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出かけること

 昨日15日の夜、大泉地域の医療と福祉を考える会が主催する会合がありました。この「考える会」はその名の通り大泉地域を中心として活動する介護・福祉関係者の有志が作る会で、昨年度、WAM(福祉医療機構)の助成事業として取り組んだ「要介護高齢者へのお出かけさせ隊」事業の成果報告を兼ねたパネルディスカッション企画です。主催者やパネラーに顔見知りも多く、議会の仕事もめどが立ったので、参加してみました。パネラーには区の在宅支援課長も加わり、私自身は中座してしまいましたが、あらためて高齢者にとって、いや人間にとって「出かける」ことの意味を考えたくなる時間でした。
 当該の助成事業自体は、4輪歩行車を活用しての外出体験を支援しようということが中心です。この4輪歩行車については、福祉用具としての能力や特徴はそれとして興味深かったのですが、やはり、私がいちばん気になるのは要介護高齢者の自立にとって外出することの持つ意味の大きさ、そして逆に、外出を支援する体制の貧しさです。
 外出は、社会と触れることです。もちろん、自宅にいても社会とは様々な形でつながっていますが、しかし外出することで、社会とのかかわりは格段に豊かに、かつ濃密になります。そして、社会とのかかわりは、人間が人間としての自分を再確認し生きる意欲や目的、意味をつかみ直すために欠かすことのできないものです。もっといえば、外気に触れ、緑を目にし、他の生命を感じることは、生物としての人間の本源的な欲求でもあるはずです。
 なのに、その社会とのかかわり、「社会参加」や「外出」が、要介護の高齢者には本当に難しい。施設、交通手段、道路などのバリア、外出を手助けするマンパワー、さらには外出を意欲し受け入れていく本人の気持ちの支援の難しさ…。この日のレポートは、主として肢体不自由の高齢者のケースでしたが、認知症や閉じこもりの人にとっては、外出をする(望む、意欲する)までの支援が、ほんとうに重要なのに、しかし決定的に欠けています。
 なぜでしょうか。
 私は、大きな原因の一つは、介護保険制度を柱とした公的な支援の貧困にあると思っています。お話の中で、主催者が介護保険法の目的規定を紹介してありました。そこにはこうあります。

(目的)
第一条  この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

 この条文をどう読むかはなかなか議論のあるところですが、「お出かけさせ隊」のテーマに引きつければ、介護保険がその支援の目的を「自立した日常生活」に置いていること、いや「日常生活」にしか置いていないことは実は決定的な問題をはらんでいると言わざるをえません。国の用語、法律用語では、「日常生活」は「社会生活」と区別された概念です。この条文にもあるように、「入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理」などが日常生活の支援の中身です。社会生活、つまり就労はともかく社会活動や地域での生活、余暇や趣味などは介護保険の支援の範囲から始めからはずされているのです。
 このことは、介護保険制度をはじめとした公的な社会保障の中で支えるべき支援をどう考えるかという大きな議論の中で、きわめて重要な論点だったはずなのですが、法制定の際にはほとんど議論になりませんでした。そして、今があります。介護保険給付の大きな課題とされている「外出介護」が象徴的です。介護保険は、趣味はおろか様々な社会生活上のニーズのための外出に対しては、ほとんどサービスの利用を認めていません。それは、介護保険などの公的サービスではなく、地域が、社会が、「互助」が支えるべきという建前だったのかもしれませんが、そんなのは建前にすぎません。いくらかでも現実を見ることのできる人は、地域や周囲にそうした支援を見つけることがどんなに大変か、あるいは当事者にとって権利性も担保されない任意の支援がどれほど限界のあるものか、よくわかることです。
 ごくごく限られた支援の範囲しか視野に入れようとしない介護保険と、孤立した生活環境のはざまで、たくさんの要介護高齢者が「外出」の機会を奪われ、自立の糸口を見失い、そして人間らしい生活の尊厳を削られていっています。最後は、やはりこの問題に正面から取り組まなければならない。私は、そう思います。

 それにしても、日々の介護事業に追われている皆さんが、こうして自主的に、地域での要介護高齢者の暮らしのありよう、課題やニーズに向かい合おうとしている姿勢は貴重です。こうした試みが、大きな制度の見直しや区政の変革の素地を広げていくことを期待しています。

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