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「新型コロナ」と練馬区政 ~点検・前川『アクションプラン』⑧~

株を変え、形を変えながら続く新型コロナ禍。振り回され、苦しむ日々が続いています。感染リスクについても、治療や予防の手立てについても、ずいぶんと多くのことを学びまた準備できるようになったとはいえ、「コロナ」対策は当面の区政最大の課題の一つであることは間違いありません。

前川区長は、新しい『アクションプラン』素案で「コロナ」禍への対応を意識しながら、いくつかの変更を加えました。戦略計画 9 『住み慣れた地域で安⼼して医療が受けられる体制の整備』は、『感染症対応力の強化と安心して医療が受けられる体制の整備』に変わりました。戦略計画 10は、『みどりの風の中で、⾃ら健康づくりに取り組めるまちの実現』から『コロナ禍であっても、区民一人ひとりの健康づくりを応援』に修正です。

新型インフルエンザ等医療対策連絡会

戦略計画9に関連して年度別計画の一番に上げられた事業が、『練馬区感染症ネットワークの構築』です。こう書かれています。

1 練馬区感染症ネットワークの構築 ★
 これまでも区は、平時から保健所、区内病院、練馬区医師会、練馬区歯科医師会、練馬区薬剤師会が参加する「新型インフルエンザ等医療対策連絡会」を実施し、新型インフルエンザに関する情報共有や発生時対応訓練を行ってきました。新型コロナの発生と感染拡大を受け、院内感染の際に医療機関同士が支援する体制や、福祉施設、保育園・学校等における、患者発生時の情報共有が十分でなく、感染が拡大するなど様々な課題が明らかになりました。
 これらを踏まえ、令和4年度から、「新型インフルエンザ等医療対策連絡会」に、訪問看護ステーション、福祉施設、保育園や学校等をメンバーに加え、「(仮称)練馬区感染症ネットワーク会議」に改組し、情報共有や各関係機関の相互支援のあり方を検討します。

ここに出てくる新型インフルエンザ等医療対策連絡会は、2013年に設置されました。当時の予算特別委員会で、連絡会の目的について区はこう説明しています。(2013.03.07 予算特別委員会)

保健予防課長 まず、目的でございます。新型インフルエンザ等感染症による健康被害を最小限に抑え、区民が適切な医療を受けることができる体制を確保するために関係機関等と連絡・調整を図るということでございます。
 新型インフルエンザが発症したとき、以前の経験もそうですが、最も中心になるのは、練馬区であれば医師会であるとか、薬剤師会、歯科医師会と言われる三師会。それから感染症を主に担当するような病院。練馬区であると三病院と言われる順天堂練馬病院とか、練馬光が丘病院、あるいは練馬総合病院。それから、この地区全体、医療圏全体を見回しますと、都立豊島病院が感染症の指定医療機関ですので、そこも参加していただきます。それ以外にも、救急搬送の立場から消防、あるいは、庁内の関係各課のメンバーが集まりまして、第1回目の開催を来週の月曜日に開くところでございます。

感染者に対する医療は、感染の広がりを抑えるための防疫とならんで感染症対策のかなめです。新型コロナは、適切な医療提供体制が確保されればその健康リスク自体は必ずしも大きくはないタイプの感染症です。重症化を避けるために、適切な療養の機会を保障すること。そして重症化した場合でも必要な医療を受けられるようにすることは、国・都・区を上げて最優先の課題でしたし、今でも課題であり続けています。

高度な救命機能を持った医療施設だけではなく、一般の入院医療機関、療養型の施設、そして在宅や介護施設での療養まで、系統的に用意され、しっかりと連携の取れた医療システムを構築することの大切さは、新型コロナ感染拡大の当初から繰り返し指摘されてきたことです。
こうした点からすれば、新型インフルエンザ等医療対策連絡会はとても大切なツールだったはずです。練馬区は、本当にたくさんの税金を投入して光が丘病院や順天堂練馬病院を誘致し、支援してきました。練馬総合病院や大泉医療生協病院のように、地域に根差しながら急性期の医療を支え、新型コロナに対しても積極的に専門外来を開いてきた病院もあります。最近では、病床確保の努力が実を結び、回復期・慢性期が中心とはいえ、入院医療機関も増えてきています。たくさんの診療所が、地域医療を支えています。こうした医療資源を有機的に結び付け、効果的に活用し、課題を共有しながら解決していくことができれば素晴らしいことであり、限られた医療資源であっても、単なる”算術和”を大きく超えた力を発揮するはずです。上に紹介した保健予防課長の答弁にあるように、連絡会はまさにそのために必要だったのです。

2年間、一度も開催されず!!

前川区長が、この連絡会に着目したことは正しいことだと、まず私は思いました。そして、コロナ禍の中にあった2年間、この連絡会がどのように機能してきたかを確認しようと思い立ち、2020年1月から2021年2月までの連絡会の会議資料と会議録を情報公開請求しました。2020年1月は、国内で初めて新型コロナの感染例が確認された時期に当たります。

請求に対する回答は驚くべきものでした。「実施機関(※区長のこと)は、令和2年(2020年)1月~令和3年(2021年)12月までの間、練馬区新型インフルエンザ等医療対策連絡会を開催していないため、該当公文書を作成していません。よって不存在のため、これを公開することはできません」と。

開示請求に対する区の非公開決定通知。非公開なのは、そもそも該当する文書がないからだと。

コロナ感染症が広がり、パンデミックとなり、医療崩壊の危機が繰り返し訪れ、区民の命と健康が大きな危機にさらされてきたこの2年間。本来ならまさにその本領を発揮すべきその時期に、新型インフルエンザ等医療対策連絡会は一度も開かれていなかったのです。なんということか…。

なぜ開かなかったのか?

連絡会をなぜ一度も開かなかったのか。そのことをきちんと検証し、総括すること抜きに、新たな『アクションプラン』に「感染症ネットワークの構築」などとうたう神経に、私は大いに驚きます。

それにしても、区はなぜ連絡会を一度も開かなかったのか。日常の業務に忙殺された? しかし、たとえばお隣の杉並区は、早くも2020年3月には杉並区新型コロナウイルス感染症対策関係医療機関等連絡会(杉並区医療崩壊阻止緊急対策会議)を立ち上げました。杉並区議会での説明によれば、2020年度だけで連絡会は41回も開催されています。墨田区でも、早期から医療連携の取り組みが進められてきましたが、連携を支えたのは持続的な会議体の存在でした。

――地域の医療機関では、2020年7月からWeb会議を開催されているとお聞きしてます。
西塚至・墨田区保健所長 はい。当時は新型コロナの重点医療機関は、2病院しかなかったのですが、新型コロナに関わるか否かによらず、区内の10病院と医師会役員、区職員が参加し、定期的にWeb会議を開催しています。病床確保に関する相談などを重ねてきました。   
(m3.comニュース2021.1.31より)

杉並区や墨田区が、医療機関間の連携や機能分担という点でも注目すべき取り組みを進めてきたことはよく知られていますが、その陰にはこうした努力があったことは銘記すべきです。

こうしてみると、練馬区が新型インフルエンザ等医療対策連絡会を開催すらしなかったことの持つ意味は大変重いと言わざるを得ません。なぜ開かなかったのか? 私はそこに、医療は都の仕事という前川区長の頑固なまでに偏狭な信念、“前川イズム”の一つの柱ともいうべき練馬区の「自治」に対する区長の独特な判断があったのではないかと見ています。 

奇しくも、新型コロナ感染が現実的なリスクとして意識され始めた2020年2月7日の区議会本会議で、前川区長はこうした発言をしています。

都と区では、一般的な府県と市のような役割分担は不可能なのです。ハードの都市インフラだけではありません。児童相談所や医療のようなソフトの都市インフラ、すなわち行政の専門的、広域的機能は都が担い、住民との協働や一人ひとりに寄り添った支援などは基礎的自治体である区が担う。これしかほかに道はないのです。

「医療のようなソフトの都市インフラ」は都が担うべきだ。区長はこう言い切っています。「ハード」のインフラ、例えば病院を誘致するようなことは区の仕事だと自覚しはているのでしょう。しかし、医療をどう機能させ動かしていくかという意味での「ソフト」の仕事は「専門的、広域的機能」であり、それは都の仕事なのだ、と。

後退する、医療における「自治」の思想

確かに、都と区の関係は一般の基礎自治体とは違って、例えば病院医療については長く都の役割という整理がされてきました。しかし、実際には各区がそれぞれに医療計画の議論を始めたり、病院整備に事実上乗り出すなど、医療における自治、医療における23区の役割は大きな過渡期にあります。練馬区で見ても、順天堂病院の誘致を大きな転機として練馬区としての医療計画を策定したのは2013年です。医療行政もまた、区の自治の拡充の視点からその在り方を見直すべき時期に来ていたのです。

しかし、前川区長はこの歯車をみごとに逆転させました。医療とりわけ病院医療を動かすのは都の仕事だ、と。さらには保健所行政についても、とりわけ感染症については区ではなく都がより大きな機能を発揮すべきだという主張を一貫して続けています。そして、ご存じの児童相談所…。
「新型コロナ」は、実は自治体の自治の力を鋭く問う経験でもありました。意欲ある自治体は、意欲ある首長のもとで、時に都だけでなく国の動向すら左右する発信や挑戦を続けています。そんな中で、わが練馬区の区長は都に下駄を預け、区のやるべきこと、やりうることをどんどん切り縮めてきた。都政の中枢を支えた自負と都庁マンとしての自信やプライドを隠さない前川区長のもとでは避けがたい流れだったのかもしれませんが、おかげで医療連携の体制づくりのための連絡会が一度も開催されなかったとしたら、区民は泣くに泣けません。

長野県松本市は感染確認の当初から病院間の連携と役割分担に徹底して取り組み、なんと2020年の4月には「入院病床調整計画」をまとめます。いわゆる“松本モデル”です。松本市は中核市への移行を目前に控え、まだ市立の保健所はありませんでした。市立病院はありましたが、それももともとは合併した隣町の町立診療所であり、規模は200床足らず。地方の公立病院のご多聞に漏れず赤字に苦しんでいました。それでも松本市は、二次医療圏にまで視野を広げ、新型コロナに対応する医療体制を作り上げる先駆的な取り組みを進めてきたのです。「自治」に対する彼我の、松本市と練馬区の違いは本当に大きい。
『アクションプラン』改定素案の小さな項目の小さな内実の中に、前川区政の歪んだ現実がくっきりと姿を現しています。

前川『アクションプラン』点検のシリーズはひとまずここで終わります。

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