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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

「学校司書」を、なぜ置かないのか?

学校には…学校図書館の運営の改善及び向上を図り、児童又は生徒及び教員による学校図書館の利用の一層の促進に資するため、専ら学校図書館の職務に従事する職員(…「学校司書」という。)を置くよう努めなければならない。

学校図書館法第六条 

学校図書館に置くよう、法が求めている「学校司書」。この学校司書をめぐる区議会でのやり取り、そして、前川区政が新しい『アクションプラン』で学校司書を少なくとも当面は配置しない方針を明確にしたことは、このブログでも触れました。

消えた「学校司書」の道 ~点検・前川『アクションプラン』②~

この『アクションプラン』取りまとめに至る区内部の経過を知ろうと開示請求をかけたところ、驚くべき資料が出てきました。前川区長は、直接雇用の学校司書の配置を否定した。しかし、教育委員会は、学校司書の配置の方針を明確にしていたのです。

教育委員会、直接雇用の学校司書のモデル配置方針を明記

開示されたのは、『アクションプラン個別調書』です。これは、『アクションプラン』の改定と2022-2023年度の年度別計画の策定に向けて、各事業所管が改定の方向、2年間の事業計画についての考え方や方針を取りまとめ、区長に対して提出する書類です。

『個別調書』の作成は、2021年5月、企画部長名の通知から始まります。企画部長の通知→各所管での検討、調書作成→7月21日までに調書を提出→2022年度予算要望に合わせて企画・財政部門と協議→調書の修正、確定。こんな流れです。
もちろん、企画部はここでは、予算編成や計画策定の所管として、区長の意志を体現して各所管と相対することになります。なので、実質的には各所管の判断、意向を区長が査定・評価し決裁していくという意味合いの流れになります。

さて、問題は学校図書館の在り方に関する教育委員会の『個別調書』です。2021年7月20日付で、教育委員会は『ビジョン・アクションプランの一部改定に伴う各種調査について(回答)』を決裁しました。その中には、【学校図書館の機能強化】事業に関する個別調書が含まれています。少し長いですが、その内容を紹介します。(太字は引用者)

事業名 学校図書館の機能強化
(1) 事業概要
学校内における連携強化のために、順次直接雇用の学校司書の配置を進め、探究的学習や読書活動の充実を図り、学校図書館の機能を強化する。
(2) この事業が必要とされる理由・背景
・令和2年度から小学校で、R3年度から中学校で全面実施となった新学習指導要領では、「学校図書館の利活用を基にした情報活用能力を学校全体として計画的かつ体系的に指導するよう努めることが望まれる。」とし、「司書教諭及び学校司書については、学校図書館が十分にその機能を発揮できるよう、学校図書館の館長としての役割も担う学校長のリーダーシップの下、各者がそれぞれの立場で求められている役割を果たした上で、互いに連携・協力し、組織的に取り組むよう努めることが大切である。」としている。
・現在配置している学校図書館管理員や学校図書館支援員は、業務委託や指定管理のため、校長の指揮の下、効果的な連携体制が取りづらい
・学校図書館法が規定する「学校司書」(配置努力義務)は、学校設置者が雇用する「職員」であるため、業務委託や指定管理者によるものは、校長の指揮監督下にないことから、法の規定する学校司書には該当しない
(3) 年度別計画(R元年度~R3年度)からの変更点、充実内容
学校図書館蔵書管理システムの導入が全校完了した。また学校図書館支援員から学校図書館管理員への配置換えも令和4年度に完了する予定。今後は、学校内での連携を強化し、学校図書館機能の更なる充実を図るため、直接雇用の人的配置に移行していく
(4) 年度別計画(~R5年度)
R5年度の目標 学校司書の順次配置の拡大
R4年度 モデル校配置(16校) R5年度 配置拡大(26校)

(5) 以下、略

当初、教育委員会がまとめた個別調書

委託や公共図書館の指定管理者が学校図書館に人を配置する学校図書館管理員や支援員は、「学校図書館法が規定する『学校司書』ではない」。管理員や支援員では、「校長の指揮の下、効果的な連携体制が取りづらい」。直接雇用の職員に移行していくべき…ここに書かれていることは、内容からすれば、私が議会でずっと主張してきたことと同じです。ここで何より大切なこと、決定的に重要なことは、教育委員会が組織として、教育長みずから正式に決裁した文書において、直接雇用の学校司書配置方針を明記したということです。明文化された形で、しかも教育長以下の決裁印付きの文書で、こうした記載がなされたのは、私が知る限りこれが初めてです。

区長部局が、突き返した!

ところが!ところがです。この教育委員会が決裁した個別調書を受け取った企画部、つまりは区長サイドは、直接雇用の学校司書の配置を柱とする教育委員会の方針を蹴飛ばし、突き返したのです。

教育委員会が7月にいったん決裁した個別調書は企画部に提出され、その後、予算編成と並行しながら教育委員会と区長サイドの協議が続いたようです。その過程は、開示されるべき資料もなかったということのようで、つまびらかにはわかりません。ただ、協議を経て10月29日に最終的に確定された個別調書は、当初のものとは全く異なるものになってしまっていました。

修正後の個別調書。「直接雇用の人的配置」が消えた

上の図の通り、確定版の調書では、2022-23年度の「変更点、充実内容」は

「区立小中学校の学校図書館において、より統一した対応を図り、充実するため、業務委託による学校図書館管理員を全校に配置する。」

と書き換えられてしまいました。もともとの教育委員会の方針は

「学校内における連携強化のために、順次直接雇用の学校司書の配置を進め、探究的学習や読書活動の充実を図り、学校図書館の機能を強化する」

だったのです。直接雇用の学校司書の配置は、消えました。ただ、管理員の全校配置だけになってしまいました。支援員と管理員の二つの仕組みが併存していた事態を解消し、管理員に一本化するというのは、もう何年も前からの既定の方針でしたから、それ自体、目新しいものは何一つない方針です。2022年度から学校司書が配置される姿を、私たちは目にすることができたかもしれない。区長が邪魔をしなければ…。

子どもたちのことなど考えていないのか…

直接雇用の学校司書を配置することは、子どもたちの学びを保障し、充実させていくうえで喫緊の課題です。そのことを、教育委員会が決裁した最初の個別調書では、簡潔かつ的確に書いています。新しい学習指導要領では「学校図書館の利活用を基にした情報活用能力を学校全体として計画的かつ体系的に指導する」ことが求められていること。そのためには、学校の教職員と学校図書館の連携・協力が欠かせないこと。そして、委託や指定管理者の人材では教員との「効果的な連携体制が取りづらい」こと…。すべて、その通りです。
しかし、裏返せば、教育委員会のこの判断、この希望を足蹴にした区長は、子どもたちの学ぶ権利や学ぶ機会をないがしろにする判断をしたということになります。

もちろん、行政計画である『アクションプラン』の最終的な決定権限は区長にあります。また、さまざまな政策課題の実現のために欠かせない予算措置も、区長の権限のもとにあります。しかし、ことは教育行政に関わることです。教育委員会が、いったんは組織として決裁した方針に関わることです。独立した行政委員会である教育委員会は、法に基づいて主張から独立した権限と責任を付託されています。

なぜ前川区長は、「学校司書」の配置を求める教育委員会の決定を覆したのか。それは、法的に、あるいは教育行政のあり方として、適切だったのか。覆したのは財政上の理由か、それとも他の何かの事情、思惑があったからか。
解明されるべきことがたくさん出てきました。学校司書の配置をめぐる区政の攻防は、大きな山場を迎えています。

→ 関連記事 「学校司書」と東京都 ~委託方針からの全面転換~

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