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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

突出する「美術館」 ~点検・前川『アクションプラン』④~

昨年12月に早々と区長選出馬を表明した前川区長。選挙公約のいちばんに掲げそうなのが「美術館の全面リニューアル」です。コロナ禍のもと、困難な財政事情の中でとりまとめられた『アクションプラン』改定素案の中でも、この美術館事業は異様に突出しています。
まず、『アクションプラン(年度別取組計画)』の記述がどう変わったかを確認します。

「改修」から「改築」へ

アクションプラン年度別取組計画
2019-2021年度
練馬独自の新しい美術館の創造
 新しく就任した秋元雄史美術館長のもと、みどり豊かな都市の環境を活かした、新しい美術館へと生まれ変わらせます。サンライフ練馬など周辺の区立施設と合わせて大胆に美術館を拡張し、収蔵コレクションや優れた作品の大規模企画展、重要文化財や国宝なども鑑賞できる場へと整備します。美術の森緑地と商店街・駅へと続く動線と一体化して、美術館を核とした街並みを実現します。

「サンライフ練馬など周辺の区立施設と合わせて大胆に美術館を拡張」する、となっています。一方、新しい年度別計画素案ではこうなっています。

2022-2023年度(素案)
美術館の全面リニューアルに着手
 美術館再整備基本構想(素案)で掲げる「まちと一体となった美術館」、「本物のアートに出会える美術館」、「併設する図書館と融合する美術館」の3つのコンセプトの実現に向け、東京中高年齢労働者福祉センター(サンライフ練馬)の敷地とあわせて全面改築します。
 美術館を核とした街並みの実現のため、地域の町会、商店街等と連携していきます。

「東京中高年齢労働者福祉センター(サンライフ練馬)の敷地とあわせて全面改築」となっています。ちょっと違いが分かりにくいですが、これまでの計画は、美術館は「改修」+サンライフ練馬への一部拡張というものでした。それが、サンライフ練馬の解体とその敷地を含めた「全面改築」に変わったのです。

美術館、貫井図書館、サンライフ練馬の位置関係。サンライフ北側の道路を挟んで反対側が中村橋区民センター

改修と改築は、まったく違います。改修は、建物はそのままに設備、配管、部屋割り、外観等を手直しするものです。改修は適宜行われますが、区立施設の場合はだいたい30年~40年に一度、「大規模改修」が行われることになっています。大規模改修の折には、部屋割りを大きく変えたり、エレベーターを付けたりといったかなり大掛かりな工事も入りますが、もともとの建物の躯体はそのままです。一方、改築はまさに「建て替え」。現にある建物を解体・除却し、新しく建物を作り直すことです。
美術館と併設の貫井図書館は1985年に開館ですから、築35年を過ぎ、大規模改修の時期になっていました。大規模改修に合わせて、隣接するサンライフ練馬の一部を美術館の施設として取り込もうというのが、もともとの計画だったのです。
ところが、新しい計画(素案)はこの「改修」方針を一転させ、「全面改築」に転じました。大規模改修すればあと3-40年は持つはずの美術館・図書館を、解体する。サンライフは2012年、つまり10年前に大規模改修を終えたばかりなのに、解体する。そして、新しい美術館を建てる…。昨今の社会経済情勢を考えれば、なかなか信じがたい古典的なスクラップ・アンド・ビルドです。

サンライフは解体。区民センターにもしわ寄せが…

『アクションプラン』の改定と合わせて、『公共施設総合管理計画【実施計画】』(2020-2023)の改定案も示されているのですが、こちらにもう少し詳しい記述があります。「美術館の再整備にあわせた中村橋駅周辺施設の統合・再編」という項目です。改定素案では、こう変わりました。

改定素案『公共施設総合管理計画【実施計画】』(2020-2023)
美術館は、7,000点を超える収蔵品の活用や大規模企画展の開催にはスペースが不足しています。再整備基本構想(素案)で掲げる「まちと一体となった美術館」、「本物のアートに出会える美術館」、「併設の図書館と融合する美術館」の3つのコンセプトの実現に向け、東京中高年齢労働者福祉センター(以下「サンライフ練馬」という。)の敷地とあわせて全面改築します。
 貫井図書館は、美術館の改築にあわせて一体的に整備します。
社会状況の変化に伴う区民ニーズや施設の利用状況等を考慮し、サンライフ練馬は令和7年度を目途に廃止します。引き続き必要な機能については、代替を設けます。
廃止後の敷地は、美術館の改築で活用します。
中村橋区民センターは、トレーニング室など、サンライフ練馬の代替が確保できるよう、大規模改修の設計を行います。大規模改修時に休止できない事業について、光が丘第七小学校跡施設やサンライフ練馬の部屋の一部を活用します。

美術館の全面改築で、関連する施設にはとても大きな影響が出てしまいます。一体で建て替えとなる貫井図書館は長期の閉館となり、新美術館の下で図書館としての機能がどうなっていくのかも心配です。区が示した施設計画を見ると、図書館の専有面積は減ることはあっても、とても増えそうにはありません。建て替えたのに蔵書が減る、などということになりかねません。
サンライフ練馬は、大小の貸出施設のほか大きなトレーニング室がありましたが、廃止となればそれらの機能はどうなるのか。中村橋区民センターで「代替を確保」と言いますが、区民センターは現に1階と2階の一部は心身障害者福祉センターと未就学児の保育・指導などを行う事業所が入っています。2,3階は区民館として貸出施設だけでなく、敬老館や児童館に準じる事業を行っています。3階には学童クラブもあります。どのように「代替」するのか、具体的なことは全く示されていません。

たくさんの区民が利活用してきた施設をこんなにもズタズタにして、いったいどうするんでしょうか?

前川区政が廃止・解体を打ち出したサンライフ練馬。この左手に美術館・図書館の複合施設がある。手前は美術の森緑地。
なぜ「建て替え」なのか?

直接、影響が及ぶ施設や事業だけの問題ではありません。改修方針から全面改築に転ずることによって、必要な事業費は一気に跳ね上がるでしょう。財政状況が厳しいからといろんな区民サービスを切り詰め、いろんな計画にしわ寄せをしておきながら、美術館に——美術館にだけは莫大な税金を投入するとしたら、果たしてそれは区民が納得できることなのか。
まるで”そこのけ、そこのけ…”とばかりに美術館がどんどん突出してくる。そんな印象の、前川『アクションプラン』です。たくさんの区民や事業にしわ寄せを及ぼしてまで、そしてまだまだ立派に使える建物をスクラップ化してまで、どうして新築の美術館が必要なのか?
『アクションプラン』素案と同時に区が公表した『美術館再整備基本構想(素案)』を見ても、納得できる説明は全くありません。

『美術館再整備基本構想(素案)』は こちら

『基本構想(素案)』が「リニューアルの必要性」として指摘する課題は、いずれも、「改修」方針の時にも十分に共有されていたはずのものです。なぜ「全面改築」に転じなければならないのか。
唯一、それらしきことを書いている一文があります。

「大規模改修の時期を迎えた今を“絶好のチャンス”と捉え、現在抱えている課題への対応だけでなく、『魅力あふれる文化芸術拠点』として美術館を生まれ変わらせます。」

「現在抱えている課題への対応」だけでなく、と言います。『魅力あふれる文化芸術拠点』を造るんだ、と。区民が豊かに、自由に、多彩に、そして身近に文化芸術活動に親しめるようにすることは、練馬区政にとってとても大切な課題です。ある意味で、基礎自治体だからこそ担わなければならないし、担うことのできる課題です。しかし、それは大きく新しい、立派な「拠点」を作ることとはだいぶ違います。「国宝や重要文化財などを展示できるようにするため、文化庁の公開承認施設を目指す」と区は言っていますが、そのために改築が必要になったのでしょうか。もしそうなら、私たちは改めて問い直すべきです。本当に練馬の、中村橋の、この場所で、「国宝」に触れることがそれほど貴重なことなのか。練馬区政にふさわしい目的なのか、と。

『基本構想(素案)』に先立って、「再整備基本構想の策定方針および内容」について検討するために美術館再整備基本構想策定検討委員会が設置されました。学識経験者や地元関係者なども参加したこの委員会は2019年に『提言』をまとめましたが、それは「全面改築」ではなく「改修」を基本としたものであり、そして「改修ではだめだ」とは一言も書いてありません。
「改修」を「改築」に差し替えたのは、前川区長です。そこには、”前川流”の文化芸術観、”前川流”の練馬区政のビジョンが色濃く反映されているのですが、しかし、こんなに唐突に、経過もふまえず、深刻な影響を深刻に受け止めようとしない「決断・指導力」は、決して褒められたものではありません。

『アクションプラン・年度別取組計画』(素案)では、もう来年度からと新美術館の設計に入ることになっています。かくも強引で拙速なやり方を、認めるわけにはいきません。

コメント

  1. アッキー より:

    この計画、おかしいと思います。
    そもそも練馬区立美術館を国立や都立の美術館の規模にしたいのか?そんなに大きくしなくていいと思います。築35年で壊してしまうなんてもったいない。

    サンライフ練馬も改修してきれいになり、使いやすいです。2階のレストランも、居心地がよく
    最高です。(味もいいです)壊してしまうなんて信じられません。

    計画には反対です。パブリックコメントも提出しました。
    お金の使い方、まちがっていると思います。