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「学校司書」と東京都 ~委託方針からの全面転換~

直接雇用の「学校司書」の配置は、子どもたちの学びと育ちを支える教育環境を整えるうえで、喫緊の課題です。そのことを改めて再認識させてくれたのが、東京都教育委員会の最近の動向です。

正規の学校司書→全面委託→直接雇用の専門員へ

ここ10年、都教委は学校図書館の管理に業務委託を導入すべく、大きく舵を切ってきました。
もともと都教委は、1968年度から学校図書館の業務に従事する正規職員を都立高等学校に順次配置し、1973年度には全校への配置が完了していました。しかし、都政全般に民間委託の流れが広がる中、開館時間延長などの「利便性向上」を名目に2011年度から民間委託を本格的に導入します。正規職員の退職不補充を埋める形で委託は急速に拡大し、2020年度には民間委託は128校、全体の3分の2にまで広がっていました。ところが、都教委はここに来てこの流れを全面的に転換し、非常勤(会計年度任用職員)ではありますが、直接雇用の学校司書を配置する方針を打ち出したのです。

この都教委の大方針転換を、漢人あきこ都議会議員が文書質問で取り上げてくれました。その中で、都教委は2022-23年度にかけて全校に直接雇用の学校図書館専門員を配置することを明言しています。

質問 都は、いったんは業務委託の全般的な導入に転換したにもかかわらず、2021年度からは会計年度任用職員である学校図書館専門員(以下、「専門員」)の配置を新たに開始しました。現在、正規職員が配置され、あるいは業務委託が行われている学校についてはすべて専門員の配置に移行すると理解してよいですか。また、今後、専門員の配置を増やしていくスケジュールを示してください。
回答 令和4年度から令和5年度にかけて、業務委託から学校図書館専門員の配置に移行していく予定です。

今年度、都教委は一気に170人を超える専門員を採用しました。来年度には、委託はすべて終了することになるでしょう。本当に大きな、そして劇的な転換です。

新指導要領と「対話的な学び」

都教委のこの動きは、都内市区町村の動向にも大きな影響を及ぼすに違いありません。練馬の教育委員会が組織として直接雇用への転換を打ち出したことは、間違いなくその一つの表れでもあったはずですし、それにもかかわらず委託に固執した前川区長の異様さもまた、あらためて際立ちます。しかし、この大転換はいったいなぜ起きたのでしょうか。

漢人議員の文書質問に戻ります。業務委託による学校図書館管理を見直し、直接雇用に戻すこととした経緯についてのやり取りです。

質問 業務委託を見直した理由は何ですか。学校司書を直接雇用に限るとした法解釈を踏まえたものですか。また、偽装請負などのコンプライアンスに係る課題に対応したものでもあると理解してよいですか。
回答 高等学校の新学習指導要領が令和4年度から年次進行で実施されることに伴い、各学校において、学校図書館の機能をより一層活用し、それぞれ特色ある教育活動に生かしていく必要があります。
そのため、主体的・対話的で深い学びの実現に向け、学校図書館専門員を配置し、授業等で活用できるよう、教員と連携する体制へ移行することとしました。

都教委の大転換の背景には、二つの大きな、差し迫った事情がありました。一つは、新しい学習指導要領で「主体的で対話的な学び」が強く打ち出され、そのために学校図書館の活用が求められるようになったことです。学校図書館の業務といえば、鍵を開けて開館すること、本を整理し貸し出すこと…そんなイメージはもはや過去のものとなってしまいました。学校図書館と授業や学習指導は一体的に取り組まれなければならない。学校図書館は、子どもたちの主体性や自主的な学びを支える場として教育や学校生活全般の中で役立てられなければならない。そしてそのためには、学校図書館の管理を外部の業者に任せる委託では大きな限界がある——これが、委託から直接雇用、つまり学校の教職員の一人としての学校司書の配置に転換した一つ目の背景です。

しかし、都教委を突き動かしたのは、ただ単に新しい指導要領が施行されたということだけではありません。学校現場で、委託の学校図書館管理員をめぐる「偽装請負」が広がり、違法性を厳しく問われたことがもう一つの背景でした。

東京労働局から舛添都知事(当時)に対して出された是正指導書
問われた派遣法違反=「偽装請負」

文書質問は続きます。

質問 都立高校学校図書館の管理業務委託に関して、2015年7月、都知事は東京労働局長から労働者派遣法違反を指摘され是正指導を受けていますが、その際、法違反と認定されたのはどのような事実でしたか、また都としてどのような是正措置を講ずることとしましたか。
回答 平成27年7月、東京労働局から一部の図書館管理業務委託契約に係る業務について、教諭が受託業務に従事している労働者に対し、業務の遂行に関する指示等を行っているとして是正指導を受けました。そのため、所管事業所が都立学校に対し、その履行状況を確認し、必要に応じて是正指導等を行いました。

2015年7月29日、厚生労働省・東京労働局は都教育委員会に対して「是正指導」を行います。教員が委託先の従業員に対して業務の遂行に関する指示等を行っていることは労働者派遣法に違反するので、是正を求めるというものです。いわゆる「偽装請負」の指摘です。

指導を受けた都教委は、9月7日付で『是正報告書』を提出します。そこに記されている是正内容は、問題の所在を分かりやすく伝えています。そのまま引用しておきます。

ウ 是正指導内容
(ア)受託者との打合せについて
受託者への業務に関する協議及び調整は、業務指示書の交付及び業務責任者との連絡調整等により行うものであるが、学校によっては、業務従事者との打合せ等を行っている場合があり、指揮命令が業務従事者と学校の間に発生する。このことは不適切である。
打合せを実施する場合には、業務責任者と教職員とで行い、業務従事者を含めない。
なお、教職員については、経営企画課(室)長又は経営企画室担当者が必ず出席すること。
そもそも打合せは必ず行わなければならないものではなく、事前に提示する月ごとの業務指示書の補足事項や、その他説明が必要な業務がある場合に実施するものである。そのため、業務指示書に別紙を添付する等、内容を充実させ、必要以上に打合せ等は行わないようにする。
(イ)図書館だよりについて
受託者から提出された図書館だよりを、教職員が内容確認し、修正及び再提出を求めている学校があるが、業務の独立性という観点からは不適切である。
図書館だよりは、Word等の修正可能なデータを外部媒体等で受託者から提出させ、教職員が最終的に編集・修正等を行う。
(ウ)選書リストについて
上記(イ)と同様、受託者から提出された選書リストについて、修正及び再提出を求めることは不適切である。
選書は、受託者から提出された選書リストや、教職員・生徒からの要望・リクエスト等を総合的に勘案し、最終的に学校が決定する。
(エ)生徒指導について
業務従事者が行うのは、仕様書に記載された図書館の利用マナー違反の注意のみである。それ以外の生徒指導は、教職員が行う。
(オ)従事者の配置等について
受託者へ従事者の配置や変更に係る要望を出すことは不適切であるため、行わない。

これを見ると、何が違法とされたのかがよくわかります。校長や教員と委託会社の従業員は、業務の打ち合わせを行ってはならない。図書館だよりを一緒に作ってはならない。選書リストの作成も、共同作業は不可…これらはすべて、労働者派遣法違反の「偽装請負」に相当するとされたのです。
「偽装請負」は、しばしば労働者の権利や労働条件を犠牲にして経費を抑え、責任を下請けに転嫁するものとして問題となってきました。もし学校の教職員が直接、学校図書館の従事者に指示を出したり、協働で作業をする必要があるのであれば、委託(請負)ではなく労働者派遣として手続きをするか、あるいは直接雇用の職員に代えるしかない。それが、労働局の判断でした。

一方では、学校図書館と教科指導・授業との連携を深めることを迫られ、教員と学校図書館の従事者との緊密で日常的な連携を作り出していくことが避けられないにもかかわらず、業務委託のもとではおよそまともな連携、協働が法的にも許されない。この重い事実を「是正指導」という形で突きつけられた都教委には、直接雇用の学校司書の配置に転換する以外に道はありませんでした。
学校図書館の機能の充実と活用を真剣に望むならば、委託に固執する道はあり得ません。「学校司書」が以前のような正規職員ではなく非常勤の職員(会計年度任用職員)であることは、なお大きな課題を残してはいますが、全面業務委託から直接雇用の「学校司書」の配置への大転換は、必要で賢明な決断であったと思います。

願わくば、この都教委の経験と判断を、各自治体に——なかんづくわが練馬区の区長に、真摯に受け止めてもらいたい。改めてそう痛感します。

※漢人あきこ議員の文書質問全文は、こちら からご覧になれます

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