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走り出した特養「民営化」

 本会議で反対討論をしたもう一つのテーマは、特別養護老人ホームなどの指定管理者を定める議案です。現在も指定管理をしている社会福祉事業団に引き続き、というだけであれば、あえて問題にすることはない議案でした。しかし、今回は「民営化」を前提にした議案になってしまったのです。議会手続きを置き去りにして走り出した「民営化」。容認することはできませんでした。
 討論の全文を掲載します。
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 議案145号、146号、150号に反対の立場から討論を行います。
 これらの議案は、4つの区立特別養護老人ホームと併設のデイサービスセンター、さらには大泉ケアハウスを社会福祉事業団に管理させるというものですが、いずれも、通常の指定管理者の選定議案とは大いに異なる内容となっています。指定管理に関する区の基本方針によれば、特別養護老人ホームのような処遇系施設については、指定管理期間を5年とした公募による選定が原則とされています。しかし、これら当該施設の場合は、いずれも指定管理期間を2年とし、また公募ではなく現在の指定管理者である社会福祉事業団を随意で指定するものとなっています。なぜこうした異例なやり方がとられたのか。それは、2年後に社会福祉事業団を受け皿として当該施設を民営化することが前提となっているからです。
 しかし、これは、順番が逆ではないでしょうか。


 区立特養を実際に民営化するとすれば、少なくとも設置条例の廃止、民営化に伴う財産の取り扱いに関して議会の議決が必要です。また、かならずしも議決を必要としない問題であっても、たとえば民営化先事業者をどういうルールのもとに選定するのか、民営化の形態や条件はどのような基準で定めるのか、民営化後の管理運営に関してはどのような取り決めが適当であるのか、これらの点は、民営化の成否・適否と深くかかわる基本的な論点であり、議会における慎重な議論が不可欠です。
 区立特養を民営化するということは、大変重い選択です。区立でなくなれば、基本的には、施設や事業の柱立ても、民間事業者に委ねられることとなります。当該施設・事業のあり方について、区民や議会は、直接に関与する権利と立場を失います。区立であれば当然に期待される公的な責任は、民間事業者の任意と裁量に左右されます。大切な区民の財産を手放してよいのか。指定管理には指定管理の難しさがあるでしょうが、しかし、民営化にはそれに負けるとも劣らない課題とリスクがあります。
 また、もし今、区が示しているような無償貸付方式をとった場合、土地・建物を対価なく貸し付けることによる事実上の財政支援額は莫大なものとなり、建物部分だけでも年間で数千万円をくだらないと思われます。また、大規模改修や建替えにかかる費用まで区が負担するとなれば、実質的な支援はさらに巨額となるでしょう。一民間施設にこれだけの支援を行うには、よほどの大義と明確な説明が必要です。しかし、民営化された施設が今後、区の福祉施策の中で果たすべき公的な役割と積極的な貢献のあり方については、いまだ何一つ具体的なことは語られていないのです。議会の一員として、これだけ大きな施策の方向づけが指定管理者選定という形を借りて、なし崩しに進められることを容認することはできません。
 さらにもう一点、忘れてはならないのは大泉ケアハウスの取り扱いです。
 区は、第二次委託化民営化実施計画において特別養護老人ホーム等を「民設民営方式に移行する」という方針を明示していますが、そこでは大泉特養は民営化の対象施設として挙げられていません。その最大の理由は、大泉にはケアハウスが併設されているからです。
 ケアハウスは、老人福祉法に基づく高齢者福祉施設、軽費老人ホームの一種であり、「無料又は低額な料金で、老人を入所させ、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設」です。介護保険施設においていわゆる“ホテルコスト”導入などで利用者負担が急増し、グループホームや特定施設などの「居住系サービス」ではそもそも低所得者対策自体がない中で、低廉な費用負担で介護が必要になっても住み続けられる場を保障するケアハウスの意義と役割は、むしろ大きくなっています。しかし、区みずから認めるように、「ケアハウスの民営化のためには、利用者負担金で施設経営できなければならない」。つまり、民営化は、利用料金を大幅に引き上げるか、あるいは経費老人ホームを廃止して特定施設などの介護保険施設に再編すること抜きにはありえず、それは、「無料又は低額な料金」で利用できるというケアハウスの役割を根本的に転換するものであり、だからこそケアハウスのあり方については庁内でも容易に議論が整理されてこなかったのです。
 ところが今回、このケアハウスまで2年後の民営化の対象とされてしまいました。ケアハウスをどうするかについては、いまだに区は「検討する」と言うのみです。こんな無責任があるでしょうか。
 必要な議会手続きも経ず、民営化の基本的な枠組みすら確定できないままに民営化を前提とした議案を出すとしたら、これはあえて言えば議会の権限・権能をないがしろにする行為であると言わなければなりません。走りながら考えるということが必要な場合もあります。しかし、こと、特養民営化に関しては、適正な議会手続きと十分かつ慎重な検証・検討が不可欠であることを重ねて指摘して、反対討論とします。

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