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“投票バリア”

 国民が「主権者」として行使する基本的な権利の一つが、選挙権です。つまり、投票によって、議員や首長を選ぶ権利です。

第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

 選挙権は、当然、法の下の平等の原則に照らして、すべての「成年者」に等しく、かつ公平に保障されなければならないものです。ところが、この選挙権における平等が、どうも形骸化しているように思えてなりません。
 公職選挙法は、各自治体の選挙管理委員会が投票所の場所を告示し、「選挙人は、選挙の当日、自ら投票所に行き、投票をしなければならない」と定めています(44条)。練馬区でいえば、区立小学校など71の施設が投票所になっています。しかし、投票日に投票所に行けない人はどうすればよいのでしょう。
 選挙当日に都合が悪いという人には、「期日前投票」というなんとも便利な、しかしどこか安易な制度ができています。では、心身の事情で投票所まで行くことが難しい人は? 寝たきりのおとしより、人工呼吸器やカテーテルが外せない在宅療養の患者さん、自力で車いすを動かせない身体障害者の方、ひとりで出歩くことが難しい視覚や聴覚の障害者、等々…いわば“投票支援”を必要としている人たちはどうすればよいのでょうか。
 現在ある制度としては、まず郵便投票があります。下肢・体幹の障害の1-2級、内部障害の1-3級のほか、介護保険の要介護度5の人などが利用できるのですが、複雑な登録手続きが必要なこともあってか、実際に使った区民はこの8月の衆議院選挙でもわずか279名です。対象となる人数で言えば、内部障害1-3級は4200人、下肢障害を含む肢体不自由は1-2級で3900人、要介護5は2700人、合計すれば区内で1万人を超えます。1万人で279人。これだけ見ても、郵便投票制度はほとんど機能していないと言ってよいでしょう。しかも、視覚・聴覚障害者、精神障害や知的障害の方などはそもそも郵便投票制度の対象にはなっていません。高齢者の場合にしても、要介護度4以下でも投票所に行くことに大きな困難を抱えている人は決して少なくはありませんが、同じく郵便投票は利用できません。これらの人たちの多くが投票に参加していない、参加できていない可能性は、たいへん高いと思われます。
 もうひとつ、不在者投票の指定施設制度があります。病院や施設に入院・入所している人のために、その病院や施設を不在者投票所として指定し、その施設の管理者が不在者投票を実施するというものです。今、区内では病院や老人保健施設、特別養護老人ホームなど55の施設が指定されていますが、特養だけで入所者は1500人を超えているにもかかわらず、実際の投票数は55施設全体で700人をわずかに超える程度です。入院・入所者がみずから希望する場合に、その希望者に限って不在者投票を認めるという仕組みであるために、大半の入院・入居者には縁遠いものになってしまっているようですし、この制度は、施設や職員が投票を誘導するなど投票管理という点でしばしば問題が指摘されているところでもあります。

 郵便投票や指定施設制度を使った不在者投票でなくとも、ヘルパーや介護サービスが適切に利用できれば投票所に行ける人はたくさんいるはずですし、投票のあり方としてはそれが望ましいとも思いますが、しかし、選挙の日だけのためにそうしたサービスを手配するのは決して簡単なことではありません。それに、お金もかかります。
 国民の基本的な権利である投票権が、障害者や要介護の高齢者などもっとも支援を、したがって政治の力を必要とする人たちのなかで広く空洞化しているとしたら、これは深刻な事態です。権利としての投票行為の保障、“投票バリア”の解消を、真剣に考えてみたいものです。

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