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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

練馬城址公園の「段階的整備」を考える (その4)

区域は、どこで誰が決めたのか?

公園を整備しようとする場合、まず考えなければならないのは①その公園の役割、機能、②公園のゾーニング、③施設・設備、④整備の手順でしょうか。特に大きな公園では、②や④は重要な意味を持ってきます。これらを検討・整理し確定したものが公園の整備計画ということになります。

都の条例では、整備計画は公園審議会に諮問をしたうえで決定することとされています。練馬城址公園については整備計画はいまだ検討の途中段階です。諮問は6月30日に行われ、今のところ「中間まとめ」が年明けに出ようかという段階です。当然、全体で20haを超える広大なエリアのどこにどのような機能・施設を配置するか、つまりゾーニングの考え方もまだ決まっていません。では、なぜ整備計画すらまとまっていないこの段階で、石神井川の北側のほぼ全域、9ha以上の区域が公園整備から事実上、外され、そこで大規模な民間の開発計画が進行する事態になったのか?

ここでも、『覚書』が出てきます。まちづくり条例に基づく住民説明会に先立って、区議会議員を対象とした説明会が9月2日にありました。その時初めてスタジオツァー計画の図面を見て、「デカい!」と思わず叫んだことはどこかでも書きましたが、この説明会の場で私はある質問をしました。「この図面の区域は何を根拠に決まったものか」と。事業者の答えはこうでした――「『覚書』で合意されたものです」。

『覚書』にはこんな条項があります。

(練馬城址公園整備の工程)
第5条 甲は、整備計画の策定において、乙の意見を十分に聞くものとし、整備計画策定後には、速やかに整備を進めていくものとする。
2 甲は整備計画に基づき、他の関係者と協議の上、段階的に整備を進めることとし、他の関係者はこれに協力する。
 (スタジオツアー施設等)
第6条 前条の段階的な公園整備のプロセスに合わせて、丙、丁及び戊は、対象区域の未開園部分のうち、関係者間で合意する区域(以下「開発事業区域」という。)において、スタジオツアー施設等(スタジオツアービルディング、駐車場及び外部からの到着エリアを含む。以下同じ。)の整備に向けた協議を行う。なお、スタジオツアー施設等の位置は、別紙の計画のとおりとする。

問題は、第6条です。ここには、とても大切なことが書かれています。スタジオ施設等の位置(「開発事業区域」)は
①整備計画に基づく段階的な整備の中で生ずる「未開園部分」であること
②「関係者間で合意」したものであること
③「別紙」で区域を定めること
です。
しかし、「整備計画に基づく」と言われても、繰り返しになりますが整備計画はまだありません。「段階的整備」の内容はどこでも確定も明示もされていません。当然、「未開園部分」も定まったものとしては示しようがないはずです。少なくとも公園整備の適法的で計画的な進行という点からは、都は、事業者に対してスタジオ施設計画に提供しうる区域を定め、提示する根拠も条件も持っていませんでした。都市計画公園・緑地の整備方針とそれを踏まえた優先整備区域の指定、そしてそれぞれの公園における整備計画の策定という行政手続きが定められている以上、それを飛び越えて開発可能区域を示すなどということは、たとえ知事であっても無理な話なのです。 それにもかかわらず、都(そして区)はスタジオ施設を整備する区域を決めた『覚書』に署名しました。この判断は不当なものであると、私は考えています。

しかし、問題はそこにとどまりません。『覚書』が示したスタジオ施設の「区域」は、公園整備の大局的な目標に照らして、大いに問題をはらんだものでした。

実は、この『覚書』では、そもそも公園予定地のどのエリアをスタジオ施設に提供するのかがとてもあいまいなのです。覚書の「別紙」として添えられているのが、この図面です。

『覚書』別紙。赤枠が都市計画区域、ピンクの網掛け部分が「スタジオツァー施設等の計画位置」

だいたいこのあたり…そんな感じのぼんやりした図面です。しかも、図面はこれだけです。もしやこれ以外に何かしっかりした図面があるのではと思って東京都に公文書開示請求をかけたのですが、「不存在」という回答でした。事業者が整備する開発区域と都が公園として整備する区域の境界や、事業者の手元に残る開発区域の面積などを約束した図面はありません。都が買収すべき用地の範囲も定めないままに交わされた『覚書』というのは、なんともずさんではないか。

『覚書』は、本当に大切な約束です。法的効力を持つものであり、事業者に30年もの土地の優先利用を認めるものです。これだけ大切な『覚書』の核心でもある開発区域がこんなにあいまいな形で定められていることは驚きですらあります。しかし、それでもこの『覚書』の図面でだいたいの位置はわかります。ところが、実際に動き出したスタジオ施設整備計画のエリアは、この『覚書』の図面とは大きく違ったものになってしまっています。整備計画を検討している都の公園審議会には、こんな図面が出されています。

東京都公園審議会2020年第2回資料より

この図面は、ご承知の通り、西武鉄道やワーナーブラザーズなどの事業者が開発計画の説明会で提示したものと基本的に同一のものです。公園審議会は、事業者が開発区域として定めたものをそのまま追認しようとしています。
二つの図面を見比べてください。『覚書』の添付図では、石神井川からスタジオ予定区域まではずいぶんと距離があるように見えますが、いつの間にか川ぎりぎりまで開発区域が広がっています。東側や北側にも空間があったのに、なくなってしまいました。要するに、西側の一角を除いた石神井川北側全体が開発区域になっているのです。スタジオ施設の整備区域は、『覚書』の図面から大きく広がってしまいました。

『覚書』の図面と、事業者が実際に示した開発区域には大きな違いがあります。この違いは、決してどうでもよいものではありません。たとえば、石神井川に親水性のある水辺空間を整備するということはしばしば語られていますが、そのためには川北側にまとまった空地を確保することが不可欠です。南側は崖線が基本であり、また、今の垂直護岸の河川を親水性のあるものにするためには河川区域を北に広げることが必要だからです。もし開発区域が『覚書』でピンクの網がかかっているエリアの中だけにとどまるならば、川の北側にはいくらかの空間が取れたでしょう。しかし、川ぎりぎりまでせり出した事業者の開発区域を前提にすれば、親水性のある河川整備はとても無理です。

白子川・水道橋付近に整備された緩傾斜護岸。本来の河川幅の2倍ほどの区域を占める

川だけではありません。何より重要な防災機能の維持・充実という点でも、『覚書』と実際の開発区域の違いは大きな意味を持っています。 (続く)

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