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一歩前進、いや半歩? ~コロナ対策で新たな補正予算~

練馬区が今年度3回目の補正予算(第3回)をまとめました。予算は議会の議決を経るのが原則ですが、今回は「専決処分」という方法で予算を確定しました。「特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らか」な場合は、議会の議決を経ずに首長(区長)の「処分」としてものごとを決められるという仕組みです。専決処分の方法を使うこと、とりわけ予算や条例など議会の権限の柱となるような事項について専決を行うことについては、私は、慎重のうえにも慎重でなければならないと思っています。今回の補正は「新型コロナ」対策のうち特に急を要するものを盛り込んだということですが、それでも臨時議会を開くなどの選択肢はあったはずです。その点は、今後の課題として書いておきます。

さて、補正の内容です。総額で8億527万円。柱は4つ。全体としての私の印象は、盛り込まれた事業はそれぞれに必要で意義あるものではあるが、しかし、中途半端なところ、おずおずとして踏み込みが弱いところ、バランスや一貫性を欠いたところが気になって仕方ない。そんなところです。「×」は付けないでしょうが、大いに議論すべき点は多々あった、だからこそ「専決」ではなくきちんと議会の審議を経て議決すべきであったと、そう思います。

それぞれの柱ごとに見ていきます。

⑴ PCR検査検体採取センターの設置・運営 6,808 万円
さらなる感染拡大局面や季節性インフルエンザの流行による検査ニーズの高まりに備えるため、PCR検査検体採取センターを新たに設置します。(以下、各事業の概要は区の報道発表資料より)

6月末で閉鎖した検査・検体採取センターを改めて開設します。前回は光が丘七小の学校跡地でしたが、今回は民有地で調整しているとのこと。9月末までに開設、トレーラーハウスを当面1台、必要があれば2台使用し、検体採取能力としては1台で1日15件程度、週3日を想定しています。以前のセンターと同様、こちらは保健所(コールセンター)を通さず医師会内で調整する方式で、採取は唾液ではなく鼻腔咽頭ぬぐいという旧来の方法です。検体採取のキャパシティ自体を引き上げること、診療所での検体採取の余力がない場合、あるいは唾液が取れないケースなどに対応することなどが期待されますが、診療所での検査との機能分担、連携・調整は課題として残りそうです。また、行政検査の枠を超えて検査を広げる際にも、このセンターの活用を検討すべきです。
それにしても、診療所での体制が整うからと6月末でセンターを閉鎖したのは間違っていましたね。区は認めないでしょうが。

⑵ 診療所等へのPCR検査費用の助成 2,628 万円
7月に開始した、区内診療所でのPCR検査を、区民がより一層受けやすい体制とするため、区コールセンター等の紹介に積極的に応じる医療機関に対して、検査実績に応じた運営支援を行います。

区が他の自治体に先んじて取り組んできた市中の診療所での唾液を用いたPCR検査は、医師会の努力もあって、現在、109カ所にまで広がったそうです。それ自体は貴重な成果ですが、他方でこの109カ所の大半は検査の対象を「かかりつけの患者のみ」に限っており、区のコールセンターや医師会内の医療連携センターを経由した紹介の患者さんの検査を受け入れる医療機関はやっと10カ所を超えた程度しかありません。かかりつけの先生がない(わからない)と近くの医療機関に飛び込みで連絡したり、あいはコールセンターに電話をした場合に、紹介できる診療所がないという「目詰まり」が起きていたことは、区の所管も認めているところです。そうした中、紹介に対応できる検査体制の強化を図ることを主眼にして組み立てたのがこの事業で、インセンティブとして紹介検査1件当たり3,500円を支援するというものです。
自院の患者に検査をやってあげたいというのはお医者さんの自然な感情でしょうが、しかし、地域の検査体制という点ではコールセンター等からの紹介を受けられる体制を整えることがむしろ基本でなければなりません。この点での懸念は6月議会の予算質疑の中でも伝えたのですが、その時はきちんと受け止めてくれませんでした。改善されることはよいことですが、3,500円の金銭支援がどの程度、各医療機関の紹介受け入れにつながるのか、しっかりした検証が必要です。

⑶ 福祉施設におけるPCR検査費用の助成 3,440 万円
高齢者や障害のある方の入所施設が独自に実施する、新規入所者へのPCR検査の費用を助成します。(新規入所者の想定数 860 人。補助上限額検査1件につき4万円)

これは、高齢者・障害者の入所施設での新規入所者について、PCR検査の費用を全額補助するというものです。対象となるのは、特別養護老人ホームと老人保健施設、そして障害者の入所施設。検査は当該の施設の責任で実施し、区は費用を補てんするという仕組みです。
日本のPCR検査は、1月以来、感染者、感染を疑う症状のある人、そして濃厚接触者を基本に感染症法に基づく行政検査として行われてきました。最近になって少しずつ検査範囲が広がってきたとはいえ、感染拡大防止、さらには事業や社会活動継続のための積極的な検査の展開を求める関係者・区民の思いとは程遠い状況が続いています。とくに、重症化リスクが高いと言われる高齢者や持病のある方たちの集団感染が危惧される入院・入所施設や介護・福祉事業所などでの検査適用は喫緊の課題となっています。
この点では大切な前進ではありますが、しかし、一歩、いや半歩しか進んでいないというのが率直な印象です。そもそも、高齢者の施設をなぜ特養と老健に限るのか? 特定施設(介護型の老人ホーム)やグループホームはなぜ入れないのか? 特養、老健にしても、入所者は検査をするがショートステイの利用者は対象外ということでは、そもそも感染管理としていくらかでも合目的的な仕組みになるのか? そして、施設に感染が入り込む大きな経路となっているスタッフに対する検査は、なぜ検討されなかったのか?? 疑問が尽きません。早急な見直し、拡充が必要です。

⑷ 病院経営の支援 6億 7,651 万円
感染患者の入院受入れや帰国者・接触者外来の設置に伴い、一般の入院・外来を縮小した病院の経営を支援します。(※4~6月分の減収相当分を補てんするとともに、7月以降について、陽性患者の受入れ等の実績に応じた補助を実施)

最後のこの事業が、金額的には補正予算の大半を占めます。この病院支援の最大の課題は、「新型コロナ」感染者を実際に受け入れた病院だけしか対象にならないことです。今、減収補てんの対象として想定されているのは帰国者・接触外来の指定を受けている4つの医療機関のみです。
「コロナ」拡大の中で間接的に経営上、運営上のダメージを受けた医療機関はたくさんあります。直接、感染者の入院医療を受け入れる医療機関となっていなくても、そうした医療機関からの転院等を受け入れるために無理を重ねた医療機関も少なくありません。外来診療機関でも、「コロナ」の疑いのある患者をしっかり受け入れることでリスクを背負ったところもあるはずです。そうしたところへの目配りはなぜなされなかったのか。少なくとも4-6月のダメージを念頭に置くならば、4つの病院に限定するのは筋が通る話とは思えません。
今後についても、「コロナ」に対応する医療提供体制を、直接、感染者を受け入れる医療機関にのみフォーカスして考えるのはすでに誤りです。直接受け入れる医療機関、その病院の担ってきた一般医療を引き受ける周囲の病院、治療・入院の機会を制限される患者さんを地域で支える診療所、自宅や施設ての隔離療養を支援する医療機関など、連携とネットワークで対応を考えなければ、きっとうまくいきません。その点でも、今回の予算措置はたいへん中途半端です。


全体として、この間、私も含め議会内外から指摘されてきた課題にとにかく手を付けたという点では大切なステップではありますが、財政的な配慮がどうしても重くのしかかるのか、政策展開としても、先々の見通しとしても、また何より事業の効果や公平性という点でも、課題や限界が山積していると感じられる補正予算です。
9月には区議会の第3回定例会があります。ここでも、補正予算が提出される予定です。もうすぐですから、今回の補正を一つの足掛かりにして、さらに踏み込んだ、力のある、リーダーシップの伝わる対策を講じるよう、強く求めていくつもりです。

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