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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

美術館「70億円」の不思議

区長選挙は終わりましたが、練馬区立美術館の建て替え問題は区政最大の争点であり続けています。焦点は、なぜ「大規模改修」から「建て替え」に変わったのか。建て替えでなければならない理由は何か。「建て替え」のために、いったい区民はどれほどの負担を強いられるのかということです。

「建て替え」に、いったいいくらかかるのか?

当初は、美術館は併設の貫井図書館と合わせて「大規模改修」を行うという方針でした。大規模改修というのは、建物の躯体など基本の構造は残したまま、エレベーターの付け替えや空調・電気系設備の更新などの改修を行うというものです。大規模改修の場合も美術館の拡張は想定されてはいましたが、それは、隣接するサンライフ練馬の施設の一部機能を転換することで対応することになっていました。それが、突然——本当に唐突に、全面的な建て替え、それもサンライフ練馬を廃止して取り壊し、その敷地を取り込んでの建て替えへと方針転換します。区長選挙を目前にした昨年12月のことです。

「大規模改修」から「改築(建て替え)」への方針転換の経緯については、以前、このブログでも書きました。
     →突出する「美術館」 ~点検・前川『アクションプラン』④~

この方針転換を考える際に、どうしても落とせない論点が「経費」の問題です。「建て替え」になると、いったい経費はどのくらい膨れ上がるのか? 美術館の建て替えに使える国の補助金がないことは、区も認めています。いわゆる区の一般財源、大切な区民の税金を使わなければならない事業です。いくらくらいになるのかは、事業の是非、優先順位を考えるためにもぜひとも明確にすべきことです。

2月の区議会でも、「建て替えにはいったいいくらくらいかかるのか」という問いが繰り返し出されたようです。そして、この問いに対してやっと区が示した数字が「大規模改修でも70億円かかる」という“試算”結果でした。
2月28日の区議会本会議で、共産党の島田議員の質問に答えて、地域文化部長がこう答弁しています。

地域文化部長 現美術館は開館から36年が経過し、施設や設備の老朽化が進んでいるため、大規模な改修が必要な時期を迎えています。
近年の他自治体の事例を参考に大規模改修を基本とした場合でも、経費は70億円程度と試算しています。展示収蔵環境の維持やバリアフリーなど、多くの課題を抱えており、改修では十分な対応が難しいため、これらを総合的に勘案し改築としたものです。

「大規模改修を基本とした場合でも、経費は70億円程度」。部長はこう答えています。そうか、「大規模改修」でも70億円もするんだ、「建て替え」だといったいいくらになるんだろう…この答弁を聞いて、こう考えた人も多かったと思います。事実、議会でも、区民の会合でも、大規模改修=70億円という話を聞くことは少なくありません。

大規模改修に70億円!?

しかし、「70億円」という数字を聞いて、私は、不思議でした。というよりちょっと信じがたい思いがしていました。というのは、例えば文化センターの大規模改修の時でも、工事費は総額で20億円ほどだったからです。同じ文化施設であり、規模で言えば美術館の何倍にもなる文化センターで20億円だったのに、なぜ美術館の場合は70億円もかかるのか? 図書館併設とはいっても、いくらなんでもこれは高すぎる…

この「70億円」という試算の根拠を、先日、所管の課長から詳しく聞かせてもらいました。それによると、こんな計算だったそうです。

  1. 建物の整備にかかる経費
    ①美術館・図書館の改修経費 18億5,000万円 ※50万円/㎡×3,700㎡
    ②新棟 38億7,000万円 ※90万円/㎡×4,300㎡
    ③解体経費 6,900万円 
     ※既存の搬入口・トラックヤード・視聴覚室・会議室273㎡、サンライフ練馬2,471㎡
    ④展示・収納環境整備のための追加工事費 2億3,600万円
    計60億2,500万円
  2. その他の経費   外構・緑化等 4億万円  工事管理費 2億4,700万円

ここにあげた経費のほか、廃材処分費、備品購入費等を考慮して出したのが「70億円」という数字だという説明です。この説明を聞いて、私は驚きました。70億円は美術館・図書館の大規模改修にかかる経費と思っていましたが、まったく違うのです。70億円は、美術館・図書館の大規模改修+サンライフの解体と新棟建築の経費を合わせたもの だったのです。

改修だけなら、20億円

もう一度、上の数字を見てください。ポイントを拾い出してみます。

  • 図書館と美術館の改修経費自体は、18億5,000万円です。
  • 「新棟」とあります。これは、サンライフ練馬のあとに建てられる新しい建物のことです。サンライフ練馬は解体されます。ちゃんと解体経費も積算されています。
  • 美術館の機能アップ(「展示環境整備」)のために、2億3,600万円が試算されています。

解体工事費6,900万円を単純に面積で案分すると、美術館部分(トラックヤード等)はせいぜい数百万でしょう。サンライフ練馬の解体が6,000万円というところでしょうか。そうすると、実は建築にかかる経費60億2,500万円のうちほぼ40億円が、サンライフ練馬の解体と新棟建設のための経費ということになります。図書館と美術館の改修にかかる経費自体は、20億円にも届かないのです。「70億円」とはえらい違いです。

もともと、美術館・図書館については、現建物の大規模改修とサンライフ練馬の施設の一部の転用が区の方針でした。たとえば、2018年3月に取りまとめられた『練馬区公共施設等総合管理計画〔実施計画〕』ではこう書かれています。

美術館 隣接する東京中高年齢労働者福祉センター(サンライフ練馬)も含めた一体的な施設のリニューアルを行い、展示機能などを充実させて文化施設としての魅力を向上させます。
サンライフ 隣接する美術館の大規模改修・機能拡充にあわせて、一部の施設機能の見直しを検討します。

また、2019年6月策定の『第二次アクションプラン (年度別取組計画)』でもこうなっています。

練馬独自の新しい美術館の創造
サンライフ練馬など周辺の区立施設と合わせて大胆に美術館を拡張し、収蔵コレクションや優れた作品の大規模企画展、重要文化財や国宝なども鑑賞できる場へと整備します。

「一体的なリニューアル」「大胆に拡張」と表現はいくらか違いますが、いずれにしてもサンライフ練馬の施設としての存続が前提となっていることは明らかです。『練馬区公共施設等総合管理計画〔実施計画〕』は2020年に部分改定されていますが、その中でも「サンライフ練馬は、美術館の拡張によるスペースの活用を見据え…」と記されており、少なくともこのころまでは区の公けの計画体系の中では、サンライフ練馬を解体するという方針は全く出てきていないのです。

この試算の時期について、担当課長は「令和元年に事業者から提出された資料をベースに、試算をしております」と議会で答弁しています。令和元年というのは2019年です。つまり、おおやけには区としてはサンライフ練馬の施設自体の存続を方針としていたにもかかわらず、内部ではサンライフ練馬の解体を前提とした試算をしていたことになります。このこと自体、異様で重大なことです。試算は、所管部・課、つまり文化・生涯学習課あるいは地域文化部の独断で行われたのでしょうか?

ミスリードは意図したものか?

しかし、それ以上に問題なのは、大規模改修にかかる経費を問われたのに対して、大規模改修とは似て非なる前提での試算を堂々と答えてきた区の対応です。部長は、本会議で「大規模改修を基本とした場合」の試算だと答えています。いやいや、違うでしょ。美術館は大規模改修だけどサンライフは解体・新築する場合の経費、ということでしょう。課長は、別な場では「既存施設を大規模改修し、増築した場合の試算」と答えています。こちらの方がまだいくらか正確で誠実な答弁ですが、しかし「増築」ではなく新棟の建設であり、かつそちらの方が面積も経費も大きいというのですから、この答弁でさえミスリードするものだと言われても仕方ありません。

先の試算は、美術館+図書館のスペースとして8,000㎡を確保することを前提に行われているようです。つまり、区がこの試算を行った目的は、美術館・図書館とサンライフ練馬をすべて除却して一から建て直すか、現在の美術館の建物は活かしつつ再整備するかという比較のために行ったものだろうと想像されます。もしそうなら、全面新築の方が効率的で効果的であることは容易に想像されます。経費的にも、そんなに驚くような差は出ない可能性があります。
しかし、私たちが知りたかったのはそれではありません。知りたかったのは、美術館と図書館の建物の大規模改修の経費はいくらなのか、そしてサンライフの一部を美術館機能に取り込むとして、そのための改修経費はいくらなのかということです。この選択肢をきちんと立てて、経費面、機能面等を合わせ検討することが、美術館「再整備」に関する論争を建設的で透明なものにしていくためには欠かせません。

整理します。比較検討すべき選択肢は3つです。

    1. 美術館・図書館とサンライフ練馬のどちらの建物も解体し、一つの建物を新築するパターン
    2. 美術館・図書館の建物はそのまま生かして大規模改修とし、サンライフ練馬は解体して美術館と一体の施設とするパターン
    3. 美術館・図書館の建物は大規模改修して活用し、サンライフ練馬については一部の機能を整理したうえで美術館のために活用するパターン

今、明らかになっているのは2のパターンの粗い経費の試算だけです。調査を続けます。

コメント

  1. 菅佐原 より:

    おかしい事ばかり! 反対ですが 強硬に工場進めるのでしょ?! その財源は 税金❢ 納得いくような使い方してほしい!   
    此の処 区役所に行くことがないのですが 前区長のとき 区長室の入り口が  高級クラブみたいでしたが~~まさか ですね