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「特定園のみ希望」の“怪” ~「待機児童」はいったい何人? ⑤~

認可外保育を利用することになって待機児童の数から除かれていく子どもの数は、認可外保育の定員自体が大きく減ってきたために、ここのところ減少を続けてきました。それにかわって急増してきたのが「特定園のみ希望」という類型です。

厚生労働省は毎年、保育所等利用待機児数調査等実態調査を行いその結果を取りまとめています。この調査にあたって出される通知で調査要領が示され、その中で待機児童数をどのように数えるかが詳細に示されており、これがいわゆる「待機児童の定義」と呼ばれるものです。最新の定義では、「特定園のみ希望」の場合の待機児童数カウントの考え方について、こう書かれています。

保護者の意向を丁寧に確認しながら、他に利用可能な保育所等の情報の提供を行ったにも関わらず、特定の保育所等を希望し、待機している場合には待機児童数には含めないこと。
ただし、特定の保育所等を希望することに、特別な支援が必要な子どもの受入れ体制が整っていないなどやむを得ない理由がある場合には、待機児童数に含めること。

※ 「他に利用可能な保育所等」とは、以下に該当するもの(3.の(1)から(4)までに掲げる事業又は施設を含む。)とすること。
(1) 開所時間が保護者の需要に応えている。(例えば、希望の保育所等と開所時間に差異がないなど。)
(2) 立地条件が登園するのに無理がない。(例えば、通常の交通手段により、自宅から20~30分未満で登園が可能など、地域における地理的な要因や通常の交通手段の違い等を考慮した上で、通勤時間、通勤経路等を踏まえて判断する。)

要するに、他に希望にかなう園や事業がありそのことについてきちんと知らせているのに、あえてそこを利用しなかったのだから、それは「待機」とは認めませんよ――そういう理屈です。しかし、なぜ特定の園にこだわるのか、保護者の事情や思いが掘り下げられ、検証されることはありませんでした。例えば「登園するのに無理がない」とみなされる距離は、練馬区の場合は実測で2kmです。しかし、小さな乳幼児を連れての2kmは、本当に「無理がない」距離でしょうか。
また、もともとは「他に利用可能な保育所等」は認可保育所に限られていましたが、2009年度から認可外の保育についても一定の範囲で対象とすることになりました。たとえば、今年度2018年4月の実績では、「他に利用可能な保育所あり」とされて待機児童から外された人のうち該当するのが認可外の保育である人は105人に上ります。認可と認可外では、施設環境や利用者負担に大きな差があります。認可なら行けるけれど認可外は難しいと考える保護者がいたとしても、それは決して利己的でも不合理でもないはずです。それなのに、認可にこだわれば「待機児童」ではないとされてしまったのです。

さらに今回、この「特定園のみ希望」という類型になんとも異質なグループがひとまとめにされていることが分かりました。このシリーズの第1回で紹介した表では、「特定園のみ希望」が489人となっています。ところが、実際には国の定義に従って「他に利用可能な保育所あり」と判定された人は、そのうちのほぼ半分、252人でしかありません。その他はというと、「単願」が157人、「求職活動休止」が80人もいるのです。
なぜ「単願」つまり一つの園だけ希望を出している場合に、近くに空きがあろうがなかろうが「特定園のみ希望」に入れられてしまうのか。「求職活動」をあきらめた人が、なぜ「特定園のみ希望」に入るのか。理解しがたいというだけでなく、実際のニーズを大きくゆがめてしまう数字の処理だと言わざるを得ません。

いずれにしても、「特定園のみ希望」という言葉から伝わる“入れるのに、入ろうとしなかった”という印象とはずいぶんと違った実態があることは明らかです。

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