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「移転」ではなく「建て替え」を ~石神井庁舎をどうする? その1 ~

石神井庁舎をどうするのか? 駅前再開発ビルへの「移転」計画を、このまま進めていいのか。これから何十年にもわたる練馬区、とりわけその西部における行政機能の土台に触れる大テーマです。

建て替え「拡張」が既定の方針だった

石神井庁舎は、1970年に建てられました。築50年を超えます。2002年に大規模改修が行われましたが、それからすでに20年。一般的に区立施設の耐用年数は60年とされており、早晩、建て替えか「長寿命化」工事が必要になります。

そんな中で、区は石神井庁舎用地の拡張を名目にこの間、次々と周辺の土地を買い増してきました。こんな具合です。

「石神井庁舎拡張用地」購入の経過
①2013年度 651.30㎡ 349,128,680円 ※公社の先行取得は2009-13年度
②2016年度 710.75㎡ 460,471,651円 ※公社の先行取得は2008年度
③2019年度 260.09㎡ 211,453,170円

購入した土地の面積は合計で1,622.14㎡、金額は1,021,503,501円、約10億円になります。現在の敷地面積が5,012㎡ですから、追加購入した敷地は全体の32%に上ります。土地取得の目的は庁舎の「拡張」です。当然ながら、それは庁舎の建て替えをにらんでのものだったはずです。「移転」を前提とすれば、庁舎用地として土地を買い増すことはなかったでしょう。そして、建て替えを想定していたからこそ仮設のための敷地もいるでしょうし、そもそも建物の規模や機能を拡張するためにも敷地の拡大は必要なことだったからです。

石神井庁舎の「建て替え」は、明示こそされていませんが、区にとって既定の方針でもありました。しかし、この「建て替え」方針は、前川区政の誕生を境に「移転」方針へと大きく転換をしていきます。

「建て替え」から「移転」へと、急展開

「移転」方針への転換の軌跡を、区の行政計画でたどってみてみます。区は、2016年に『公共施設等総合管理計画』策定の作業を始めます。改修・改築の方針を含め、区立施設のマネジメント全般を対象としたかなり重い行政計画ですが、この計画の中で石神井庁舎がどう扱われてきたかを拾ってみました。

『公共施設等総合管理計画』は2016年10月に「素案」が公表され、11月にかけてパブリックコメントが実施されました。2017年2月が「案」の議会報告で、翌3月に計画として確定されています。この中では、石神井庁舎の【10年後を見据えた方針】として、こう書かれています。

「建築後45年以上経過しており、今後10年程度の間に改築に向けての方向性を定める必要があります。行政機能の維持、区民の利便性、敷地の有効活用、石神井公園駅周辺のまちづくりなど、様々な観点から将来的なあり方を検討します。その際、民間活力を導入する整備手法を含めて検討します。」

翌年、2018年の3月に取りまとめられた『公共施設等総合管理計画』の「実施計画」も、基本的には同じ記載になっています。ここには、「改築の方向性を定める」としか書いてありません。「まちづくり」を観点の一つとしてはいますが、「再開発」への直接の言及もありません。
これが大きく転換したのは、この実施計画が改定された2020年のことです。そこには、こう書かれています。

『公共施設等総合管理計画〔実施計画〕2020.3改定』
「石神井庁舎は、石神井区⺠事務所、石神井総合福祉事務所など、様々な公共サービス機能を備えています。
区⺠の利便性を考慮し、石神井公園駅南口⻄地区の再開発事業にあわせて、石神井庁舎から再開発ビルへと機能の一部を移転します。その他の機能については、今後の方向性を検討します。石神井庁舎の建物・敷地は、有効活用に向けて、改修・改築や⺠間活⼒の活⽤等を検討します。」

ここで初めて「再開発ビルへの移転」が明記されました。そして、さらに続いて2022年の改定では、移転する機能が具体的に記載されることになります。

公共施設等総合管理計画〔実施計画〕2022.3改定
2 施設種別ごとの取組
(1)庁舎等
②石神井庁舎(石神井公園駅前再開発ビル)
石神井庁舎は、様々な公共サービス機能を備えています。
石神井公園駅南口西地区の再開発事業にあわせて、駅前の再開発ビルに区民生活に密着した行政サービスである区民事務所、戸籍、国保、総合福祉事務所、地域包括支援センター、子ども家庭支援センターを移転します。あわせて、乳幼児一時預かり室、生活サポートセンターを新たに設置し、区民サービスの向上を図ります。
 移転しない機能については、今後の方向性を検討します。
石神井庁舎の建物・敷地は、区民が活動・交流できる機能への転換など、有効活用に向けて、改修・改築や民間活力の活用等を検討します。

石神井庁舎の主要な機能である区民事務所、福祉事務所などが「再開発」ビルに移転することが明記されました。あわせて、石神井庁舎の機能が移転したのちの土地と建物については「区民が活動・交流できる機能」などに転換させること、その際「改修・改築や民間活力の活用」を検討することも示されています。

現在の建物に建て替えられる前の石神井庁舎

「庁舎」とは、もともと行政の事務を取り扱う組織が入った公けの建物のことです。練馬区が誕生して以来、区政の西の拠点であった石神井庁舎がなくなる。そんな大きな歴史的な転換点に、私たちは立たされようとしています。
わずか数年の間に、石神井庁舎の今後の方針は「建て替え」から「移転」へと大きく方向を転じました。そして、言うまでもなく、この転換を突き動かしたのは石神井公園駅南の「再開発」です。

(続く)

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