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都区連携の“窮余の一策” ~児童相談所は「区立」で!(3)~

児童相談センターの管轄区域をどうするか

「都立」の練馬児童相談所が設置されることになった理由は「管轄区域の適正化」、つまり法令の基準に反する状態を解消するためであることを見てきました。これまで練馬区を管轄してきたのは、新宿にある児童相談センターです。児童相談センターの管轄区域は、今はこんな状況です。

都児童相談センターの管轄区域(2022年1月現在)

1年前までは、これに港区が含まれていました。2021年4月に区立の港区児童相談所が開設され、都児童相談センターの管轄区域はこの図のようになったのですが、これでも管轄人口はなお220万人を超えています。国が新たに設けた管轄人口に関する基準、「20万人から100万人」にはどう考えても収まりません。

さて、どうするか。

実は、この管轄エリアのうち豊島区と文京区は近々に区立の児童相談所を開設する予定で準備を進めています。この二つの区が管轄区域から外れると、管轄人口は51万人ほど減ります。それでも170万人。他の区は、区立児相に真っ向から反対している練馬区は別として、区立児相設置の意向は持っているものの、開設に向けたスケジュール等を固めるまでには至っていません。児童相談センターの管轄区域を「適正化」するためには、都は、その中のどこかの区を管轄から外すしかありません。人口にして、少なくとも70万人分…。

上の図を見れば、練馬区だけが“おまけ”のように出っ張った位置にあることがよくわかります。今後、豊島区と文京区が管轄から外れると、管轄区域は都心(+島しょ部)にさらに集約されます。地勢的に見れば、練馬区を管轄区域から外すのが自然な流れです。そして、練馬区は人口74万人!そう。練馬区を管轄区域から外せば、法令基準に違反する事態はぎりぎり解消されるのです。
児童相談センターの管轄区域に関する“違法”状態を回避するために、最も合理的で自然な対策は練馬区を管轄区域から外すことです。道は二つに一つ。練馬区を児童相談センター以外の他の児童相談所の管轄に移すか、それとも練馬区を管轄する新しい児童相談区所を作るか、です。
管轄区域が練馬区と隣接しているのは北児童相談所と杉並児童相談所ですが、練馬区を移管すれば今度はそちらが人口オーバーになってしまいます。それに、実はこのどちらも、区立の児童相談所への移管が進む中で早晩、廃止されることになりそうです。既存の他の児相への管轄替えが考えられないとしたら、そしてあえて言えば練馬区が「区立」児童相談所を真っ向から否定している以上は、練馬に「都立」の児童相談所を新たに開設する以外に道はありませんでした。

「場所」まで用意した練馬区

しかも、実は練馬区は、「都立」練馬児童相談所を開設するための場所まで用意していたのです。

2020年7月、練馬区の子ども家庭支援センターが移転しました。それまでは庁舎内にあったのですが、区役所から100mほど東にある3階建ての民間ビルに引っ越し、センターの面積は155㎡→700㎡と大幅に増えることになります。当時、私はずいぶん大きな拡大だといささか驚いたのを覚えていますが、この時、練馬区はこのビルを1棟丸ごと借り上げていました。子ども家庭支援センターは1階と2階の一部なのですが、2階の残りと3階も、区は借り上げたのです。

何のために1棟、丸ごと借り上げたのか?

今、このビルの2階には、区の統計係が入っています。3階には文化振興協会が入っています。これらの所管、団体がこの施設を利用するようになった経緯は区議会でも報告はされていないようですが、まさにこの部分、2階と3階を、練馬区は都立の練馬児童相談所のために提供することになったのです。

設置場所があらかじめ用意できていることがどれほどありがたいことであったか、都の担当者もきっとほっとしたことでしょう。何しろ児童相談所は悲しいかな、ある種の“迷惑施設”として受け止められることが少なくありません。まして、地域に足のない東京都にとっては、町中に新しい児童相談所の適地を探すことは極めて大きな困難を伴います。それでなくとも、一から土地を探し建物を建てていたら、それだけで5年も10年もかかるでしょう。管轄区域の基準が施行されるのは2023年4月です。練馬区に移管するのならともかく、都で管轄する限りはさすがにそこまで悠長にはしておられません。

児童相談所の“違法”状態を解消するための対応を迫られている都としては、練馬区が場所まで用意してくれているのはまさに“願ったり、かなったり”であったことでしょう。

新しいビルの貸借と練馬区子ども家庭支援センターの移転が、はじめから都立練馬児童相談所の開設を想定したものであったのかどうか、確たる証拠はありません。しかし、早い段階から前川区長と東京都の強いパイプが働いていたことは間違いありません。都立練馬児童相談所の開設は、法令上の義務の履行を迫られた東京都と、都との「連携」をアピールしたい前川区長が講じた“窮余の一策”だった。これが私の見立てです。 (続く)

第4回 『「一時保護所」は、なくてよいのか ~児童相談所は「区立」で!(4)~』

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