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緊急事態宣言と「外出自粛」 ~「新型コロナ」”リスク対話”(番外2)~

7日、政府は「緊急事態宣言」を出しました。

この宣言は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の32条で定められているものです。「新型コロナ」ウィルスは、先日の国会での法改正で、この特別措置法の対象である新型インフルエンザ等と同様の取り扱いをすることとされました。特措法に基づいて政府は『新型インフルエンザ等対策政府行動計画』を定めていますが、これについても「新型コロナ」ウィルス感染症にそのまま適用することになりました。この『行動計画』では、緊急事態宣言の意味をこうまとめています。

「緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等緊急事態措置を講じなければ、医療提供の限界を超えてしまい、国民の生命・健康を保護できず、社会混乱を招くおそれが生じる事態であることを示すものである」

「医療提供の限界を超える」つまり”医療崩壊”が感染対策の最大の関心事であることは、先の記事でも書いた通りですが、緊急事態宣言はその延長にあります。

宣言が出されれば、宣言で指定された地域の都道府県知事は感染のまん延防止、医療提供体制の確保などのために必要な措置をとることができるようになります。その中には、施設の使用制限や休業の要請・指示、医療の確保のための土地・建物の使用などの踏み込んだ措置がとれるようになっていますが、実際に想定されている措置は「国民の行動変容」、端的に言えば「外出自粛」を国民に強く促すことに眼目を置いたものになっています。
宣言に先立って対策本部が取りまとめた『新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針』は、こう書いています。

「実効性のある施策を包括的に確実かつ迅速に実行するにあたってはクラスター対策を行う体制の強化や医療提供体制の確保が喫緊の課題であり、これまでの施策を十分な有効性を持たせて実施していくとともに、特に不要不急の外出など外出自粛の要請等を強力に行い、人と人との接触を徹底的に低減することで、必要な対策を実施することとする」
「緊急事態宣言は、政府や地方公共団体、医療関係者、専門家、事業者を含む国民が一丸となって、これまでの施策をさらに加速させることを目的として行うものである。接触機会の低減に徹底的に取り組めば、事態を収束に向かわせることが可能であり、以下の対策を進めることにより、最低 7 割、極力 8 割程度の接触機会の低減を目指す。」

医療については、すでに打ち出されている政策を「十分な有効性を持たせて実施」するところにとどまっています。他方、繰り返し強調されているのが「外出自粛」、厳密に(正確に)言えば「接触機会の低減」のための協力要請です。最低でも7割、できれば8割、接触機会を減らす。それが感染収束の鍵だ。これが、今回の緊急事態宣言で道筋を付けようとする具体的な目標ということになります。
この点は、宣言発令に合わせた安倍首相の記者会見でも、際立って強く言及されています。

「最も重要なことは、何よりも、国民の皆様の行動変容、つまり行動を変えることです。専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割、削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。 効果を見極める期間も含め、ゴールデンウィークが終わる5月6日までの1か月間に限定して、国民の皆様には、7割から8割の削減を目指し、外出自粛をお願いします。」

ご覧の通り、首相は「人と人との接触機会を最低7割、極力8割、削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と断言しています。これは、たいへん具体的でかつ責任の重い発言です。

この「接触機会」と「外出自粛」の意味や背景については改めて考えたいと思いますが、しかし、7割8割と接触機会を減らすというのは容易なことではありません。どうやってこの目標を実現するのか?
たいていの外出には、行き先、目的があります。買い物であったり、仕事であったり、娯楽であったり…。休業や施設の使用停止を求めることでそうした行先を一つずつつぶしていくことは、外出を抑制し接触機会を抑え込む手っ取り早い措置ですが、事業者や経済活動、市民生活への大きな影響を考慮して、今、政府はそこまで踏み込むことにはとても慎重です。例えば、首相は会見の中でこうも言っています。

「緊急事態を宣言しても、海外で見られるような都市封鎖を行うものではなく、公共交通機関など必要な経済社会サービスは可能な限り維持しながら、密閉、密集、密接の3つの密を防ぐことなどによって、感染拡大を防止していく、という対応に変わりはありません。 他方で、緊急事態措置の実効性を高め、爆発的な感染拡大を防ぐためには、今般改定を行った、基本的対処方針に基づき、都道府県からの外出自粛要請等への全面的な御協力や、社会機能維持のための事業の継続など、国民の皆様、お一人お一人に十分な御協力をお願いする必要があります。」

国民に強く「外出自粛」を求める一方で、「必要な経済社会サービスは維持する」「公共交通も維持する」「社会機能の維持のための事業継続」を求めるといったメッセージが前面に出てきます。つまりこうです。

  1. 緊急事態を宣言する
  2. 接触機会の削減を大目標として掲げる
  3. 国民に行動変容、「外出自粛」を「強く要請」する
  4. 直接、民間の社会経済活動を抑制する手段については、慎重に検討する

しかし、「社会経済サービス」を維持しつつ大幅な「外出自粛」を求めるという立場は、ある種の二律背反、深刻な矛盾をはらんでいます。片方の手で「出かけるな」と制止をし、もう片方の手では「仕事を続けよ」と引っ張り出す。仕事があるから外出する、電車に乗る。仕事がなくならない限り、「外出自粛」なんか無理だ。こういう現実は、いたるところにあります。「外出自粛をしろというなら、仕事を休めるようにしてくれ」「生活のために休めない人間に、どうやって家に居ろというのか」—―そんな声が噴き出しています。
法に基づく休業要請をした場合の補償のあり方も含めて及び腰の政府と、感染者が増え続ける自治体の首長、とりわけ選挙を目前に控えた首長として危機感をあらわにする都知事。宣言が出たとたん、どこまで社会経済活動を抑制するのかという基本的な点で国と都の対立が顕在化してしまっています。異例な事態です。休業に伴う補償を充実すればいい、という考えもあります。しかし、それは大きな財政負担を伴うだけでなく、現実には避けがたい混乱の中でたくさんの人たち、とりわけ社会的に弱い立場の人たちは振り落とされ、切り捨てられて行きかねません。もし感染対策上、大規模な休業要請が必要ということであれば、そこまでしっかり目配りしていく責任が政治にはあります。

休業、さらにはロックダウンといった方法に頼らず、社会経済活動への影響を最小限に抑えつつ国民の行動変容を求めたい。もし政府がそう願っているのであれば、仕事、余暇、買い物など、一つ一つの場面場面に照らしたていねいなリスク・コミュニケーションと一人一人の市民の納得、それを支える専門家や行政の配慮と支援に意を尽くすべきです。しかし、政府も自治体も、また権威ある専門家の皆さんも、そうした努力を尽くしてきたとはとても言えないでしょう。

ただただ、Stay Home!(外出するな!)

「緊急事態宣言」のメッセージは、ある意味でここに尽きます。国民は付いて来るのか、来られるのか。付いて来ないとき、どうするのか。欧米はじめ多くの国々がそうであるように、強制と動員にますます流れるのか。それとも、感染収束への見通しは破たんし、医療崩壊に突き進むのか。
隘路はかえって険しくなったとさえ思われます。

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