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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

「再開発ビル」は本当に「便利」なのか? ~石神井庁舎をどうする その3 ~

「駅前だから便利」は本当?

なぜ、石神井庁舎を駅前の「再開発」ビルに移転させるのか?

再開発事業を支援するため、とは区は決して言いません。区が「移転」を正当化する最大の理由は「駅前だから便利になる」というものです。たとえば、2021年の第1回定例会での所管課長の答弁です。

西部地域まちづくり課長
石神井庁舎の機能の一部を再開発事業による施設に移転することで、庁舎の建て替えや改修が必要になった際、仮移転によるご不便をおかけすることなく業務が継続でき、加えて駅前への移転により、区民の皆様の利便性の向上を図ることができると考えております。         

建て替えに伴う一時移転先、つまり仮設建物の問題について言えば、少なくとも区はこれまで仮設の建物の設置に伴う課題や経費の見通しについての具体的な説明を一切行っていません。実際には仮設は短期間の課題ですし、相次ぐ買い増しで十分にゆとりのある今の石神井庁舎の敷地を有効に使うことで区民サービスの低下を抑える手立てはいろいろありそうです。
むしろ区が、移転を正当化するために一貫して繰り返しているのが「駅前だから便利になる」という主張です。しかし、区民の実感からすれば、今の位置の石神井庁舎だって事実上、駅前商店街の一角を占めており、駅西口から歩いても200mちょっと。立派に「駅前」です。
もちろん、計画中の再開発ビルは駅西口の目の前になりますから、電車で来庁する人にとって、わずかな距離とはいえ今の庁舎よりも近くなることは確かです。しかし、来庁者は決して電車でばかり来るわけではありませんし、電車で来る人が主であるかどうかすら区は根拠を示すことができません。庁舎は富士街道に面しており、目の前には「石神井庁舎前」のバス停もあります。周辺から歩いて、あるいは自電車で来る区民はとても多いはずです。また、遠方からの来庁者にしても、例えば新宿線方面からだと電車よりもむしろ自転車かバス、あるいは車でしょう。

前回紹介した『石神井庁舎活用検討調査』にかかる事業者の提案書の中に、こんな一節がありました。

「石神井庁舎周辺の人流の状況から、石神井庁舎開辺を訪れている人のおよそ7割が練馬区内での移動であり、また移動手段における鉄道の割合が低い(一般道路等利用が多い)ことから、来訪者の多くは徒歩・自転車やバスなど近隣内での動きが中心となっていると考えられます。」

ここで書かれている「人流」は石神井庁舎への来庁者に限ったものではありませんが、しかし、庁舎周辺の人の流れの全体的な傾向は確かにこうしたものです。西口直近に「移転」させることで利便性が向上するとあえて区が主張するのであれば、まず、実際の来庁者の来庁経路・手段をしっかり調査してみせるべきです。

「再開発」ビルは、駐車・駐輪は大いに不便に

しかも、石神井庁舎が駅前の「再開発」ビルに移った場合に、間違いなく不便になる人たちがいます。それは、車や自転車で来庁していた人たちです。

「再開発」ビルには駐車場はありますが、しかし地下の機械式。しかも、区の担当課長は一般の来庁者は「再開発」ビルには駐車させない方向だと明言しています。(2023.1.31都市整備委員会)

沢村信太郎委員 …今の石神井庁舎には自転車置場と駐車場があると思うのですけれども、再開発ビルの中にはそういった来庁者用のスペースを設置する方向なのかどうかということをお尋ねしたいと思います。
西部地域まちづくり課長 来庁者用の駐車場については、駅に近くなるということで、ここには検討しないことになっています。
 その代わり、来庁者の今使っている駐車場などを、今後の検討の中で、どういった台数が必要か、建物の用途が変わってきますので、その辺りのことを検討する中で決めていくことになってございます。

「来庁者用の駐車場は(再開発ビルには)検討しない」――課長はこう言っています。収容台数が限られているからでしょうか。あるいは、駅至近のビルに車を入れる動線の確保に課題があるからでしょうか。詳細は分かりませんが、とにかく、車での来庁は無理、車の人は例えば今の庁舎の敷地に車を止めてきてくれ…こんな趣旨の答弁なのです。
駅に近いから便利になると言っておきながら、これまで車で来ていた人には平気で遠くなった距離を歩いてきてくれと言っているようなものです。驚きましたね。これじゃ、間違いなく車での来庁者には新たに不便を強いることになる…話が違います。

今、石神井庁舎にどのくらいの人が車てきているか。庁舎管理の所管に数字を出してもらいました。

この数字は、庁舎敷地に設置されたコインパーキングに駐車した車の総数ですが、このうち約87%が公用利用で駐車料金の減免を受けているとのことです。年間の総駐車台数が約77,000台。そのうち約67,000台が庁舎の利用者…石神井庁舎利用者にとって車でアクセスを保障することがとても大切な課題であることを痛感させる数字です。
休日急患診療所など、一部、移転せずに現庁舎に残る機能もありますが、区民事務所や福祉事務所などの利用者の中で車を利用する方がかなりの数にのぼることは間違いありません。その背景には新宿線方面からのアクセスの不便さ、さらには高齢者や障害者など、車を必要とする方が少なくないということもあるでしょう。

車だけではありません。自転車での来庁者にとっても、不便になる恐れが高いと言わざるを得ません。駐輪場はあるにはありますが、建物の地下です。ラック式にでもなるとすれば、さらに不便は募ります。要するに、駅のすぐ近くになるからといって便利になるというのは、来庁者の一部にだけ当てはまる話なのです。

「再開発」ビルに移転することで「便利になる」という区の主張が、大いに割り引いて聞かれるべきであることは明らかです。しかも、「建て替え」方針を「移転」に転換したことによる問題点はこれだけにとどまりません。むしろ。区の施設としての拡張性、まさにこれまで区が敷地を買い増す際に想定していたであろう庁舎機能の「拡張」の道が、再開発ビルへの移転で閉ざされてしまいます。この点は、また機会を改めて触れることとします。

(完)

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