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なぜ美術館「再整備」に反対するか

区議会第3回定例会の最終日、本会議での採決に当たって、3つの議案に関して討論に立ちました。先にこのブログで紹介した補正予算、2022年度の決算、そして美術館再整備計画の見直しを求める陳情※です。

※陳情第4号 練馬区立美術館建て替え等の再整備方針の見直し等を求める陳情
1 サンライフ練馬(東京中高年齢労働者福祉センター)の廃止を前提とした練馬区立
美術館の再整備方針を見直すこと。
2 再整備方針の全貌を明らかにし区民の納得と合意を得るよう最大限努めること。
3 練馬区立美術館再整備基本構想による美術館の改築費用を縮小すること。
4 練馬区立美術館の改築にあわせて一体的に整備する予定の貫井図書館については、工事期間中の代替施設の設置を含めた見直しを行うこと。
5 美術の森緑地についても、工事期間中の代替施設の設置を含めた見直しを行うこと。

美術館の陳情は、委員会では不採択(否決)となりました。私は、陳情の採択を求める立場から討論をしました。以下、討論の全文を紹介させてください。

説明抜きの、改修方針からの大転換

陳情第4号に賛成の立場から、討論を行います。

この陳情は、「サンライフ練馬の廃止を前提とした練馬区立美術館の再整備方針を見直すこと」などを求めるものです。
美術館・貫井図書館については、もともとは建て替えではなく、大規模改修が区の方針でした。もちろん、サンライフ練馬の建物を解体することは、想定されていませんでした。
2018年に策定された『公共施設等総合管理計画』では、美術館・貫井図書館は大規模改修を行い、隣接するサンライフ練馬は、解体ではなく「一部の機能転換」を図るとされていました。2年後の同・実施計画においても、サンライフについては「美術館の拡張によるスペースの活用」と記されているのみであり、その解体を前提にした美術館全面改築の方針は出てきません。

この方針が大きく転換したのは、2022年です。新しいアクションプランにおいて、初めて美術館を「サンライフ練馬の敷地とあわせて全面改築」すると明記されました。しかし、なぜ大きく転換したのかは、まったくわかりません。全面改築のメリット、デメリットは何か。とりわけ財政的な影響はどのようなものなのか。こうしたことが、総合的に、また透明なプロセスの中で検証・議論されることのないままの大転換です。
方針転換の経緯も、その詳細も、たくさんのブラックボックスがあります。バリアフリーや所蔵スペースに課題があるから、全面改築が必要と抽象的には言われますが、サンライフを残しつつの大規模改修ではどんな工夫が可能なのか、そしてどんな限界があるのか、具体的に示されたことはありません。
とりわけ多くの区民が危惧しているのは、いったいどれほど財政負担が膨らむのかということです。私は、きちんと比較できるように、当初の大規模改修での経費の試算を示すよう繰り返し求めてきましたが、区は応じようとしません。まったく不当なことです。
全面改築に必要な経費は、設計等を含めると、すでに80億円を超えると想定されています。今議会の補正予算で実施設計委託料が大きく増えたように、経費がさらに膨れ上がることは必至です。しかも、国や都の補助は当てにできそうにありません。これだけの莫大な税金を、しかも区の単費で支出するには、それ相応の理由と根拠、それ相応の理解と納得が不可欠であり、責任ある説明を尽くさないままに計画を強行する姿勢は、とうてい容認できるものではありません。

片隅に追いやられる図書館

さらに、設計業者の提案書を見ると、再整備があまりに美術館に偏重し、図書館がないがしろにされていると強い危惧を覚えます。
提案書によれば、エントランスから入った1階の一番良い場所に、ドンと美術館の収蔵庫が配置されています。建物の複雑な形状に加え、美術館機能の確保が優先されたために、図書館はまとまった平面的な空間を確保できず、階段状の書架、書架とカウンターの分離、段差だらけの構造など、図書館としての一体性や機能性は大きく損なわれています。
美術館も図書館も、本来、それぞれ固有の役割や意義をもった独立した公の施設です。両施設を一体的に整備することがあったとしても、それぞれの施設の固有の機能がないがしろにされてよいはずはありません。

美術館再整備の設計を受託した平田晃久建築設計事務所が作成した提案書から。子どもたちの本が置かれた書庫なのに、高さは背の高さの何倍も。高い台に上っている子どもたちがまったく無頓着に描かれている。バリアフリーや安全性といった基本的な課題すら、どこかに行っているのでは?

「『人の生きるはパンの上によるにあらず』。私は確信しています。文化芸術なくして人は生きられない。」(2023.2.20予算特別委員会)

区長は、美術館の再整備計画を批判する議員をまるで見おろすかのように、こう繰り返します。冗談ではありません。
文化を大切にするかどうかが問題になっているのでは、全くありません。サンライフをつぶし、図書館を隅っこに押しやってまで、富士塚もどきの建築物を建てる必要があるのか。
建築としてのデザインや魅力を高く評価する人もいますが、美術館、とりわけ基礎自治体の公共美術館は、建築デザインを競い合う場ではありません。いや、そもそも、文化は箱だけではありません。地域の文化をはぐくみ、区民の文化的な生活を豊かにするために、あえて言えば、「都市文化」ではなく、地に足の着いた「市民文化」を称揚することこそ、考えるべきです。
原点に返って透明な議論をやり直すことを強く求めて、討論とします。

陳情は、池尻成二(つながる市民・練馬)のほか、共産党、インクルーシブな練馬をめざす会、生活者ネット、れいわ新選組の賛成少数で否決となりました。

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