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国政調査権と「特定秘密」(続) ~国会の上に立つ行政権力~

 特定秘密保護法案の第10条第1項第1号イは、特定秘密に対しても国政調査権が及ぶことを約束しているのかどうか。
 この問題に触れる質疑が、国会でありました。11月12日、衆議院の国家安全保障に関する特別委員会で、質問したのは維新の会の山田宏議員です。

山田(宏)委員 この第10条は、「その他公益上の必要による特定秘密の提供」、政府が特定秘密を提供できる場合を幾つか列挙しているわけですが、その第一番目に国会が入っているわけです。
 その書きぶりなんですけれども、「行政機関の長は、次に掲げる場合に限り、特定秘密を提供することができる。」と書いてあるんですが、提供することができると書いてあると、提供しなくてもいいということにも読めそうな気もするんです。ここはやはり、特定秘密を提供しなければならないと書くべきじゃないんですか。なぜそう書かなかったのか、お聞きをしておきたいと思います。
鈴木政府参考人 お答えします。この第10条には、先ほど先生御指摘のような保護措置等、一定の要件が条件となっておりますので、その条件を満たした場合に提供が可能になるということでございまして、その条件を満たした場合に行政機関の長が断るような裁量を認めた趣旨ではございません。

 議会の質疑というのは、ややもすると、狸のばかし合いのようになってしまうときがあります。議会の公の場での答弁は、なかなかに重いものです。言質を取られまい、逃げを残そうと、答弁する側はあれこれ知恵を働かせます。その中には、悪知恵・猿知恵と呼ぶしかないような代物も少なくありません。政府参考人の上の答弁にも、どうもそんな匂いがします。
 山田議員は、国会に特定秘密を提供できるというのはおかしいだろう、提供しなければならないだろう? こう迫りました。これ自体は、至極まっとうな問いかけです。事実、法案10条にはこう書いてあります。

第10条 …行政機関の長は、次に掲げる場合に限り、特定秘密を提供することができる。

 条文は、提供できるです。「できる」ということは、しなくてもよいと読めます。それはおかしい、国会の国政調査権まで否定するのか? と、山田議員ならずとも問いたくなります。これに対して、政府参考人の答えは巧みであり、あえて言えば狡猾です――それが意識されたものかどうかはともかくとして。
 政府参考人は、こう答えています。

この第10条には、先ほど先生御指摘のような保護措置等、一定の要件が条件となっており…その条件を満たした場合に行政機関の長が断るような裁量を認めた趣旨ではございません。

 この答弁の核心は、「裁量を認めたものではない」という最後の部分にあるのか? 違います。その前段、「条件を満たした場合」というところにあります。その条件とは何か。 国会が秘密会にすること? 違います。国会が秘密会にすれば特定秘密が必ず提供されるというのであれば、まだ理解できます。しかし、この答弁の意図は違います。
 もう一度、10条の条文を読んでみてください。

第10条 第4条第3項後段及び第6条から前条までに規定するもののほか、行政機関の長は、次に掲げる場合に限り、特定秘密を提供することができる。
一 特定秘密の提供を受ける者が次に掲げる業務又は公益上特に必要があると認められるこれらに準ずる業務において当該特定秘密を利用する場合…であって、当該特定秘密を利用し、又は知る者の範囲を制限すること、当該業務以外に当該特定秘密が利用されないようにすることその他の当該特定秘密を利用し、又は知る者がこれを保護するために必要なものとして政令で定める措置を講じ、かつ、我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき。
イ (以下、略)

 「一」以下に書いてあること、これが「条件」を記したところなのですが、ここには実は二つのことが書いてあります。一つは、「当該特定秘密を利用し、又は知る者がこれを保護するために必要なものとして政令で定める措置」を講ずることです。この措置には、秘密会にすることが当然、含まれますが、しかしそれだけではありません。その具体的な内容は政令で、つまり政府が任意に定めることとされているのです。政府が政令によって、秘密会だけでない条件を付けてくることは、少なくとも法文上は排除も禁止もされていません。
 さらに問題なのは、二つ目の条件です。それは、「かつ、我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき」という条件です。「認める」のはいったいだれか? それは、特定秘密を利用し、または知る者です。つまり直接には所管の大臣であり、広く言えば政府です。結局、こうなのです。国会が秘密会を開き、国政調査権に基づいて特定秘密の提供を求めたとしても、政府は付加的な条件によって、あるいは「我が国の安全保障に著しい支障」があると判断すれば、特定秘密の提供を拒否できるのです。
 さて、政府参考人の答弁をもう一度、見てください。参考人は、「条件を満たす場合は、提供を断ることは許されない」、そこに裁量の余地はないと答えています。しかし、条件を満たせば断れないと言えるとしても、では「条件を満たす」かどうかを判断するのは誰かと言えば、秘密会にするかどうかを別とすれば、国会ではありません。政府です。そしてこの判断には裁量の余地はしっかりと残されているのですが、参考人はこの点にはみごとに答弁を逃げているのです。
 山田委員は、これ以上、突っ込んだ質疑をしていません。時間がなかったのか、問題意識がそこまでだったのか、あるいはこの程度の答弁で事を済ませることを望んだからか、いずれにしてもそこでおしまいです。そして、衆議院でのこの第10条をめぐる質疑は、私が議事録をチェックした限りはこの1回だけだったようです。

 特定秘密保護法案は、特定秘密の提供を求める国会の権限を政府が制約することを可能とし、国政調査権を骨抜きにし、かくして「国権の最高機関」であるはずの国会のその上に、行政権力を置くものとなっている。私はそう読みました。それは、明確な憲法原理の否定です。この点が、参議院の審議で徹底して論じられることを、強く願うものです。

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