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「徴用工」問題と『1987』 ~韓国「民主化」のうねりの中で~

『10.31平和のためのライブ2019』(詳細はこちら) が目前に迫ってきました。隣国・韓国と日本の私たちとの関わりを振り返り、見つめ直す機会としても、たくさんの方にお越しいただきたいと思っています。
この企画に向けて、韓国映画『1987 ある闘いの真実』のDVDを購入しました。とても刺激的で示唆的な作品です。感想めいたことを、取りまとめて書いてみました。


この映画そのものはドキュメンタリーではありませんが、登場する主だったメンツはすべて実在した人物です。1987年1月、警察に拷問死させられたソウル大学生の朴鍾哲、6月の民主化を求める大きな闘いの中で警察の催涙弾の直撃を受けて死亡した延世大学の李韓烈、そして軍部独裁の頂点に立つ全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領…。
この映画のクライマックスとなる6月10日の大きな行動によって、全大統領は直接選挙による大統領選挙の実施を約束することになります。1987年の隣国のこの歴史的で国民的な闘いについて、日本の私たちはほとんど知ることも、ましてや共感を寄せることもないままに来ました。87年と言えば、日本はバブルの真っただ中です。浮かれていました。
この1987年は、クーデターで権力を握った全斗煥に対する蜂起でもあった1980年の「光州事件」と直接につながる韓国民主化闘争の画期であり、そして、この1987年を継承することを宣言して大統領に当選したのが、現在の文在寅(ムン・ジエン)大統領です。
1987年以降、紆余曲折、一進一退を繰り返しながら韓国政治の民主化は展開していきますが、軍部、財閥とともに韓国の権力中枢を支配し続けてきた「検察」の改革が、今、政治の焦点となっています。映画では、正義感ある検察官の抵抗から事態は展開を始めますが、この検察官は、最後は弁護士として民衆を支えます。象徴的な作りです。
この映画は、韓国では動員数700万人を超える大ヒットとなったそうです。韓国社会の地鳴りを伝える映画、でもあります。

文政権と光州事件、さらには1987年とのつながりをWikipediaから紹介します。

2017年5月18日、自身も光州事件経験者である文在寅大統領は、5.18民主化運動37周年記念式における演説で、「文在寅政府は光州民主化運動の延長線上に立っています。」「新政府は5.18民主化運動とろうそく革命の精神を仰ぎ、この地の民主主義を完全に復元します。光州の英霊たちが心安らかに休めるよう成熟した民主主義の花を咲かせます。」「光州精神を憲法に継承する真の民主共和国時代を開きます。」「5.18精神を憲法前文に含める改憲を完了できるようこの場を借りて国会の協力と国民の皆様の同意を丁重に要請します。」と述べた。また、大統領選挙活動中、憲法前文に光州事件の民主化運動の精神を盛り込むことを公約している。

文政権は、冷戦下、厳しく苛烈な軍事独裁政権のもとにあった時代を歴史的に清算することを使命として、光州事件や1987の世代を母体として成立した政権、ということもできます。そして、「徴用工」をめぐる日韓の争い、軋轢の根底にも、この政権の歴史的な役割、使命感が垣間見えます。なぜなら、1965年の日韓協定は、かつての植民地支配をあいまいにして軍部と財閥が権力を確立していく一歩ではあっても、決して韓国民衆の戦前戦中の様々な苦難を受け止め、清算していくものではなかったからです。

「徴用工」問題に端を発する日韓両政府の対立を、戦後の日韓関係の大きな歴史的な流れと、その中で積み残された政治的社会的課題という文脈の中でとらえ返すこと。今、私たち日本の市民に求められているのは、こうした視座ではないでしょうか。国家間の約束を守るかどうか、“国際法違反”かどうかという問題にとどまらず、戦前の植民地支配の歴史とその中で隣国の人々が受けた苦難をどう受け止め償い、癒していくのかということが、今、私たち一人一人に問われているのだと思います。

日本の政府は、韓国政府の――そして韓国の人々の異議申し立てを固く、強く拒み続けていますが、それは偏狭なことであり、隣人を隣人として大切にしていく心持を欠いていると、私は思います。

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