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「指針」(つづき) ~能弁と詭弁~

 「答弁が巧みだなぁ」と感心する管理職は、少なくありません。「能弁」というのでしょう。しかし、能弁は、知的な誠実さと論理的な一貫性がなければ、ただの詭弁になり下がることもあります。一応は「言論の府」というべき議会に身を置いている者として、自戒も含めしばしば感ずることです。

 さて、「附属機関等の会議の公開および区民公募に関する指針」に関するコメントの続きです。先のコメントで紹介した区側の答弁、とりわけ企画課長の答弁は果たして能弁か、詭弁か。日銀グラウンド整備計画の検討委員会設置にあたって、区民公募を行わなかったのは「指針」に反するのではないかという私の問いに対して、課長の答弁はこうでした。

 「私ども定めている指針につきまして、指針ということでございますので、必ずということではなくて、当然、期間、設置をする、検討する事項によって、おのおの区民の方の参加の仕方というのは異なってくると思いますので、今回のケースについては、単純に公募ということではなくて、それが関係する方にご参加をいただくことが望ましいということでございますので、指針に反するというものでないと考えているところでございます。」

 「指針」は、「必ずしなければならない」というものではない。公募をしなくてもよい場合がある。「関係する方にご参加いただくことが望ましい」場合には、公募しなくてもかまわない--課長はこう言っているのです。
 しかし、です。いったい付属機関等で「関係する方」を参加させていないものが一つでもあるでしょうか?


 日銀の検討委員会に入っている「関係する方」と言えば、町会・商店会の代表、スポーツ・レクリェーション団体の人などです。たいていの審議会には、こうした関係者は必ず参加しています。そしてそのうえでなお、「3割以上」を目標に公募枠を定めているのです。こんな課長の答弁が通用するなら、およそほとんどすべての付属機関等で公募をしなくてもよいということにすらなってしまうでしょう。
 そもそも公募枠は、「指針」によれば「広く区民の意見が反映されるように」という趣旨で設けられたものです。「関係する方」だけでは、決して「広く区民の意見」を代表することも反映することもできない、だから公募をするのだ。これが「指針」の精神です。さらに言えば、実は、「指針」は必ずしも公募をしなくてよいケースについても明確に規定しています。

 附属機関等の委員の選任にあたっては、広く区民の意見が反映されるように、区民公募枠を設定するものとする。ただし、法令等により委員の資格要件が専門知識を有する者や関係団体からの被推薦人のみによって構成される場合は、この限りではない。

 この規定は、明白です。つまり、原則は公募である。例外は「法令等により委員の資格要件が専門知識を有する者や関係団体からの被推薦人のみによって構成される場合」である。では、日銀のケースはこの例外に当てはまるのか? もちろん、当てはまりません。
 公募は、「広く区民の意見が反映される」ための唯一の手段ではないし、また必ずしも最善の手段でもないかもしれません。しかし、「関係する方が参加することが望ましい」からという理由で公募すらしなくても構わないという企画課長の答弁は、指針の明文上の規定に照らしても、白を黒と言いくるめるたぐいの弁、つまり詭弁です。なぜこんな詭弁に流れたのか。「指針」の趣旨を忘れたのでしょうか。あるいは“身内”をかばう優しさが出たのでしょうか…。

 先の記事に対して、「蒼」さんからコメントが届いています。

 指針を普通に読む限りでは、公募区民を設定しながら実際にはとらなかった状況は、普通の読解力で考えれば指針違反で、「区民とともに築く区政を推進する」といったを目的を自治体自らが放棄してしまっていると感じます。企画課長の答弁は意味不明です。

 代々、企画課長さんは頭も切れるし弁の立つ方が務めています。しかし、能弁と詭弁は違います。「指針」をどう読んでも、日銀の検討委員会で公募をしなくてよかったのだという根拠は出てきません。「指針」を高く評価していただけに、とても残念で情けなくなる答弁でした。

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