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「発熱外来」について ~「新型コロナ」”リスク対話”(7)~

杉並区が、区内の4つの基幹医療機関で「発熱外来」を開設するという方針を公けにしました。あわせて、この「発熱外来」開設も含めた新型コロナ対策関連の補正予算、総額25億円弱を取りまとめ、今月20日に臨時議会を開催して提案するとのことです。「発熱外来」の設置場所としては、具体的には河北総合、荻窪、佼成、東京衛生の4病院を想定しているようです。

「発熱外来」は、とても貴重な提起、チャレンジを含むものだと思います。ぜひ練馬区でも検討をしてもらいたい。そんな思いも込めて、まずはこの「発熱外来」の持つ意味について整理をしてみました。

対話その5 なぜ今、「発熱外来」なのか

杉並区の田中区長は、公式サイトのメッセージで「発熱外来」開設の趣旨をこう語っています。

→メッセージは こちら から
→補正予算案の説明資料は こちら から

各基幹病院に「(仮称)発熱外来センター」を設置します。新型コロナウイルスに感染の疑いがある患者を診察するためには、他の患者との動線・空間の分離や患者ごとの防護服の着脱が必要ですが、小規模・少人数で運営している多くの開業医においては、現在のところ対応は困難です。そこで基幹病院に「(仮称)発熱外来センター」を設置して、これまで各病院で蓄積されたノウハウを生かしながら、医師会の開業医がローテーションで診察を行う体制を作ろうということです(図参照)。これが機能していけば地域の診療所を院内感染から守ることができ、開業医が各々の地域で患者の診療に専念できるとともに、各病院の診療体制の強化にも資することになります。

上のイメージ図も、記者会見で示されたものです。
地域の医療機関の中には、しっかりした感染防護策を取ることが施設・人員面で困難な診療所等が数多くあります。そうした医療機関が直接、感染リスクのある患者さんを受け入れるのではなく、感染対応の整った専門的な外来を何カ所かの基幹的な病院に置き、患者さんをそちらに集約する。基本はこういうものです。杉並区の説明では、発熱外来での実際の診療にあたるのはそれぞれの基幹病院の医師ではなく、医師会の開業医がローテーションで入るとのこと。「開業医約40人の協力も得て輪番制で診察する」(東京新聞4/14)と報道されています。

感染リスクのある患者さんを受け入れるにあたっては、職員だけでなく他の患者さんへの感染(二次感染)を避けるためにも、診療ブースや導線、職員担当、機器材の使用などを明確に区別することが必要です。しかし、小さな医療機関ではそもそも外来ブースを二つ取ること自体が困難であり、加えて疑いケースとそうでないケースに分けて医療スタッフを配置することも容易ではありません。このまま市中の一般医療機関に感染リスクのある患者さんが直接、アクセスすることになれば、院内感染の拡大が避けがたい。医療機能は大きく損なわれ、感染症医療だけでなく地域医療全般が崩壊の危機に直面する。こうした杉並区の危機感は十分に共感できます。
地域の開業医が40人も加わって輪番を組むというのも驚きです。ここまでの調整は、容易ではなかったではないかと思えます。しかし、それだけ市中の医療機関の危機感もまた強いということでもあります。区長はこうも言っています。

地域医療の最前線を担う「かかりつけ医」(開業医)は、いつ自分が感染してもおかしくない危険な状況におかれています。実際に、発熱・せき・味覚・嗅覚障害などの「かぜ」症状の患者を診察した中で、多数の感染者が見つかっています。

いわば、開業医が共同で新しい専門外来を開設する。そのバックアップを基幹病院が買って出る。そして、区がコーディネートと財政的な裏付けを与える。そういう絵図がはっきり見えてきます。

しかし、この杉並区の「発熱外来」は、新型コロナの感染が確認されて以来、この国がとってきた医療体制の在り方に反省を迫るものでもあります。いったいこれまでは感染リスクのある患者さんはどのようにして医療につながっていたのでしょうか。これまで感染の疑いのある人の診療を一手に取り扱ってきた「帰国者・接触者外来」とは何だったのか。それと「発熱外来」はどう違うのでしょうか。そして、そもそもなぜ一自治体である杉並区が動くことになったのか。
奥の深い問題が見えてきそうです。(続く)

※“リスク対話”のテーブルです。ご意見をお待ちしています。
※できるだけ根拠をたどりながら記事を書いていますが、事実と違うという点もあるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。

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