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自治基本条例(その6) ~職員~

 区民の権利及び責務に続いて、執行機関と議会の役割が語られます。ここは、全体として平板な骨子案の中でも特に平板なところです。何より「自治」の視点から議会や執行機関はどうあるべきかという問題意識が、まったく読み取れない。区民の項で「自治を担う」と書いたのに、議会は「持てる権能を発揮して、区民の信託に応える」、執行機関は「その権限と責任において、公正かつ誠実に事務を管理および執行する」とだけしかない。何のための条項なのか?という思いすらしてきます。しかし、この平板さこそ、実は「自治基本条例」の名称をわざわざ変えようとした感性や思惑と通底しているのかもしれません。たとえば、「議会は、憲法に基づいて設置された代議機関として、常に主権者である区民の意志と意向を適切かつ十分に代表するよう努めなければならない」「執行機関は、区民の参加・参画を不断に図りつつ、自治の基本理念に基づいてその事務を管理、執行しなければならない」とか、せめてそのくらい書けなかったものかなぁ…。

 具体的な条文をみると、特に気になるのが「職員」の記述です。骨子案では、こうなっています。

⑤ 区長は、その補助機関である職員を指揮監督し、職務執行に必要な能力を増進および発揮させるよう努めなければならない。
⑥ 職員は、職務執行に必要な能力の増進に努めなければならない。
⑦ 職員は、効果的・効率的に行政サービスを提供し、区民との協働を柱とした区政運営を担い、自ら考え行動するよう努める。

 職員は、区長の「補助機関」である、職員は「職務執行」に精励しなければならない…それでおしまいです。官僚主義のにおいがぷんぷんと漂っていると思いませんか? ここでイメージされている職員は、区長の命を忠実かつ“自主的”に執行するよき吏員、それ以上ではありません。もちろん、法的には、あるいは究極的には、この条文の言うとおりです。しかし、問題は“自治基本条例”、つまり「自治の実現を図り、もって区民福祉の向上に資する」ことを目的とした条例で何を書かなければならないか、です。自治体の執行機関は、それ自身が自治的に編制され行動すべき組織、自治の息づく練馬を造るための推進力にならなければならない組織でもあります。そこでは職員一人一人の職務における自治、そして区民に向き合う職員の自治意識もまた、十分に尊重され、啓発されなければなりません。しかし、この条文にはそんなセンスはかけらもありません。
 対極的な姿勢に立つ職員像を、一つ紹介しておきます。前基本構想、つい昨年、まるで時代遅れとばかりに否定された基本構想には、こんな一節があります。

3 職員の創意に支えられた区政をつくる
(1)区民主体による区政を推進していくうえで、職員の果す役割は大きい。この認識にたって、職員の創意とエネルギーを結集して、民主的な行政をすすめる。
(2)区は、職員の自主的研修をうながして、その自発性の開発につとめ、区民の期待や要望に的確で柔軟にこたえられる職員を養成する。

 「職員の創意」が区政をつくる、首長ももちろんだが、しかし「職員の果たす役割は大きい」、職員は「区民の期待や要望に的確で柔軟にこたえ」なければならない。条例骨子と基本構想という違いを超えて、彼我の間には本質的な思想、理念の相違があります。5000人の区職員に何を求めるか、その力をどう生かすか。これは練馬の「自治」にとって、いやこれからの区政全体にとって決定的なテーマの一つですが、それだけに骨子案には強い違和感と落胆を感じます。

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