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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

感染予防・医療体制にわずか828万円! ~補正予算に反対しました~

練馬区議会第3回定例会が、11日から始まっています。3日間の一般質問を終え、18日は補正予算案を議決する本会議。私が所属する会派・市民の声ねりまは、補正予算案に反対しました。反対は、私たち3人とオンブズマン練馬の4人だけ。数の勝負で見れば“完敗”ですが、とても賛成できる予算案ではありませんでした。
私たちが反対した理由はいくつもありますが、いちばんは、「新型コロナ」に備える感染予防対策を進め医療体制を守る意思がほとんど伝わってこないということです。

区自身の資料によれば、補正予算の中で「感染拡大防止と医療提供体制の充実」に当てられる経費はわずか828万円しかありません。総額で74億円を超える補正予算の中の、わずか828万円です。828万円で何をするのか。中身はこうです。

710万円で「自宅療養セット」

まず、710万円が「自宅療養セット」。自宅療養している感染者などにセットで物資を届ける。何を? 1週間分のレトルトのごはんやカレーや、ジュースやら。それと血中酸素飽和度測定器の貸与。これだけです。

このセットをだいたい3人に配布する。そんな想定で積算すると、配送費もあわせて710万円になるのだと。しかし、いったいこのセット、どういう人のどういうニーズを想定しているんでしょう。メニューは極めてありふれたレトルト食品。こんなのわざわざ区からもらわなくても、いくらでも手に入れられるのでは? それに、このセットは1週間分らしいのですが、牛丼5回、カレー5回、野菜は「ジュース」で…って、いったいてどんな食生活を支えようと思っているのでしょう。療養している人には弁当や調理された食事を届ける。そのくらいのことはもうたくさんの自治体がやっています。こんなレトルトセットをポンと送って「自宅療養の感染者を支援する」なんて、申し訳ないが笑止千万です。

いやいや、そもそも自宅療養者に欠けているもの、必要なものは、決して食事だけではないし、食事が一番でもありません。感染が分かったのに、そして自宅にいれば家族を感染させるかもしれないし、あるいは自分で外に出てしまえばだれかを感染させるかもしれないと分かっているのに、なぜ自宅での療養にこだわるのか? そこには自宅を離れられない、離れたくない様々な事情があります。小さな子どもをどうしよう。年老いた親をどうしよう。障害のある家族の暮らしをどうしよう。あるいは、仕事を休むわけにはいかない、会社にも言いたくない、そんな人もいるようです。
もし自分が自宅を離れたら、すぐに壊れてしまうかもしれない暮らしがたくさんあるのです。そんな暮らしをどう支えるか。自宅療養を考える際の最大の課題はここにあります。しっかりした支援があれば、もしかしたら施設に移れるかもしれない。移れないにしても、他人に感染するリスクをていねいに減らしていけるかもしれない…。レトルトセットは、もらって悪い気はしないが、しかしあってもなくてもたいして暮らしは変わらない、そんなどこかの景品セットと大差ないと思えてなりません。

さらに、自宅療養をする感染者にどうしても欠かせないものは、適切な療養の管理と指導の体制です。本当に症状の出ないままに感染が消える人もいるでしょうが、しかしいろんな症状が出てくる、あるいは症状が悪化するケースも少なくありません。二次的な感染を避けるためにどういう暮らし方をすればよいかも、専門家の助言や指導が不可欠です。病院は言うまでもなく、施設での療養でも医療スタッフが必ずいますが、自宅ではそうはいきません。もともと自宅療養の人に対しては保健所が経過をフォローすることになっていたのですが、保健所にはとてもそんな余裕がなく、療養終了のタイミングで電話を掛けるのがやっとという話も聞きます。もし自宅療養者に何かのセットを贈るのなら、①医師や保健師・看護師などの定期的な訪問・連絡、②栄養管理と状況把握を兼ねた食事の提供、③家族への保育、介護、見守りなどの支援のセットにすべきです。そのためには、地域の医療機関や支援機関の協力が不可欠ですが、しかし、それはとても710万円では不可能です。

新型コロナへの感染が確認された人は、原則、入院なのですが、実際には軽症者や未発症者を中心にホテルなどでの施設療養が認められ、さらには自宅で療養することも事実上、公認されつつあります。症状がないか軽い人をあえて入院させれば医療機関の機能はパンクしてしまうというのはよくわかることですが、他方で、無症状や未発症であっても他人を感染させるリスクはあり、とりわけ自宅療養の場合はしっかりした感染対策と療養の管理が不可欠です。広がる自宅療養に対する対策は、今後の感染予防の大きな柱の一つとも言えます。自宅療養に着目したこと自体は間違っていませんが、しかし、この「自宅療養セット」はあまりに矮小で、思想や理念が決定的に欠けています。

医療を支える意思が伝わらない

828万円のうち自宅療養セット以外の残りは、60万円ほどで「応援アート」の作成予算が計上されています。医療従事者を応援するアート、たぶん絵画になるのだと思いますが、それを学生や地域の子どもたちに作ってもらい、光が丘病院の建築工事現場に掲示するというものだそうです。もう、ここまで来るとあえてコメントする気持ちもなえてしまいます。感謝する気持ちがあれば、それは区民の自発的な行為として盛り上げていけばよい。税金でやるべきは、「感謝」や「アート」ではなく、実際に医療体制を支えるための支援です。
この点では、地域の医療機関やそこで働く人々への支援が全く考慮されていないのも、今回の補正予算の大きな欠陥です。3月から5月ごろにかけて、あらゆる医療機関が程度の差はあれ深刻な経営上のダメージを受けました。たくさんの診療所が今、唾液のPCR検査に協力してくれていますが、しかしそれ自体リスクを背負うことであり、これからインフルエンザの流行などと重なれば、リスクはさらに高まります。なぜ医療と医療体制を支える意思を明確に打ち出さないのか? ほんとうに不思議です。

「セット」も「アート」も、行政の仕事としてはあまりに矮小です。そしてこんな矮小なものしか「感染拡大防止と医療提供体制の充実」のための事業がないという、補正予算の恐ろしいほどの貧相さも際立っています。この1点を取り出しても、補正予算に賛成できないと私たちは考えました。
最後に、本会議での私の反対討論を採録しておきます。ご覧頂けると嬉しいです。


補正予算案に対する反対討論

市民の声ねりまを代表し、議案第104号に反対の立場から討論を行います。

もうすぐ10月。緊急事態宣言をはさんで、「新型コロナ」禍への対応に追われた半年が過ぎました。「コロナ」禍は、区民生活の経済的な基盤だけでなく、社会的なかかわりから生まれる精神的な安定や人間らしい感性まで、人々の心から削り取ってきました。「コロナ」禍の下で私たちが失ったものは、本当に広く、深い。
たくさんの悲鳴が聞こえ、当然ながら区への期待はほとんど無限に広がっていきました。限られた財源と限られた社会資源の下で、すべてに十分な答えを出すのは不可能です。必要なことは何を優先すべきか考え抜くこと、区民の負担感を見極めて事業の公平性に意を尽くすこと、中長期的な見通しをしっかり示しながら、今できること、すべきことについて区民との対話を深めることです。

「新型コロナ」対策を柱とした補正予算は、今回で4回目になります。5月6月の補正には、私たちは賛成しました。不十分な点がいろいろあったとしても、まずは動き出すこと。その大切さを踏まえての判断でした。しかし、8月補正は多くの重大な論点があったにもかかわらず、議会は審査の機会すら与えられませんでした。予算議案の異例の専決処分は、私たちに議会の責任を強く自覚させる機会となりました。
そして、今回の9月補正です。それは、これまで後手に回っていたこと、目配りしきれなかったことを是正し区政の構えを立て直すチャンスでした。決算剰余金や国の交付金などの大型の財源を歳入とするこの補正は、踏み込みが可能な数少ない機会だったからです。しかし、これまで私たちが指摘したゆがみや不十分さは是正され挽回されることはありませんでした。

6月補正で打ち出されたプレミアム付き商品券事業では、プレミアムの恩恵にあずかった区民はわずか13000人。しかも、商品券が使える店舗は1300、青色申告の事業所数と比べても30分の1にしかなりません。3億円も税金をつぎ込みながら、フリーランスも含めたくさんの事業者、区民が蚊帳の外に置かれてしまうという不公平感は、放置されたままです。
8月補正では、やっと、行政検査の枠を超えたPCR検査が施設新規入所者への検査という形で実現しました。しかし、なぜ特養と老健だけなのか。認知症のグループホームや有料老人ホームは、なぜはずすのか。職員は、どうするのか。感染リスクの高い高齢者を守ることは「コロナ」対策の戦略的な課題であるはずなのに、およそ道理の通らない中途半端な対策は、9月補正でも是正も拡充もされないままです。
この半年間、医療機関が受けたダメージは大きいものがありました。8月補正では4つの病院に対して経営支援のために7億円の予算が組まれましたが、しかし、地域の診療所もまた、少なくない感染リスクと向き合って来ましたし、これからはなおさらです。「コロナ」が受療行動を大きく変容させ、経営の基盤が揺らぎ、地域医療体制に亀裂が入りつつあるという点では、すべての医療機関がサポートを必要としていたはずなのに、区の対応は、きわめて限定的なものにとどまっています。
広がる自宅療養に対する対応も、今回の補正の大きな課題でした。わずかな自宅療養セットだけではなく、自宅療養者の適切な療養を支えるために地域の医療機関や支援機関の協力を仰ぐ、小さな子どもや障害者、要介護の高齢者など感染者が安心して療養することを困難にする家族の状況に踏み込んだ支援の体制を構築する。他の自治体では早くから手を付けているところもあるのに、なぜ練馬区は正面から取り組もうとしないのでしょうか。
とにかく、総額74億円の補正予算のうち感染拡大防止や医療の充実のための経費がわずか828万円とは、あまりに貧相です。

国保なのに雇用労働者しか対象としない傷病手当金、障害年金受給者を除外したひとり親支援、みずからは一人の若者の雇用も作り出そうとしない「生活再建支援」…事業の趣旨や公平性を問われかねない事業が、そのほかにもいくつもあります。
「新型コロナ」禍に向き合って、区が努力を重ねてきたことは否定しません。しかし、もはやそれで満足するわけにはいきません。区が受け止め切れていないたくさんの声、取りこぼしてきたたくさんの暮らしがある。これからまた来るかもしれない感染拡大を前に、社会と医療の脆弱さやほころびは、あちこちで顔をのぞかせている。そうした現実を受け止める視野と覚悟が、残念ながら練馬区政には足りません。あえてそのことを指摘して、反対討論とします。

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