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消えた「学校司書」の道 ~点検・前川『アクションプラン』②~

道路や「再開発」の問題はこの間、しばしば取り上げてきたテーマですが、それ以外にも今回の『アクションプラン・年度別計画』(素案)には、見逃すことのできない変更、転換がいくつも盛り込まれています。一つずつ、見ていきます。最初は、学校図書館事業です。

学校図書館「管理員」と「支援員」

区立小中学校に設置されている学校図書館。この学校図書館をめぐっては、この間、深く大きな議論が議会でも続いてきました。焦点は「学校司書」の取り扱いでした。

練馬区(教育委員会)は、司書教諭をサポートし学校図書館の業務にあたるスタッフとして、2006年ごろから業務委託で「図書館管理員」の配置を進めてきました。しかし、2009年に開設された南田中図書館に指定管理者制度を導入して以来、「学校支援モデル事業」が指定管理業務に位置づけられ、その柱として図書館職員が学校図書館の支援に入る「学校図書館支援員」の派遣が広がってきます。旧来の「管理員」については、指定管理が導入されていない直営館のエリアをカバーするものとされ、指定管理の拡大とともに順次、「管理員」を「支援員」に置き換えていく。これが練馬区ならびに区教委の方針でした。

なぜ「管理員」ではなく「支援員」で行くこととしたのか。はっきりとはわかりませんが、指定管理導入の”メリット”を必要とした図書館サイドの思惑と、人件費支出の抑制を期待する学校サイドの思惑が一致した結果だったのかもしれません。いずれにしても、「管理員」と「支援員」2つの仕組みを使いながら学校図書館への人の配置は進み、2017年度にはどちらかのスタッフが全校に配置されるというところまで進んできました。全校配置といっても1日6時間年100日だけなのですが、とにもかくにも誰かがいる、そういう状況にはなったということです。区としては、残り少なくなった直営図書館を指定管理に移すスケジュールに合わせて、すべての学校図書館に「支援員」を配置する方向で整理をしていたものと思われます。

「学校司書」の法制化と区・区教委の動揺

ところが、ここでいわば”想定外”の事態が起きます。2015年に学校図書館法が一部改正され「学校司書」の配置が努力義務規定としてではありましたが、法に位置づけられました。当初、区は「支援員」がこの「学校司書」とみなされるという認識でいました。議会の質疑の中でも、教育委員会が自信たっぷりに「支援員も法に言う学校司書に当たる」という答弁を繰り返したいたことを、私もよく覚えています。たとえば、2016年3月3日の予算特別委員会での私の質疑に対して、光が丘図書館長はこう答弁しています。

光が丘図書館長 …学校図書館法の学校司書の配置の目的である学校図書館の運営の改善や向上を図り、児童・生徒による学校図書館の利用の一層の促進を十分に果たしていることから、この学校図書館の学校図書館支援員を学校司書に相当するという判断はしているところでございます。

さらに問いかける私の質疑に対して、教育振興部長はこういう答弁までしています。

教育振興部長 今、委員からありましたけれども、先ほど図書館長から、これまでの実績で、練馬がやってきた図書館と学校図書館での取り組みについては、大変評価を得ているというお話しをさせていただきました。
 今、法の解釈等についてということでご指摘がございましたけれども、文部科学省で、どういう形で詰めていくかということについて、今、検討しているということでございますけれども、担当の職員が練馬区を訪れて、先進自治体の事例ということで、私どもの図書館支援員の実態を見るために訪問しました。その中で、内容についても理解いただいたのではないかというところでございます。

文科省の「担当の職員」も了解してくれた、だから「支援員」は「学校司書」とみなしても大丈夫だ。こう答えたのです。しかし、この区教委の答弁はみごとに破綻します。2016年末に示された「学校図書館ガイドライン」において、国は学校司書については直接雇用の職員に限るという考え方を明確にしたからです。
地域図書館の職員である「支援員」はもちろん、「管理員」もあくまで請負のスタッフであって直接雇用の職員ではありません。「支援員」にしても「管理員」にしても、「学校司書」に相当するものとは言えなくなってしまいました。そこで、区・区教委は学校図書館の「人的配置の在り方」を検討し直す必要に迫られます。第一次の前川『ビジョン』にもとづく『アクションプラン』(2018-2019)以来、学校図書館については「人的配置」に関する「支援の充実に向けた検討」が行政計画上も続いてきたのです。
現在の『アクションプラン・年度別取組計画(2019-2021)』でも、こういう記載になっています。

(2) 学校図書館の機能強化
区立小中学校と区立図書館とが連携して、全ての学校図書館の情報化、人的配置などを推進することで、学校図書館の機能を強化します。
・学校図書館への人的配置  支援の充実に向けた検討

この「支援の充実に向けた検討」が学校図書館法の改正と『ガイドライン』の制定を受け、直接雇用の学校司書配置の是非を含む、いやそれを柱とした作業であったことは明らかです。以下は、2017年9月28日の決算特別委員会での質疑です。

池尻成二委員 442ページの図書館費、429ページの学力向上推進経費について伺います。
 学校図書館の人的配置については、今年度は週2日ずつとはいえ全校配置が実現をしまして、大きな節目を迎えたと言えると思います。
 他方、配置のあり方については、教育指導課の所管で請負契約の管理員と図書館から派遣されている支援員の二本立てでこれまできたわけですけれども、学校図書館法の改正による学校司書の法定化、更には学校図書館ガイドラインの策定という大きな変化を受けて、人的配置のあり方の見直しを進められていると承知をしております。大変注目をしております。そこでまず伺いたいのですけれども、ガイドラインの内容や法の趣旨を踏まえての見直しということで、当然ながら直接雇用で学校の職員としての学校司書を配置すると、こういう考え方が見直しの基本になるかと思われますけれども、その点についてご確認をいただければと思います。
教育指導課長 学校図書館支援の充実につきましては、アクションプランに基づいて今年度図書館支援員または図書館管理員が全校配置となったところでございます。今後の人的支援の充実策につきましては、さまざまな状況を踏まえて検討をしてございます。
池尻成二委員 さまざまな状況を踏まえて検討するのはある意味で当たり前なことなので、言わずもがなのご答弁は余りよろしくないと思いますけれども、改めて聞きますけれども、直接雇用で学校の職員として学校司書を配置するという、これがガイドラインや法の趣旨であることについては、異論なかろうかと思います。こういう考え方を基本にやっていかれるという理解でよろしいのかどうか確認をお願いします。
教育指導課長 一つの方法として、非常勤職員ということでの雇用ということもあろうかと考えております。
池尻成二委員 非常勤かどうかは別にして、直接雇用の職員以外に、ガイドラインの趣旨を踏まえた配置ということは、どういうことがあり得るのですか。もし具体的にお考えがあったら教えてください。
教育指導課長 学校司書につきましては、改正された学校図書館法におきまして、配置を努力義務として示されております。したがいまして、当教育委員会といたしましても、さまざまな人的配置のあり方がありますので、現在検討を進めているところであります。

不承不承でしたし、あくまで非常勤としてではありましたが、区が直接雇用の学校司書配置を検討していることを認めた初めての答弁でした。まさにここが、この間の学校図書館をめぐる最も大きな論点だったのです。

「学校司書」は配置せず。前川区政の大汚点

しかし、今回公表された『年度別取組計画(2022-2023)』(素案)では、学校図書館の人的配置をめぐる記載は大きく変わりました。こうなっています。

(2)学校図書館管理員の全校配置
区立小中学校の学校図書館において、より統一した対応を図り、充実するため、業務委託による学校図書館管理員を全校に配置します。

「支援の充実に向けた検討」という文言が消えました。検討は終わったのです。そして、結論は「業務委託による図書館管理員の全校配置」となりました。なんと! 区・区教委は、直接雇用の「学校司書」の配置をしないという結論を出してしまったのです。
法の求めるところが明確であるにもかかわらず、そして学校図書館をはじめとした学校における人材確保がきわめて重要であることは論を待たないにもかかわらず、練馬区は、学校司書を配置しない、と。

理由はなんでしょうか。非常勤を雇うための人件費でしょうか? あるいは、すでに図書館管理員事業を一手に請けている事業者への配慮でしょうか? そのどちらか、あるいはどちらもかもしれません。しかし、一つだけはっきりしたことがあります。前川区政は、学校司書の配置の流れすら押しつぶしたということです。
直接雇用の学校司書を配置するかどうかは、「民間」任せに流れる区政の在り方を問い直し、何より学校図書館にふさわしい人員配置に踏み込むという点で、きわめて重要なテーマでした。しかし、前川さんは、みごとに私たち——学校図書館の充実を願う関係者、保護者や子どもたちや学校の先生方の期待を裏切ってくれました。

学校図書館の人的配置問題は、前川区政の大汚点となるに違いありません。

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