を表明しましたが、その後も深刻化する地球温暖化を背景に、地球温暖化対策の動きは世界的に加速していることから、市においても、今まで以上に、市民、事業者、市が地球温暖化の問題を自らの問題として強く認識し、市と市民等が一丸となって対策に取り組むことが求められています。
そのため、市では、市民が地球温暖化対策について主体的に議論する場として、無作為抽出と公募による市民で構成された気候市民会議を発足し、運営を始める予定です。
そして、気候市民会議の議論を踏まえ、市民一人ひとりの環境配慮行動を示す気候危機打開武蔵野市民活動プラン(仮称)を作成するとともに、市民の意見を参考に支援等の取り組みを行うことにより、市民の行動を後押しし、市民と市が協働して地球温暖化対策に取り組んでいく機運を醸成していきます。(2022年3月記者会見資料)

かつて練馬区が「区民討議会」に触れようとした、その時のおずおずとした姿勢とはずいぶん違います。議会との関係、行政の関与と責任、会議自体の運営や組織の在り方など、懸案はたくさんありそうですが、貴重で魅力的な挑戦として、見守りたいと思っています。そして願わくば、練馬区でも多彩な“市民討議”の場が生まれてほしいものです。

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