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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

海辺

 暑い。うだる、という言葉がぴったりの暑さ。うだるとは、「茹(ゆだ)る」が転じたものだとか。なるほど、道行く人の顔も赤くゆだっている。

 暑いときは、水辺がいいですね。小さいとき、身近に海がありました。町外れというほどはずれでもないところにある大きな公団住宅のすぐ横に、貨物の引込み線が走り、その線路を越えるとすぐ海でした。博多湾だから、遠浅の、静かな海。その分、磯は活気付いていました。無粋なコンクリートではなく、貝殻やふじつぼやらが取り付いた岸壁に腰を下ろし、たらす釣り糸の先には、すんだ水と、すんだ青色をしたサヨリの群れ。潮が引くと磯に降り立ち、岩をはがしてちょっとグロテスクな肢体を朱色に染めたゴカイを集め、サヨリは無理でもハゼを釣る。もうどこまでが実像でどこからがデフォルメされた思い出なのかわからないけれど、消えることなく生き生きと思い出される原風景です。
 誰も思い出だけで生きることはできないけれど、思い出からしみだす潤いというものもある。今、私たちは、思い出を残せているだろうか。思い出になるような世界や時間を手にしているだろうか…。
 年齢のせいばかりではないような気がします。時代、あるいは日本の社会の今という断面がとてもぎすぎすとした、ゆとりのない、人間性からますます遠ざかりつつあるものになっていることに、私のささやかな感性が悲鳴を上げているように思えてなりません。あなたの感性は?悲鳴を上げていませんか?

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