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“4畳半”の老後 ~大都市・東京での住まいの貧困を考える~

“福祉と住まい”について考えさせられる議論が、区議会で続いています。ひとつは「都市型ケアハウス」、もう一つは「区営住宅(公営住宅)」を巡る議論です。

「都市型ケアハウス」は、正式には(法律上は)「都市型軽費老人ホーム」と言います。老人福祉法によれば「軽費老人ホームは、無料又は低額な料金で、老人を入所させ、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設」(20条の6)です。この軽費老人ホーム に「都市型」という新しいタイプが位置付けられたのが2010年4月。その前年、群馬県の無届老人ホーム「たまゆら」の火災事故で東京都の生活保護受給者が多数亡くなったことが直接のきっかけでした。貧しく、かつ支援の必要な高齢者がこの東京で住む場もなく放置されてきたことが明るみに出、都政の大きな課題としてクローズアップされたのですが、都はそこで新しいタイプの軽費老人ホームを打ち出し、国に制度化を迫ったのです。その旗を振り、推進役となったのが、当時の猪瀬副知事です。
「都市型」になって、何が変わったか。施設の基準が大幅に“緩和”されました。どう変わったか。象徴的なのは居室の基準です。それまでは、居室の面積は21.6㎡以上。また、居室には「洗面所、便所、収納設備及び簡易な調理設備を設けること」が義務付けられていました。それが、「都市型」では居室面積は一気に7.43㎡に、ほとんど3分の1にまで引き下げられてしまったのです。また、トイレや洗面所の設置義務もなくなりました。7.43㎡といえば、いわゆる“4畳半”です。トイレも洗面台もない“4畳半”…これが、いくらかでも人間らしい、尊厳ある老後の住まいだと言えるでしょうか? こうした“規制緩和”、ありていに言えば公的な居住保障水準の切り下げを自慢げに語る人たちの人権感覚を、私は疑います。
軽費老人ホームは、もともと所得が少ないなどの事情で住宅に困窮する人たちを対象にしています。貧しい高齢者のために、別に100㎡もあるような豪華なマンションを用意しろなどというつもりはありません。しかし、憲法が約束する「健康で文化的な最低限度の生活」とは、決してトイレも洗面所もない“4畳半”の暮らしではないはずです。自分の部屋にトイレがあり、調理をする場所があり、客人とお茶を飲む用意があることで、その人の自立への意欲や人間らしい生活のリズムがどれほど改善されるか。少しでも想像力があれば、わからないはずはありません。

練馬でも、この「都市型」ケアハウスの整備計画が相次いで発表されています。今までのところ、どの計画でも居室面積は10㎡を超えています。区としては、せめて特別養護老人ホームの居室基準(10.65㎡)くらいはほしいと考え、事業者に協力をお願いしているようです。練馬区のこの感覚にはほっとしますが、しかし、特養は24時間介護のための「施設」であって、「住まい」ではありません。その特養の施設基準すら大幅に下回る「都市型」軽費老人ホーム…。真剣に、高齢者の「住まい」の問題に向き合ってこなかった都政を象徴する事業だと思えてなりません。

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