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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

「がん検診」

 土曜日、「”がん検診”で寿命は延びるか? ー早期発見 早期治療と言うけれどー 」と題された講演会に参加してきました。主催は「高木学校」。“市民科学”の担い手を育てるために、故・高木仁三郎さんが創設した学校です。

    ➠高木学校

 実は、市町村が実施する「がん検診」をとりまく環境は、今、激変の真っ只中にあります。数年前に、それまで国費が入っていたがん検診の財源は原則として市町村の一般財源に振り返られました。乳がんをはじめとして、がん検診の手法についての大きな見直しが相次ぎました。そして今年度、それまで行政が実施していた基本検診を医療保険者が実施する「特定健診」に再編され、その中で胸部エックス線撮影などの取り扱いも大きく変わりました。※

※以上の部分、最初の記事に不正確な表現がありましたので、差し替えました。

 こうした大きな変化の中で、どんな内容と方法でがん検診を行うのか、市町村はそれぞれに主体的な判断を問われる事態になっています。私が議員として関わったものだけでも、乳がん健診は年に1回か、2年に1回か。30歳以上か40歳以上か。マンモかエコーか。あるいは、特定健診でがん検診はどう取り扱うのか。さらには、もうがん検診は意義がないと言わんばかりに、その実施が各保険者の任意に委ねられた後期高齢者の場合はどうするのか…。
 それぞれに、基本的にはがん検診の後退をさせないというスタンスで議会では発言してきたのですが、しかし、そうした議論の中でも、どうしても頭から離れない問いがありました。それは、いったいがん検診はどれほどの効果があるのだろう、あるいは効果あるものにするための努力は尽くされているのか、という問いです。何しろ、がん検診にかかる費用は半端ではありません。練馬区の予算で見ると、がん検診だけで5億円近くにのぼるのです(07年度)。必要な支出ならもちろん問題ないけれど、しかし、本当にそれだけの効果が出ているのかは検証しなければならないテーマです。
 で、講演会に参加することにしたのですが、いろいろ考えさせられました。講師は、新潟大学の岡田正彦教授。『がん検診の大罪』というなかなか刺激的なものもはじめ、健康や医療に関する著作を数多く出しておられる先生です。タイトルから予想されるとおり、講演の趣旨は、がん検診が死亡率の減少につながるという明確な証明はなされていないというものですが、なるほどたとえば自覚症状が出てから受診した場合とで予後がどう違うのか、早期発見したとしてそれを治療や悪化防止につなげる可能性はどの程度あるのか、早期発見することによるメリットと、たとえば放射線の被曝が増えることによるデメリットとどちらが大きいのか、検診の精度はどの程度のものなのか…等々、整理しなければならないことが次々と出てきます。がん検診につぎ込む多額の税金と大量の労力を、もっとがんの発症予防に向けるべきだ――これが岡田先生の結論なのですが、がんの発生原因の大半が人為的・後天的なものであることがはっきりしているだけに、「早期発見」も大事かもしれないけれど、やっぱり「発症予防」だよなぁとこれまた、宿題が増えてしまいます。
 講演の前には、これまで医療放射線被爆の問題に取り組んできた主催者からのまとまった報告もありました。日本での医療被曝が諸外国に比べて格段に多いと聞くと、話は一気に深刻味を帯びてきます。無駄な検診、ではなく、有害な検診、という話になってくるわけですから。
 「検診でがんが見つかってよかった!」という話は、必ず聞きます。そして、こう聞くと、検診はやっぱり必要だと思ってしまいます。この実感にはある種の真実があると感じつつ、しかし、この講演でもらった宿題はしっかり解いていかなければと思いながら帰ってきました。

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