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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

委託、民営化、そして「廃止」 ~点検・前川『アクションプラン』⑦ ~

『公共施設等総合管理計画』

前川区政の柱となる行政計画=『アクションプラン』の改定素案について見てきましたが、実は、この『アクションプラン』にぶら下がる形でいくつかの行政計画の策定・改定も進められようとしています。その中でも特に重要なのが『公共施設等総合管理計画(実施計画)』です。
『公共施設等総合管理計画』は2014年以来、総務省の強い要請を受けて各自治体で策定が進められてきました。住民サービスはもちろんのこと、あらゆる行政機能はそれを実現するための施設基盤のありようによって質量ともに大きく左右されます。加えて施設の老朽化が進む中で、施設の適切な維持管理と計画的な更新は自治体財政上も極めて重い課題になりつつあります。そんな中での動きです。

2017年3月、練馬区は「施設の維持・更新、管理の総合的マネジメントを進める方針」として『 公共施設等総合管理計画』を取りまとめました。実施計画はこの『管理計画』をふまえた年度別の施設の維持管理方針を定めたもので、2020~2024年度を期間としています。今回の改定は計画期間はそのままでのローリング(中間見直し)ですが、それにしても重大な変更がいくつも盛り込まれています。美術館の改築関係はすでに詳しく触れたので、それ以外に気になった項目を挙げておきます。

石神井庁舎は「再開発」ビルに

石神井公園駅南口で進められようとしている再開発。柱になるタワーマンションビルの3-5階の床を区が買うことを前提に、話が動いています。2022年度の再開発事業認可をにらんで、再開発ビルへの石神井庁舎移転計画が具体的に書き込まれました。

駅前の再開発ビルに区⺠⽣活に密着した⾏政サービスである区⺠事務所、⼾籍、国保、総合福祉事務所、地域包括⽀援センター、子ども家庭支援センターを移転します。あわせて、乳幼児一時預かり室、⽣活サポートセンターを新たに設置し、区⺠サービスの向上を図ります。

石神井庁舎に今ある機能のうちで、ここに挙げられていないのは青少年育成地区委員会くらいでしょうか。事実上、石神井庁舎の全面移転です。駅直近というだけで、福祉に触れる様々な機能を駅前の再開発ビルに集約することが本当に必要で望ましいのか。近いと言っても、今の石神井庁舎だって駅から歩いて5分はかかりません。再開発ビルには、広い駐輪場・駐車場もありません。石神井庁舎がなくなれば、駅周辺の人の回遊性もなくなります。そして、跡地の利活用に対する思惑が新たに動き出しそうです。

先送りされる喫緊の大規模改修

施設の大規模改修計画の見直しも、とても気がかりです。大規模改修はだいたい30年に1度、行われる大掛かりな改修で、配管等の更新だけでなく、エレベーター設置などのバリアフリー対応やIT化対応の基盤整備なども併せて行われています。適切な大規模改修は、おおむね60年と想定されている施設寿命を維持延伸するために欠かせません。
しかし、今回の実施計画改定素案では、いくつもの大規模改修が先送りされようとしています。

生涯学習センターと併設の練馬図書館 
2022-23年度に予定されていた大規模改修工事は先送りに。「類似のホール機能を持つ文化センターは、令和4年度から特定天井等の改修を実施するため、休館します。このため、生涯学習センターの大規模改修は、当面延期し、必要な改修を順次実施します。」
勤労福祉会館 
現行計画では2022-23年度、大規模改修に向けた基本設計。これが「大規模改修に向けて、施設活用の今後の方向性を決定」に変更

生涯学習センターは1985年開設。もう37年目に入ります。練馬図書館を直営から指定管理に移す、それに合わせて大規模改修…そんな区の思惑にも振り回されて大規模改修がずるずると先送りされてきたのですが、このままではいったいいつのことになるのか…。
勤労福祉会館の大規模改修は、議会会派を超えた悲願となっていました。最大の理由は、エレベーターがないことです。会議室や調理室、音楽室などがある2階に上がるエレベーターがない。利用率の高い施設であるだけに利用者からの声は強く、もう10年来、区議会からも公式非公式に数多く要望が出されていました。サンライフ廃止方針に引きずられて、機能の大幅な見直しが入る可能性も出てきました。

施設の大規模改修の先送りは、決してコロナ禍の財政事情だけでは説明のつかないものです。先送りは追加的な補修経費と施設寿命の短縮につながりかねないものであり、今後の財政負担という点からも適切な実施が欠かせないはず。美術館の改築のしわ寄せが、ここにも出てきているのかもしません。

加速する「民営化」

2003年にスタートした志村区政とともに本格化した「委託・民営化」の動きは、前川区政の下でさらに徹底した形で進められようとしています。『公共施設等総合管理計画(実施計画)』素案では、直営、委託、民営化の考え方についてこう整理されています。

①直営
法令等に規定がある施設や、随時区の判断や直接的な関与が求められる業務を行う施設は、「直営」または「一部委託」とします。
② 民間委託
直営とすべき施設を除き、区立施設の管理運営は、民間が担うことを基本とします。
③ 民営化
民間委託後、一定期間安定的・継続的に良好な運営が行われ、サービス向上の観点から民間が担うことが望ましい施設については、民営化に取り組みます。

直営とされる「法令等に規定がある施設や、随時区の判断や直接的な関与が求められる業務を行う施設」は、実はとても少ないです。広く区民が利用する施設、「住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設」を「公(おおやけ)の施設」と呼びます(地方自治法)。この公の施設のうち、学校や道路など一部の施設は法律で区長が管理者となることが定められているため、施設の管理自体を民間にゆだねることはできませんが、それ以外はすべて民間委託や民営化に移ることが可能である、いやむしろそれが「基本」だというのが、練馬区政の今の姿勢です。

この民間委託や民営化に向けた動きが、前川区政の下で一気に加速化しています。素案では、区立デイサービスセンター9施設を指定管理から民営に移すことが打ち出されました。障害者の日中活動の場である福祉園・福祉作業所についても、貫井福祉園の民営化はすでに事実上、確定し、さらに大泉町福祉園も2022年度中に民営化を決定するとされています。福祉作業所についても、すでに民営化の方針が決まっている大泉、貫井、北町に加え、白百合、かたくりも2023年度中に決定する方針です。高齢者介護や障害者福祉にかかる施設については、委託や指定管理を超えて、民営化がどんどん進んていこうとしています。

区立保育園のスクラップ化!? 

しかし、何より象徴的なのは保育園です。区立保育園では、委託化から民営化に踏み込むだけでなく、施設老朽化を理由に施設の廃止まで打ち出そうとしています。

区立保育園については、2005年度の光が丘第八保育園を皮切りに2016年度までに20園を委託化。2020年からは10年間で新たに20園を委託するという計画を進めています。前川区政は、60の区立保育園全園で直営を見直す意思を隠そうとしておらず、残りの直営園についても次の10年間で委託化を進めるつもりです。そして今、保育園の委託化から民営化へ、区の施策は大きく踏み込もうとしています。
『公共施設等総合管理計画(実施計画)』素案では、民営化の具体的なスケジュールが書き込まれました。2011年から委託されていた高野台保育園は2025年度に民営化することが明記されています。そして「光が丘第八保育園、向山保育園、石神井町つつじ保育園、東⼤泉第三保育園は、令和4(2022)年度に再公募または⺠営化するか運営方法を決定します」と記されています。これらの4つの保育園は、2005年から2006年にかけて最初に民間委託されたところです。当時はそもそも委託の是非自体について議会内外で激しく大きな議論がありましたが、それから15年。委託園の民営化が一気に進む気配です。

しかし、前川区政の直営保育園つぶしは民営化にとどまりませんでした。ここで唐突に飛び出してきたのが谷原保育園の「廃止」です。実施計画素案にはこう新たに書き加えられました。

⾕原保育園は、築55年が経過し、⽼朽化が進⾏していることから、近隣に⺠間保育園を誘致し、閉園の周知前に入園している在園児が全員卒園する令和8(2026)年度末を目途に閉園します。その他、築50年以上で大規模改修が未実施の保育園については、必要な修繕を行いながら、周辺の保育園の整備状況や保育ニーズなどを勘案し、今後の方向性を検討します。

谷原保育園だけではないのです。「築50年以上で大規模改修が未実施の保育園」はすべて、同様の「廃止」の検討対象だと。唐突に、というのは正しくありませんね。前川区長は、委託や民営化以外に直営園を減らす方法をきっと探していたのでしょう。それは、「廃止」つまりスクラップ化することです。前川区政は「公(おおやけ)」が保育や障害者の福祉をみずから担うことにどんな価値も置いていないことを、まざまざと突き付けられる思いです。

谷原保育園のは「廃止」方針については、また改めて書こうと思います。

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