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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

「としまえん」と防災 ~後回しにされていないか? ~

「先月18日には、ワーナーブラザースジャパン、西武鉄道などから、ハリーポッター・スタジオツアー施設のオープンが発表されています。練馬城址公園の段階的整備に合わせ、ロンドンに次いで世界で2番目となる施設の整備が正式に決定したことは、区として大いに歓迎したいと思っています。」
           前川練馬区長 9月11日区議会本会議での所信表明から

「区として大いに歓迎したい」。区長がここまで言い切るとは、さすがに驚きでした。これだけ課題が山積し、これだけ地域から異論が出ているのに。“聞く耳を持たす”ということか。『覚書』に署名した以上、これ以外には言いようがないということか…。

しかし、それにしても軽い。ハリーポッターが好きかどうかは、ここでは関係がありません。私自身について言えば、子どもたちも含め、ハリーポッターにはずいぶんお世話になりました。問題は、としまえんの跡に、しかもこれだけの規模としつらえで「スタジオ」を造ることをどう考えるか、とりわけ防災や緑と水、そして地域の賑わいという視点でどうかということです。この点では、解決どころか説明すらされていない課題があまりに多くあります。だからこそ、全部で5本もの請願・陳情が区議会に出されたとも言えます。なぜ軽々に「大いに歓迎」などと言えるのか? 本当に不思議で、違和感が押さえられません。

防災という視点から少し整理してみます。

としまえんは防災の拠点だった

閉鎖されたとしまえんは民間の遊園地でしたが、地域の防災の拠点としても位置付けられ、具体的には「避難場所」と「災害時臨時離着陸場候補地」として都から指定されていました。例の『覚書』でも、
・震災時の避難場所や災害時臨時離着陸場候補地となる広場と防災施設の確保
・周辺地域から東西、南北方向に避難出来る園路の確保
が練馬城址公園整備にあたって実現されるべき機能として明記されていますが、これらは、現にとしまえんが果たしてきた機能を確認し充実させていくというものでもあります。

「避難場所」とは何か。都の『地域防災計画』にはこう書かれています。

「区部においては、平成30 年6月現在、避難場所213 か所、地区内残留地区37か所、避難道路58 路線を指定している。避難場所は、指定された避難場所までの避難距離が3km 未満となるようにその避難圏域を指定し、避難場所周辺での大規模な市街地火災が発生した場合のふく射熱を考慮した利用可能な空間として、避難計画人口一人当たり1㎡以上を確保することを原則としている。」 『東京都地域防災計画(本編)』P474

この「避難場所」は「地震火災から住民の生命を守るため、火災が鎮火するまで待つ場所」という位置づけで、被災した人などが一定期間生活をするための場所である「避難所」とは異なります。大震災の際には大規模な火災が発生する危険性は高く、そして火災の類焼は建物や財産だけでなく直接に人命を脅かします。火災以外の様々なリスクも含め、一時的に避難することが可能なオープンスペースが準備されているかどうかは、防災上、たいへん重要な課題です。
23区に213カ所ある避難場所のうち区内では13カ所が指定されており、としまえんもその一つです。各避難場所には、それぞれに担当する区域が決められており、としまえんは春日町1丁目の一部、貫井1~5丁目、向山1~4丁目、中村1~3丁目、中村南1~3丁目、中村北1~4丁目が担当区域になっています。人口でいうと63,669人。大規模な火災のときには、これだけの人がとしまえんをめざして避難してくる可能性があるということです。もちろん、風向きや火災の発生状況によっては他の地域から避難してくる人もいるかもしれませんが、少なくともこれだけの人が避難し火災の難を逃れることを可能にする場所であること――それがとしまえんに求められていた大切な公的な機能であり、としまえん後も引き続き維持されなければならない最低限の機能ということになります。

「スタジオ」は避難場所を削り取る?

ところが、ハリーポッター施設の計画を見ていると、この避難場所としての機能が本当に維持できるのか、大いに不安が募ってきます。
避難場所には、当然、その機能にふさわしい条件があります。先に紹介した『地域防災計画』によると、「避難計画人口一人当たり1㎡以上を確保すること」が原則とされています。都の避難場所一覧(こちら)では、としまえんの区域面積228,116㎡のうち避難有効面積は 97,668㎡。一人当たり有効面積は1.53㎡となっています。約10haの空間に6万人強の人が避難するという想定です。この避難有効面積がどのエリアを差しているのか明示した資料は確認できていませんが、都の公園審議会に提出された資料の中に該当する区域を示したと思われるものがありました。

緑色の「避難・活動の場に適する平坦地」が3カ所あります。この3カ所を合計して「避難有効面積」を出しているものと思われます。なるほど現状は、それぞれ開けた空間を作っています。
しかし、この中の最も大きな円、右上の円が、まさに「ハリーポッター・スタジオ」で消えてしまいませんか? それも、完璧に。このままなら、「ハリーポッター」によって、命を守るべき避難場所が削り取られることになってしまいます。

この位置にこの規模で防災のための避難場所を指定している東京都が、なぜ現在の「スタジオ」計画を了解できるのか、理解しがたいことです。都は、防災よりも、つまりはいのちと安全よりも「スタジオ」の方が優先なのか? そう言われても仕方ありません。
もし、この場所に代わる空地を他に用意するというのなら示すべきです。それも直ちに。工事が始まり、すでにこの空間は閉鎖され使えない状態になりつつあります。解体工事は1年も続く予定です。その間の避難場所すら示されてはいません。

開発優先、「ハリーポッター」優先の異様な事業展開は、本当に目に余ります。

コメント

  1. 村上泉 より:

    旧豊島園については、小池百合子が裏で絡んでいると私は推測している。小池自身は何も述べていないが。都の防災計画との整合性をどう付けるのか、やはり裏があると推測せざるを得ない。しかも、練馬区長の表明が早すぎる。コロナで小池が忙しいとでも言うのだろうか?。又、西武本体の苦しさから、一気に進めたフィクサーが絶対いるとも推測する。何も証拠も無い私の勘ぐりだ。

  2. […] →このブログ9/13の投稿『「としまえん」と防災 ~後回しにされていないか? ~』は こちら […]

  3. […] 避難場所をめぐる議論の経緯は以下の記事をご参照ください。→「としまえん」と防災 ~後回しにされていないか? ~ →「避難場所」はどうなったのか? ~区議会でのやり取りから~ […]

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