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まるで“区長本位制”? ~「区政推進基本条例」(素案)~

 区議会に「区政推進基本条例」の素案が示され、2回にわたって議論されました。先に示された「骨子案」から素案になる過程で、いくつか修正が入りました。その中で特に気になったことがあります。執行機関の役割について規定した部分です。
 今回、新たに加えられた修正は

区長は、執行機関の事務を統轄し、これを代表する。

とあったものを

区長は、練馬区を統轄し、これを代表する。

に改めるというものです。
 「執行機関」が「練馬区」に変わっています。これだけだと、どんな意味があるのかよくわかりませんが、区自身が定義しているところによれば、「執行機関」とは「区長、教育委員会、選挙管理委員会、監査委員、および農業委員会」のことです。他方、「練馬区」とは地方公共団体そのものであり、執行機関だけでなく議会、そして区民全体を包含する言葉です。つまり、区長は、単に執行機関だけでなく、議会や区民も含めた練馬区全体を「統轄し、代表する」ということになります。区長というのは、すさまじく大きな権限を持っているんだ…そう思い知らされる規定です。
 確かに、地方自治法には

147条 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄し、これを代表する。

と書いてあります。その限りでは、この変更は法の文言ををそのまま引いたものと言うことは可能です。しかし、練馬区を「統轄し、代表する」この区長の権限は、決して無条件でも無前提でもありません。たとえば、同じく地方自治法には、こんな規定もあります。

104条  普通地方公共団体の議会の議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表する。

 ここには、議会を代表するのは議長である、とはっきり書いてあります。つまり、区長の「統轄し、代表する」権限は、議長が議会を「統理し、代表する」権限を前提にし、それを踏まえたものでしかありません。議会自身が直接、主権者である区民から選挙されたものである以上、言い換えれば、主権者との関係で言えば首長と議会の“二元代表制”が定められている以上、これは当然の理です。ところが、「素案」には、議会を代表する議長のこの権限が、一言も触れられていません。まるで議員や議員の組織としての議会が直接に区長の「統轄」の元に置かれているかです。
 さらに、より根本的にいえば、区長が70万の区民を「統轄し、代表する」ことができるのは、区長がただ主権者たる区民の手によって選挙され、かつ、不断に区民の信任と信頼を勝ち得ている限りでのことです。ところが、区長の強大な権限の根底にある主権者としての区民の地位と権限が、素案ではとてもあいまいなままなのです。
 もう一度、区民の権利に関する規定を読んでみましょう。こうなっています。

第2 区民等の権利および責務
(1) 区民等は、区とともに練馬区の自治を担い、育むよう努めるものとする。
(2) 区民等は、区政に参加・参画するとともに、地域コミュニティの活動に関わり、協働することができる。
(3) 区民等は、区が管理する情報を知ることができる。
(4) 区民等は、区政に参加・参画するにあたり、自らの発言と行動に責任を持つものとする。

 ここでは、区民は区、つまり区長や執行機関などと「ともに」自治を担ったり、「参加」したり、「知る」ことができるとは書いてありますが、そもそも、区や区議会を選挙しそのことを通して主権者として練馬区を作るのだという根本的なことが書いてありません。
 これでは、主権者である区民の立場はあいまい、自ら議長を選び議長によって代表されるべき議会の主体性や独立性もあいまい…結局、残るのは区長の強大な権力についての規定のみ、ということになってしまいます。

 区長や執行機関のあり方を定めたこの部分については、もともと区長の権能を一面的に強調した権威主義的なトーンが強く感じられることをこのブログでも指摘しました。
自治基本条例(その6) ~職員~
 今回、素案で付け加えられた変更は、こうした傾向を一段と印象付けるものになっています。これでは“区本位制”いや“区長本位制”になってしまう、と危惧の気持ちもこめて指摘しておきます。もし、区長の「統轄し、代表する」権限を規定するのであれば、議会の代表権、そして何より主権者としての区民の地位をしっかりと書き込むべきです。

 この条例についてはすでに繰り返しブログで触れてきましたし、議会の中でも、論点は出尽くした感があります。一つ一つの文言、用語に始まって、「自治」に対する基本的な考え方まで、異論は多岐にわたって深く広がっています。基本条例としての性格、とりわけ議会も含めた地方公共団体としての練馬区の基本的なあり方にかかわる条例であるだけに、幅広い合意のもとに成立していくのが望ましいことは明らかです。さまざまに出された意見を受けて、区がどのように条例議案の成案をまとめるのか、強い関心を持って見ていこうと思います。

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