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費用対便益「1.01」の衝撃 ~外環自動車道の「再評価」始まる②~

こうしてグラフにしてみると、あらためて想定事業費の異様な増加ぶりがよくわかります。前回、2回目の再評価と今回との差は6,752億円。監視委員会に出された資料によると、事業費を高騰させた要因はこうなっています。

事業費増加の最大かつ圧倒的な要因は、中央ジャンクション部における「地中拡幅部」の工法変更などによるものです。外環本線トンネルとジャンクション・インターチェンジのランプトンネルを地中深くで閉削のまま一つのトンネルにまとめ、道路をつなぐ。このまとめ、つなぐ部分を「地中拡幅部」と呼ぶのですが、これが「世界でも類を見ない規模の、技術的困難さを伴う工事」と国交省自身が認める超難工事で、この地中拡幅部の設計や工法で見直しが重ねられ、文字通りうなぎ上りに事業費が増高してしまったというわけです。

しかし、地中拡幅部の工事は、ようやく中央ジャンクション部で詳細設計に入った段階です。これから実際に整備に入っていくなかで、事業費がさらに増大する可能性は決して小さくはないでしょう。しかも、地中拡幅部は中央ジャンクション部だけではありません。もう一つ、青梅街道インターチェンジ部分でも地中拡幅部の工事が必要になります。しかし、こちらはいまだ設計にすら入っていません。つまり、中央ジャンクション部分で今回、明らかになった大幅な事業費増加が青梅街道インター部でも必ず起きるはずです。

事業費は、さらに、確実に増える。それも巨大な規模で――普通ならそう考える状況です。

事業費の急増は、しかし、事業の意義や必要性そのものへの疑念を呼び起こさざるを得ません。公共事業は、その意義や必要性を経済的な算術を通して検証することになっています。「費用対便益」評価という仕組みです。よくB/C (B by C)と言われます。事業にかかる費用=Costと事業が生み出す便益=Benefit、つまり経済的な効果・利益を比較勘案して事業の必要性を判断するというものです。実は、国交省の事業再評価の目的は、つまるところこの「費用対便益」を算出し直すというところにあるといっても過言ではありません。

今回の再評価で「費用対便益」がどうなったか。監視委員会の資料を基に整理してみました。こちらです。

※費用対便益の計算においては、費用も便益も単純な合計ではなく、実際に支出される、もしくは収益される時期を勘案して調整することになっている。具体的には、1年先になるごとに4%を割り引く。そして、費用も便益も50年を基本に算出する。そんなルールでこの間、費用対便益は計算されており、この割引を行っているために上の表の費用の金額は最初に紹介した事業費の額とは異なっている

費用対便益の数字は、2013年、事業採択時の評価では2.3となっています。つまり、外環道を整備することによって得られる利益を金銭換算すれば、整備に必要な経費の2.3倍になるということです。この時の費用対便益について、区の所管課長が議会でコメントしています。2013年2月14日の交通対策特別委員会です。

◎交通企画課長 B/C、いわゆる費用対便益の数値につきましては、社会的便益と事業に必要な費用を算定することで、事業の効果を評価する指標でございます。
 数値が、コストに対してベネフィット(便益)が1対1になっていることが、B/Cが1になるということでございますが、数値が1を超えると便益の方がコストよりも大きいということでございますので、社会的な意義がある事業だと考えられている指標でございます。
 今回の2.3という数値につきましては、社会的な効果が高いという評価ができると思っていまして、外環は依然として効果の高い事業だと認識しているところでございます。

費用対便益で考慮される社会的な利益・便益・負担・影響等自体が狭いものであり、費用対便益の数字をもって直ちに事業の必要性、正当性を主張することには慎重でありたいとは思いますが、少なくとも費用対便益の数字が「1」をしっかりと上回らない限り、公共事業の意義、必要性が問われるというのが、国や自治体の公式の立場でした。そして今回、外環道のその費用対便益がなんと「1.01」にまで落ち込んでしまったのです。

費用対便益がここまで落ち込んだのは、一つは費用が激増したからですが、同時に上の表をご覧になるとよくわかりますが、便益の方が大幅に減少しています。便益の大半は「走行時間短縮便益」、つまり新しい道路ができることで他の道路を使っていた車の走行時間が短縮される分を金銭換算したものです。この走行時間短縮便益も含め、便益の単純な合計額はそう変わっていないのですが、供用までの時間が大幅に伸びたために現在価値に割り戻した際の金額が大きく落ち込んでしまったようです。たとえば、前回2016年の再評価の時点では供用開始は5年後の2021年となっていました。ところが、今回の再評価では10年後の2030年になっています。つまり、便益を回収し始めるまでの期間が倍になってしまっています。単純に計算すれば、5年先送りになるだけで現在価値としては2割程度減額になってしまいいます。

費用はかさみ、便益は削られる。こうして出てきたのが「1.01」です。辛うじて、本当に辛うじて「1」を超えた、というところでしょうか。いや、「1」を超えるように何とか取り繕った。そうも言いたくなる数字です。というのも、今後、さらに費用がかさみ便益が減じられる要素はいくつもあるからです。たとえば
①青梅街道インターチェンジ地中拡幅部などの大幅な事業費増がまったく見込まれていない
②便益推計の前提として使われたのがなんと10年前の道路交通センサスで、その後に行われた2015年のセンサスを用いれば便益はさらに減る可能性が高い
③2030年供用開始の実現性は怪しい
などの事情があるからです。

③について少し触れると、前2回の再評価の際は「事業の見込み」として供用開始年次まで見通した事業の工程表が書き込まれていました。ところが、今回の再評価では、工程表は2020年度までしかありません。便益計算に用いた2030年という数字は、あくまで「算定上設定した完成年度」にすぎません。要するに、いつ事業が終わるか、いくらかでも責任ある見通しを出せなかったということでしょう。しかし、では事業認可期間はどうするのでしょう。今年度で認可期間が終了し期間の延長が不可避なのですが、いったいいつまで、何を根拠に延長するのでしょう?

外環道事業は、本当に深刻な隘路に立ち至っている。そう言わざるを得ません。費用を抑えるために抜本的に計画の見直しを行うことが不可避の段階に来ているのではないか。それ抜きに、このままのスキームで事業認可期間を延長することは認められない。私は、そう考えます。

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