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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

練馬城址公園の「段階的整備」を考える (その5-完)

防災機能の“一等地”

『覚書』で、ハリー・ポッターのスタジオ施設計画は一気に動き出しました。『覚書』がなければ、少なくとも30年の長期にわたる事業を前提とした施設整備はかなわなかったはずです。そして、この大規模かつ長期にわたる施設計画に道を開いた『覚書』は、公園整備の手順、正式な手続きを違え、本来なら確保されるべき公園機能や公園整備の理念、優先順位をなし崩しにしてしまうものになっています。その一つの象徴が、開発区域の境界や範囲をあいまいなままにしたことなのですが、しかし、それ以前に、そもそもなぜ石神井川の北側のこの一角を開発に供することにしたのか、なぜこの一角を公園整備の最後に、それも5年や10年ではなく30年以上、もしかしたら半世紀も先に回すことにしたのか。『覚書』の当事者、とりわけ公園整備の責任を負う東京都からまともな説明は全くなされていません。

スタジオ施設の整備予定区域は、としまえんエリアの中でも最もまとまった平坦地、もっともアクセスのよいまとまりのある空地です。そのことは、都も事実上、認めています。下の図は、公園審議会での2回目の審議の際に都が提出した資料の一つです。

東京都公園審議会 2020年第2回(2020.9.8)資料1より

これは、「広域防災拠点 公園整備への展開」と題された図です。スタジオ施設が予定されている区域が、地形、広がり、アクセスなどの点で防災機能に最適な場所であることがよくわかります。もともと練馬城址公園を優先整備区域に指定した最大の趣旨、目的は「防災」でした。広域防災拠点としての機能を果たすことは、この公園整備の第一の眼目です。しかし、もしそうであるなら、この区域、スタジオ施設が今まさに整備されようとしているこの区域こそ最優先で公園として確保・整備すべきではないのでしょうか。

もう一つ、こちらの図も見てください。これも、同じ資料の中にあるものです。

こちらは「空間特性から見た区域区分」と題されています。川の南側が、全体としては現況を保全し修復しながら公園の魅力を形成する場所であるのに対して、北側はにぎわいや市民活動なども含めた多様な用途を想定した整備可能エリアという位置づけと読めます。南側では、今、プールのある場所はプールを除却すれば平坦地となりますが、除却の負担、入り口からのアクセスなども含め、整備には一定の時間と手間がかかるでしょう。逆に北側から公園整備を始めることで、プールを残し生かす道も生まれるかもしれません。プールを残してほしいという区民の思いは、ひときわ強いものでもあるのですから。

スタジオ施設が予定されている区域は、交流や賑わいの機能の確保にも最適な場所です。前回でも触れたように、親水性のある河川空間を生み出すためにも不可欠の場所です。公園の「段階的整備」が避けられないとしても、そしてたとえ民間の開発事業に一定の期間、公園予定地の占用を認めることがあったとしても、それはまさにこの“一等地”を、しかも30年もの長期にわたって明け渡すことであってはならない。私は、そうい思います。なぜなら防災拠点としての整備が喫緊の課題であるからであり、公園整備の公共性・公益性は私的な開発利益に優先されるべきであるからであり、そして繰り返しますが、この一帯が優先整備区域に指定されているからです。

ないがしろにされる公益性、公共性

としまえんの北半分、石神井川の北側のほぼ全域でスタジオ施設を整備することを、都はなぜ認めたのでしょうか。土地の所有者でもある西武鉄道がそれを望んだから? 確かに、西武鉄道の意向でもあったでしょう。しかし、西武鉄道が望んだとしても、その通りに公園整備区域から除外し後回しにするかどうかはまた別な問題です。ここで何より優先されるべきは公園に求められている機能・役割であり、その機能・役割を果たすために最善のゾーニングはどういうものかという透明で根拠ある判断だからです。
しかし、そうした判断に不可欠の公園審議会での議論、そして整備計画の取りまとめは後回しにされてしまいました。公定の手続きでもなんでもない『覚書』が事態を動かし、そして都は、いつ、どのような根拠で、このエリアを開発してもよいと判断したのか、全く説明をしていません。

『覚書』は、本当に大切な約束です。法的効力を持つものであり、都市計画区域の中で民間事業者に30年もの土地の優先利用を認めるものです。これだけ大切な『覚書』の核心でもある開発区域がこんなにあいまいな形で、密室で、あえて言えば公園整備と都市計画事業のコンプライアンスをないがしろにして定められようとしていることは驚きですらありますが、その『覚書』を唯一の根拠に事業者が事業を進めようとしていること、そして公園審議会がその事業者の意向を“丸のみ”して整備計画をまとめようとしていることもまた、道理のないことです。

としまえんの廃園とその後をめぐる一連の経過は、前がかりで新たな開発計画を進めようとする事業者の意向を、都や区が追認し、後付けし、取り繕ってきた過程のようにさえ見えます。そのなかで都や区は、たくさんのことを後回しにし、犠牲にしてきました。避難場所としての機能、防災公園としての整備、公園整備計画の意義や規範性、都市計画事業のルール、議会や地域の合意形成、そして、としまえんのよき歴史を引き継いでもらいたいと願う地域の人たちの熱い気持ち…。
公園審議会で、都の担当者がこんなことを言っています。

「当公園のある石神井川沿いには、武蔵野の景勝を生かして実業家の藤田幸三郎により練馬城址豊島園が大正15年に開設されております。当時、東京市民のための体育の奨励と園芸趣味の普及を図ろうという思いで造られたものであり、営利目的の興行的な遊園地と一線を画するものであったと言われております。」(公園審議会第2回 坂下計画課長)

「営利目的の興行的な遊園地と一線を画するものであった」。その通りだと思います。としまえんは、単なる遊園地としてつくられたものではなかったし、まして営利を目的として100年に及ぶ歴史を刻んできたのではない。それは、遊園地であると同時に、それ以上に、地域の緑やレクリェーションの拠点であり、交流と賑わいの空間であり、行政の公共的な活動の場てあり、そして人々の心と安心のよりどころでもあったのだと改めて感じます。であるからこそ、としまえん跡をめぐる動き、公共性や公益性よりも民間事業者の便宜や開発利益が優先されているかに見える動きは本当に情けなく、また危ういものです。

私がこの間、求めてきたことを改めて記しておきます。

  1. 防災、緑、賑わいなどの機能が最大限発揮されるような公園整備の在り方を、区、区議会、区民も交えてしっかりと検討すること
  2. 整備計画が確定されるまでは、スタジオ施設の開発計画を進めないこと
  3. 『覚書』の見直しも含め、原点に帰った検証を行うこと

議論は終わっていません。          (完)

コメント

  1. 品田 穣 シナダ ユタカ より:

    池尻先生の論点整理、的確で申し上げることはありません。

    都も決してこの計画がいいと思っていたのではないと思います。

    今後は、なぜそうなったのか、本音を明らかにできればいいと思います。

    結局、予算の範囲で、ということでしょうが、それならそれで、今後の対応も違ったのに・・・