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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

本当に労賃は上がるのか? ~公共工事の「特例措置」~

 企業の利益は増えてるのに、労働者の賃金はなかなか上がらないじゃないか。株主ばかり潤って、庶民の懐はどうなんだ…「アベノミクス」に対する、ある意味で本質的な異議申立の声がだんだんと大きくなってきています。区議会・区政の場でぶつかった、同じような話です。

 先日、終わった第2回定例会に、いったん議決をした工事請負契約を変更するための議案が6本、提出されました。地区区民館や保育園の改修、学校改築などの工事契約です。変更するのは、契約金額。変更する理由は、「公共工事設計労務単価の引き上げに伴う特例措置」のためというものです。
 公共工事契約に当たっては「予定価格」が積算されます。予定価格は、たとえば入札対象事業者の格付けや最低制限価格の設定の際などに用いられるのですが、この予定価格積算の指標の一つになるのが「設計労務単価」です。
 今年3月、国土交通省は2013年度の設計労務単価を15%引き上げると発表しました。あわせて、各都道府県に対してこの新単価を早期に適用すること、さらに今年度にすでに契約を行ったものについても新労務単価に基づいて契約額の変更を行うことを求める通知を出しました。練馬区が第2回定例区議会に契約変更を提案した6つの契約は、いずれも、第1回定例会で議決され、すでに入札を終えて契約されたものです。つまり、国土交通省の意向を踏まえての特例措置を実施するということになります。
 なぜ、労務単価を15%も引き上げたのか? 国土交通省の通知にはこう書いてあります。

 若年者が建設業への入職を避ける一番の理由は、全産業の平均を約266%も下回る給与の水準の低さであり、また、最低限の福利厚生であり法令により加入義務のある社会保険等に未加入の企業が多いことも大きな原因の一つです。
 一方、現内閣は、その基本方針において、「雇用や所得の拡大を目指す」ことを掲げるともに、内閣総理大臣自身が経済界との意見交換会において、働く人の所得の増大を目指し、政府・経済界・労働界が大局的観点から一致協力して取り組むことによりデフレ経済からの脱却を図るとの方針を示しています。
 こうした諸事情を踏まえれば、技能労働者に係る適切な賃金水準の確保は喫緊の課題であり、下記の措置を講じることにより、適切な価格での契約及び技能労働者等への適切な水準の賃金の支払い等を促進していただけるようお願いいたします。

 ここで書かれている趣旨は分かります。建築・建設労働者の待遇や福利厚生の貧弱さ、劣悪さは、これまでも繰り返し指摘されてきたところです。問題は、契約金額の引き上げが本当に労賃や福利厚生の改善・上昇につながるのかということです。
 本当に労働者の待遇は改善されるのか? こう問われて、区が唯一持ち出した材料は、「協議書で『適切に対応する』と約束してもらっている」と言います。練馬区の協議申し出書には、こういう一文が入っています。

 平成25 年度設計労務単価に基づく契約金額に変更された場合は、既に締結している下請契約金額の見直しや、技能労働者への賃金水準の引上げ等について適切に対応いたします。

 しかし、何が「適切な対応」なのかは何も書かれていません。それどころか、「適切な対応」がなされたかどうか、区は調査もしなければ報告を求めるつもりもないと言うのです。これでは、何の担保にもなりません。
 議会に提出された6つの契約変更で、労務単価引き上げによる変更額は59,682,850円にものぼります。議会の議決がいらない、より少額の契約も全部含めれば、変更額は1億3000万円を超えるそうです。この追加の支出は、すべて税金です。1億を超す貴重な税金を投入するのに、しかもいったん契約したものをやり直すという異例なことまでやるのに、この税金が責任をもって労賃の引き上げに充てられるのかどうかは、検証も確認も指導もできないし、やろうとしない--こんな無責任なことがあってよいのでしょうか。
 1億3000万円もの税金がただ受注企業の懐を潤すだけ、言葉は悪いですが“棚ぼた”に終わり、現場の労働者に還元されない。そんな事態は、決して許されません。区に対して、きちんと各企業の対応状況を把握するように求めるとともに、区の公共工事で働く現場の皆さんに、この1億3000万円がちゃんと皆さんの手に届いているか、ぜひ聞かせて頂きたいと思います。

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