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練馬城址公園の「段階的整備」を考える (その2)

練馬城址公園の「段階的整備」のどこが異例、異様なのか? 大きく5つの点について見ていきます。

  1. 「段階的整備」の期間が、なぜ30年を超す長期間になったのか
  2. 全体の整備計画がなぜ後回しにされたのか
  3. 「段階的整備」の区域は、どこでどう決まったのか
  4. 公園機能の中核になるであろう場所がなぜ最後になるのか
  5. そもそも、なぜこうまで無理をして民間の開発事業の便宜を図ろうとするのか

30年を超す「段階的整備」とは…

都市計画で定められた公園・緑地の整備を計画的に進めていくための行政プランが、『都市計画公園・緑地の整備方針』です。この『整備方針』が最初に定められたのは、2006年。東日本大震災の衝撃を受けて2011年に期間途中で改定され、今回、2020年に二度目の改定が行われました。膨大な数の都市計画公園・緑地のうち重点的に整備すべきものを抽出し、さらに10年の計画期間中に事業化する区域を「優先整備区域」として指定する。この枠組みは、当初の計画から変わっていません。
としまえんを含む一帯が重点的に整備すべき公園に位置付けられ、としまえん区域全体が優先整備区域に指定されたのは、2011年から。重点化の視点は「防災」でした。東日本の大震災の衝撃と「防災」対策強化という流れの中でその意義が再確認された象徴的な場所、それが旧としまえん区域です。

都施行の大規模公園であれ、区施行の近隣公園であれ、10年という計画期間の中で一気に整備できるケースはごく稀です。そのため、長期にわたる整備という意味での「段階的整備」はごくごく一般的なありようであり、『整備方針』はその時々の財政や地域の状況、優先度などを踏まえ、部分部分を優先整備区域として指定してきました。

たとえば、都施行の事業である石神井公園。下の二つは2011年計画と2020年計画での優先整備区域を示す図です。黒い線で囲まれているのが都市計画エリア。緑色が既に開園している区域。青の斜線は事業が進められている区域。そして赤の斜線が優先整備区域です。

2011年改定『都市計画公園・緑地の整備方針』
2020年改定『都市計画公園・緑地の整備方針』

ちょっとわかりづらいですが、たとえば左上の大きな四角のエリア。ここは旧日銀グラウンドのエリアで、2011年計画では優先整備区域から外れていたのですが、日銀が売却の意向であることがわかり、急きょ、都ではなく区が整備することになりました。今の松の風文化公園です。また、西の端、住宅地の一角は2011年には優先整備区域ではありませんでしたが、2020年計画では区域に編入されました。外環の2の道路計画と関連しているのではないかと思われます。
もう一つ、こちらは区施行の大泉井頭公園、2011年の『整備方針』での優先整備区域図です。

大泉井頭公園の優先整備区域。2011年『都市計画公園・緑地の整備方針』

ご覧の通り、都市計画区域の中には白地(計画で手つかずの場所)が広く残ったままです。しかも、実はこの優先整備区域である土地をめぐる状況が変わったということで、2020年改定版では優先整備区域は示されなくなってしまいました。
要するにこうです。優先整備区域は、都市計画区域全体の中でも、様々な条件、関係者の動向や他の行政計画との関連、あるいは財政事情などを踏まえ、当該の計画期間10年の中で事業化する見通しや必要性の高いところを精査して指定するものだ、ということです。当然です。やみくもに優先整備区域に指定して10年たっても実現の足掛かりさえ残せないようでは、行政計画の意味をなさないからです。

だとすれば、優先整備区域に指定された公園区域を30年にわたって民間の開発事業に提供するというスタジオ・ツァー計画とそれを可能とした『覚書』は、まさに異例中の異例ということになります。たとえば、都市計画道路の優先整備路線に指定された区域の一部で、特定の権利者の意向を受けて道路整備を30年以上も棚上げすることを約束するような話だと言えば、その異様さは伝わるでしょうか。抵抗する地権者に対しては強制収用をちらつかせてまで進めることが当たり前の道路事業ですが、しかし道路も公園も、都市計画事業という点では同じです。
優先整備区域に指定したその端から、10年どころか30年以上も整備を棚上げする約束を交わす。それは、全都で公園や緑地の整備を計画的に進めていくための柱となる行政計画である『都市計画公園・緑地の整備方針』、そしてその核心である優先整備区域の指定の原則をなし崩しにするものです。都市計画事業としての在り方自体が問われかねない事態だ。私には、そう思えてなりません。 (続く)

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