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区立幼稚園は、残るのか? ~点検・前川『アクションプラン』③~

学校司書をどうするかは、前川区政が何を優先し何を大事にしていないかを知る、目立たないけれども象徴的なテーマです。そしてもう一つ、区立幼稚園がどうなるかもとても気になるところです。

「実施」から「検討」へと後退

『アクションプラン・年度別取組計画』(2019-2021)と今回示された後期の素案を比べると、区立幼稚園に関する記述が変化、後退しています。

『年度別取組計画』(2019-2021)
区立幼稚園3園の練馬こども園化  令和3年度 実施 
『年度別取組計画』(2021-2022)素案
区立幼稚園3園の練馬こども園化  令和5年度 検討

2019年からの現行の『取組計画』では、「練馬こども園化」つまり区立幼稚園で定期の預かり保育を実施するとうたっていました。ところが、新たな計画素案では「実施」の表現は消え、「検討」に後退しています。現行計画には「区立幼稚園においても11時間保育を行い、『練馬こども園』化を進めます。」と明記してあったのですが、この一文も消えました。

区立幼稚園は、保育内容などへの高い評価の一方で、送迎無し、預かり保育無し、3年保育無しと、私立幼稚園などの保育と比べても明らかに大きな格差があり、保護者からは繰り返し改善、充実を求める声が出されてきました。しかし、区・区教委は一貫して消極的な対応を繰り返してきました。
その背景には、「区立幼稚園の役割は私立幼稚園を補完すること」という、長年にわたって区教委を縛ってきた考え方があります。私立幼稚園と”競合”してはならない、私立幼稚園の経営を脅かしてはならない。いつも一歩、二歩、後を。そんな配慮が、3年保育のような今では基本中の基本ともいえる事業の実施すら押しとどめてきたのです。

『練馬こども園』、そして3年保育へ

流れが変わったのは、2015年です。この年の区議会第一回定例会で、教育長がこう答弁しています。

教育長 練馬こども園は、3年保育を前提とした制度設計をしております。2年保育の区立幼稚園については、まずは多くの保護者から要望のある預かり保育の実施に向けて、平成27年度にその条件整備を図ってまいります。そのうえで保育期間のあり方や近隣の私立幼稚園の状況等を踏まえ、練馬こども園への移行の取り組みについて検討してまいります。

教育委員会が初めて預かり保育の実施を明言した答弁でした。光が丘の区立幼稚園2園を廃止した直後、前向きの転換を図りたいという思いもあったのでしょう。国の子ども子育て支援法の施行で、幼稚園における預かり保育の意味合いが大きく変わったことも背景にあったと思いますが、いずれにしても本当に”ようやくここまで”という一歩でした。実際の歩みはその後も紆余曲折、遅々としていましたが、1歳児1年保育の実施などの回り道を経て、ようやく2019年度からの『取り組み計画』において、「練馬こども園化」という形で預かり保育の実施が明記されたのです。
預かり保育の実施に踏み切った経緯を、所管の学務課長はこうわかりやすく(正直に)説明しています。(2017.12.06 文教児童青少年委員会)

◎学務課長 かねてから、在園児の保護者から預かり保育について要望があるということは、区でも十分承知していたということになります。一方で、区立幼稚園はこれまで、私立幼稚園との関係では補完的な役割を担ってきてございますので、近隣の私立幼稚園等に対する配慮も十分踏まえる必要があります。
…現在私立幼稚園では、ほぼ全園で預かり保育を既に実施している状況があって、区立幼稚園がやることによって特に影響を与えることは少ないと判断したことと、もう1点、昨年の議決を得て行っている区立幼稚園の保育料の値上げということがあります。保育料に関しましては、私立幼稚園と区立幼稚園について、現在は同じ額で設定をかけているという状況もあります。条件が整ったことから、今回、預かり保育を実施すると決めたところでございます。

教育委員会としては、ある意味で長年の“夢”だったのかもしれません。いつもまるで”日陰者”のような扱いだったけれど、区立幼稚園の事業に対しては教育委員会の中にもきっと自負も誇りもあったはずです。2つの幼稚園の廃止を決めた際も、教育委員会には苦渋の色があったと私は感じたものです。
『アクションプラン』に位置づけたことを受けて、教育長はその「決意」をこう述べています。(2019.09.26 決算特別委員会)

◎教育長 今、区立幼稚園の大きな転換というお話をいただきました。…これまで1歳児1年保育、3歳児1年保育、そしてまた預かり保育と足場を固めながら次のステージに向かって今、努力しているところです。
 第2次ビジョン・アクションプランにしっかりと位置づけておりますので、令和3年度の練馬こども園化の実施に向けて、積極的に取り組みを進めてまいりたいと考えております。

なかなかの意気込みです。私立幼稚園の補完でしかないというあり方は、区立幼稚園としても、また教育委員会としても、決して本意ではなかったはずです。私立幼稚園に本当にあれこれと配慮しつつも、やっと預かり保育の実施まで持ってきた――私は議会の場で、そんな思いが垣間見える答弁と聞きました。預かり保育の実施は、区立幼稚園を守り充実させたいという思いからすれば、「次のステージ」への一歩だと教育長は言っています。その先には3年保育の実施なども見えていたことでしょう。なにしろ「練馬こども園は、3年保育を前提とした制度設計をしている」(教育長)のですから。

教育委員会の“挫折”?

しかし、前川区長は、区長選に向けた新たな『アクションプラン』において、その預かり保育の実施を先送りしてしまいました。
きっかけは「コロナ」でした。2021年度の予算編成にあたって、区は「緊急対応」方針を示し、その中で「区立幼稚園の練馬こども園化」については「延期」とされました。しかし、それはあくまで2021年度のことであり、2022年度からの新たな『アクションプラン・年度別取組計画』には盛り込みたいというのが教育委員会の立場でした。「延期」が決まったあとの、所管課長の答弁です。(2021.03.09 文教児童青少年委員会)

学務課長 この区立幼稚園の練馬こども園化の具体的な内容としては、11時間保育に時間を延ばすこと、また、三季休業中についても、お休みするのではなく、しっかりと保育すること。まさに、今、私立幼稚園各園でお願いしています、練馬こども園と同様の内容を区立幼稚園3園においても行うといったものでございます。
 今回、予算編成の中で延期となったのは、それに伴う人件費の増等がございまして、この財政状況の中では実施が難しいと判断したものでございます。
 私どもといたしましては、区立が果たす役割も大きかろうと思ってございますので、今後のアクションプランの編成の中で整理すべきことと認識してございますが、何とか進めてまいりたいと考えております。

「何とか進めてまいりたい」という学務課長の思いは、しかし、かないませんでした。新たな『取組計画』でも、練馬こども園化は盛り込まれなかったのです。その主たる理由が財政事情にあるということであれば、それこそ何をかいわんやです。小さな二つの幼稚園で預かり保育を始めることに必要な予算など、知れています。必要性が高く事業の趣旨も明確であるにもかかわらず、その支出を後回しにするとしたら、それこそ前川区政の優先順位はとんでもなく間違っていると言わざるを得ません。
しかし、私は、財政事情だけが理由ではないのではないかと思えてなりません。そこには、区立幼稚園の統廃合に向けた新たな動きが潜んでいるのではないか。

区立幼稚園に新たな統廃合?

区立幼稚園は、これまで繰り返し統廃合の対象として取り上げられ、教育委員会内でも、また区議会でも、懸案であり続けています。練馬区にはもともとは区立幼稚園が5つあったのですが、2014年に光が丘あかね、光が丘わかばの二つの幼稚園が廃止されました。残る北大泉、光が丘むらさき、光が丘さくらの3つの区立幼稚園の統廃合の動きは今のところは顕在化していませんが、区・区教委は、入園児数が減少していることなどを理由にこれら3園についても「適正配置」の検討が必要であると明言しています。
このまま預かり保育も3年保育もなければ、区立幼稚園の入園希望者はどんどん減っていくでしょう。そして、新たな統廃合は避けられなくなる。「練馬こども園化」は、区立幼稚園にとって、生き残りをかけた策でした。そして、その策が挫折したとなれば、区立幼稚園はいよいよ園児減少、施設存廃の危機という負のスパイラルに入っていってしまいます。

公けの事業の徹底した見直しを掲げ、「委託化・民営化」をためらいなく推し進めようとしている前川区政です。区立幼稚園の必要性そのものを疑っているとしても、全く不思議ではありません。「練馬こども園化」が区立幼稚園の「新しいステージ」であったとしたら、その棚上げは、区立幼稚園の将来にとても危うい影を落とすものです。前川区政の下で、区立幼稚園は残るのか? 深い危惧を抱いています。

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