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“混乱”迫る光が丘病院 ~20年前をどう思い起すか~ 

 NHKで光が丘病院の問題がかなり詳しく報じられました。“患者の視点”からという問題意識での報道だったのはよくわかりましたが、20年前の混乱に重ねて事態を描いたのはちょっとピントがずれていましたね。

 ある病院が閉鎖されて違う病院に代わる。このこと自体が大きな混乱の原因になることは確かです。しかし、この混乱は、引継ぎのあり方や後継の運営主体の力量、体制によって軽減されることも増幅されることもあります。この点では、20年前、医師会の後に入ってきた日大はきわめて組織的に開院にあたりました。医師の確保、それも専門性を担保したチームとしての医師の確保ひとつとっても、それだけの力が大学病院にはありました。医師会立病院の医療を支えてきた医師たちとの引継ぎは決してうまくいったわけではありませんし、そのことは小さくない傷を残しましたが、新たに開院した病院の医療としてみれば、日大はその強さを発揮しました。しかも、20年前はかなりの数の看護師が籍を移してそのまま光が丘病院に残りました。医師会立病院がなくなることによってすべての職員が職を失うことになったわけですから、日大に籍を移そうと思う人が少なからず出てきたのは当然でした。
 しかし、今回は違います。今回、光が丘病院から撤退しても、日大は二つの大きな病院を運営しています。少なくとも医師や看護師について言えば、いきなり全部が行き場、勤め場を失うことにはなりません。「解雇」ではなく「配転」がむしろ基本になるでしょう。地域医療振興協会は、日大に医師や看護師を残してくれと当初は求めたようですが、日大や個々の職員がそれに応じられないとしても無理からぬところです。しかも、今回は、あとに入ってくる協会はどこかの大病院の医局、どこかの医学部を拠点として診療に乗り出すわけではありません。自治医大が全面的にバックアップするということにでもなればずいぶんと状況は違ってくるでしょうが、今のところそうした話は聞こえてきません。出身母体も、臨床経験も、医療のスタイルや方針も一様ではない、それどころか互いに今回、初めて顔を合わせるかもしれないような医師や看護師をひとつの組織、ひとつの医療のもとに統合することは、とりわけ短期間では至難の業です。たとえ頭数がそろったとしても、それでは医療は始まりません。
 つまり、同じ引き継ぎと言っても、それに伴う“混乱”のリスクは今回の方がずっと大きいのです。この20年の間に引き継がれるべき日大の医療が飛躍的に高度になったことを考えれば、このことは何度でも強調せざるを得ません。20年前、私は一区民として“混乱”の只中にいました。しかし、その経験からしても、あの時と今回を同じように描くことは間違いであると思います。誰が誰に引き継ぐのか。この差は大変大きい。しかも、当時と今とでは決定的な違いがあります。それは、あの時は医師会が残ることなど考えようすらなかったのに、今回はもし日大が残れば引き継ぎに伴う“混乱”そのものを回避することが可能である、そして日大に残ることを期待する大きな声が区民の中にあるということです。NHKは日大が残るという選択肢を切り捨てているのでしょうか。もし切り捨てていないとしたら、20年前との対比はさらに大きな間違いだと言わざるを得ません。
 今、私たちに問われている選択は何か。患者さんたちが抱く当然の不安に応える私たちの責任は、何か。それは、“混乱”を引き起こす事態、日大が撤退の意志を固めるにいたった経過をしっかりと見極め、日大存続の努力を尽くすことです。地域医療振興協会のもとで進められている開院準備が多くの課題や難題を抱えていることがここまで明らかになってきた以上、なおさら日大存続の可能性を追求することはまさに患者さんのために、喫緊のことです。
 今、私たちの前に迫りつつある“混乱”は、避けられる混乱です。練馬区は、残念ながら“混乱”を回避するための真剣な努力をしようとはしていません。このままでは、つらい目にあうのは現場であり、患者さんたちです。日大医学部や病院関係者は、医療者としての責任感とモラルにかけて、今の状態で地域医療振興協会に後を任せることはできないと率直に語るべきです。そして日大本部は、現場の思い、何よりも区民や患者さんのことを第一に考えて、存続の意思を捨てていないことを明らかにすべきです。そうすれば、ボールは明確に、しっかりと練馬区に返されます。
 日大が存続すれば、“混乱”はきっと回避されます。道はあります。いま一歩を!

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