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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

「76億円」をだれが負担するのか? ~美術館・図書館建て替え問題~

前川区長が選挙直前に打ち出した、練馬美術館・図書館の大改築構想。もともとは現在の建物を活かした改修を基本にした話だったはずなのに、急転直下、隣のサンライフ練馬をつぶしてその敷地まで取り込んでの大掛かりな建て替え計画に一変し、区長選でも大きな争点の一つとなりました。

この問題でずっとはっきりしないままになっていたのが、改築経費です。つまり、いったい建て替えにはいくらかかるのかという問題です。この件については、以前、私自身の問題意識をこのブログに書きました。

  →美術館「70億円」の不思議 こちら

この記事の中で、「大規模改修を基本とした場合でも、経費は70億円程度」という区の説明がきわめて不正確なものであること、それが「改修方針を撤回し、改築・建て替えへ」と議会や世論をミス・リードするものになっていることを指摘しました。実際にはこの「70億円程度」は、サンライフの解体とそのあとの新棟建設を織り込んだものであり、美術館・図書館の大規模改修とは似て非なるものであり、大規模改修だけであれば区の試算でも20億円を下回る額であることを、そこでは指摘しています。

しかし、問題はそもそも改築とした場合の経費がいくらになるのか、全く示されなかったということです。大掛かりな建て替えということになれば巨額の税金を投入することは必至であるにもかかわらず、概算の事業費見積もりすら示さないという区の姿勢は、不誠実・無責任極まるものでした。いったいいくらかかるのか? 関心を持つ区民の中でも疑心暗鬼が広がり、数字をめぐる混乱が続くことになってしまったのも、ひとえに区のこの姿勢によるものだと指摘せざるを得ません。
その建て替え経費についての一定の考え方を、やっと区が示しました。

概算工事費は「約76億円」!

美術館・図書館の建て替えのための基本設計を委託する業者を、区はプロポーザル方式で決めることとしました。プロポーザル方式というのは、企画提案を受けた上で総合的に受託業者を選定するものです。地方自治法は競争入札による契約を基本としていますが、「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」については、例外的に随意による契約を認めています。この場合に受託事業者選定の方法としてしばしば用いられるのがプロポーザル方式です。練馬区の場合は、「高度な専門性」や「知識」などを必要とする場合にこの方式を採用することとしています。

区は8月1日、『練馬区立美術館・貫井図書館改築等基本設計候補者選定プロポーザル実施要項』と関連する書式類を公式サイトに掲載しました。そして、この中で美術館・図書館改築の「概算事業費」として、約76億円という数字を公にしました。関連する記述を洗ってみます。まず、『(別紙1-2)基本設計業務委託特記事項』から。

1.4 委託業務内容
…中略…
■概算工事費(税込)
76億円程度(既存建物解体経費3億円程度を含む。美術の森緑地改修工事費は含まない。)
基本設計業務委託特記事項より

区があえて概算工事費を提示した意味は、『(別紙5)提案書等作成要領』に記載されています。

(想定工事費について)
・金額は百万円単位とし、内訳(建築、電気、機械、展示収蔵環境、解体、程度の区分)も記載すること。
・別紙1-2基本設計業務委託特記事項に記載された概算工事費と同様、既存建物解体経費は含み、美術の森緑地改修工事費は含まないものとする。概算工事費を超える提案は行わないこと

ここでは、提案の前提として概算工事費「約76億円」を超えてはならないと明記してあります。つまり、区は「76億円」を美術館・図書館の改築工事費の上限として設定したと言ってよいでしょう。もちろん、今はまだ設計に入る段階ですから、実際に設計に入り、さらには工事発注するプロセスで、事業費が上書きされていく可能性はあります。ただ、もし「約76億円」を上回る額が必要になるとしたら、区は当然ながらその理由、根拠を説明する責任を負いますし、あまりに額が変化するようであればそれは最初の企画提案の段階にまで立ち返ってのリセットの話になるはずです。

「約76億円」の税金を使って、サンライフを壊し、美術館・図書館を建て替えることの是非。ここにしっかりと焦点を当てて議論すべきところに来ています。

「約76億円」のべらぼうさ

美術館・図書館の建て替えにいくらかかるのか。区が責任ある説明をしないために、区民の間では100億円を軽く超えるのではないか。そんな見立ても出ていました。それに比べれば、「約76億円」という数字は”抑えられた”と見えなくもありません。
しかし、冷静に考えれば、この「約76億円」という額はそれだけでもべらぼうな額なのです。

たとえば、区は『公共施設等総合管理計画』を取りまとめる際、区立施設の改修や改築にかかる経費をさまざま示しています。こんな具合です。

主な改修・改築の工事費
▶大泉北出張所、大泉北敬老館、大泉北地域集会所の大規模改修→約 2.8 億円
▶桜台地区区民館、同学童クラブ、桜台第二保育園の大規模改修→約 6 億円
▶白百合福祉作業所の大規模改修→約 2 億円
▶豊玉第二中学校の部分改築 →約 23 億円
▶開進第四中学校の改築 →約 24 億円
※改修…建物等の改良や模様替え、設備や建物の付帯施設等の更新を行うこと
※改築…建物等を解体撤去し、原則として同一敷地内に同様の用途の建物を新たに建築すること

80億円近い財源があったら何ができるか。どんどん先送りされている大規模改修が20ヶ所はできそうです。優に半世紀を超す建物がたくさん出てきている学校は、3校建て替えられるかもしれません。コロナもあって先送りされている改修、たとえば地域の強い要望にもかかわらずいまだエレベーターさえない勤労福祉会館の大規模改修や、ガタがあちこちに出ている生涯学習センター・練馬図書館の改修などにも手が付けられるでしょう。
もちろん、いずれにしても美術館・図書館の「改修」は必要でしたから、76億円がそのまま自由になるわけではありません。ただ、「改築」ではなく「改修」にとどめれば、76億円という支出が3分の1以下になる可能性はとても高いと思われます。財政事情か厳しい、だから公共施設の統廃合や改修・改築の先送りをと繰り返してきたその一方で、まだ築30年ちょっとの美術館・図書館を一気に改築することにどれほどの正当性、必然性があるか、本当に真剣に検討されるべきことです。

公共施設等総合管理計画より

この表も、『公共施設等総合管理計画』に出てきます。「約76億円」あれば、どのくらいの施設の建て替えや改修ができるか、計算してみるとよいかもしれません。これでは文化系の施設の改築単価は40万円/㎡。新美術館・図書館は8,000㎡とのことですから、単純に掛け算すれば32億円。大規模改修であれば20億円です。「約76億円」が途方もない数字であることは、ここからも想像できます。

プロポーザルは直ちに中止を!

美術館・図書館の建て替えには、特定財源、つまり国や都の補助金を充てるのはとても難しいと言われています。さらに建て替え後は大きく増えるに違いない維持管理費がどうなるかも、とても気がかりです。維持管理費もまた、補助金はまず期待できないからです。
補助金がなければ、要するに区の自主財源を充てるしかありません。自主財源が乏しい区の財政事情からすれば、額以上に深刻なダメージです。区民福祉のための様々な事業にも大きな影響が及ぶはずです。

なぜ「約76億円」もかけてまで美術館等の建て替えか必要なのか。なぜ大規模改修で対応することはできないと判断したのか。前川区長自身が、責任をもって答えるべきです。お金をたくさんかけるほうが、そして新しいほうが、素敵な建物ができるに決まっています。そんな素人だましではなく、今この区政の現状の中で、他のさまざなの課題とのバランスや公平な選択という点で、本当にそれがやむを得ない、また適切な判断なのかが問われていることを、前川さんならよくお分かりのはずです。

納得できる答と説明があるまでは、プロポーザルは進めるべきではありません。

コメント

  1. 山崎晋 より:

    行政が何を行うかは、ある意味その順序に全てが掛かっていると言えます 財源は有限な税金ですから その意味で石神井公園駅開発 豊島園ハリーポッター 今度の美術館建立など何故こんなに唐突でしかも俄に納得できない事ばかり練馬区役所はやるのでしょうか?解せません
    つまりそれは私たち区民が予想しない次元の忖度が働いている証拠だと思います