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生きることの「プロテスト」

ミュージシャンの小室等さんから、「著者献本」を頂きました。『プロテストソング』(旬報社)。小室さんがリリースした二つのアルバム、『プロテストソング』(1978年)と『プロストソング2』(2017年)に収録された全曲の詩と楽譜を採録し、あわせて小室さんと谷川俊太郎さんの対談を綴った新著です。谷川俊太郎さんは、二つのアルバムの楽曲すべてに詩を提供しています。半世紀にわたる二人のコラボレーションの、貴重な記録です。

それにしても、あらためてこうして文字になったものを読むと、谷川俊太郎さんの詩の“力”というものが迫ってきます。

「希望は全身で笑っているひとりの子どもにある」――こう始まった言葉が、「もっとも強い希望は死んでしまったすべての子どもにある」と展開していく『希望について私は書きしるす』。おおきく、つよいはずの「おとな」が「きみたちおぼえる たいせつなこと/ぼくらはわすれる たいせつなこと」と思い知る、『こどもとおとな』。

「子ども」や「おしっこ」から「木」「風」、「音」、そして「死」や「殺す」ことまで、ときに生々しくときに痛々しい、それでも手触りの豊かなものを語る言葉の、その力がどこから生まれるのか。40年の時間を経て、二つのアルバムのそれぞれの詩の持つ空気は、ずいぶんと変わっていると感じます。そこには、重く苦しく包み込む時代の空気が反映しているのかも、とも思います。ただ、どの詩にも、日常の景色とあたりまえの命の底から生まれる、深く、鋭い逆説があります。逆説、それも言葉の逆説だけではなく、現実を射貫く逆説的な視点。ある種の居直り、それも透徹した居直り。そうか、だから―これが、プロテスト。そう思い当たります。

小室さんは、この谷川さんの詩に音を添えました。以前、小室さんがかつての「プロテストソング」というものに感じてきた違和感について聞いたことがあります。その小室さんが40年ぶりに「プロテストソング」を書き歌おうとしたことの意味を、想像します。でも、少なくともここにある言葉と歌は、宙には浮いていない。自分を外において、他者に向けられるプロテストではない。誰が発したかすらいとも簡単に消え去る、通り一遍のアジテーションでもない。自分の、この場所の、このくらしの、このいのちの中に何かを発見したい、その何かから立ち直りたいというメッセージをこめた「プロテスト」。まさに生きることそのことの中から生まれる「プロテスト」。勝手な解釈だとは思いつつも、今はここまで立ち返ることが必要な時代なのだと、共感します。

 

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