Access
池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

練馬城址公園の「段階的整備」を考える (その1)

としまえんは都立公園(練馬城址公園)になる。たいていの人は、そう思っていました。そこに、割り込むように飛び出した『ハリー・ポッターのスタジオツァー施設』計画。もやもやとした思いで、この“割り込み”を眺めている人はたくさんいそうです。
そもそも、都立公園になるはずの場所に、なぜ民間の営利事業のための巨大な施設ができるのか? 改めて考えてみました。

「優先整備区域」とスタジオ施設

としまえんを閉園にする。土地の所有者である西武鉄道が新しい事業展開を考える。ワーナーブラザーズなどに土地を貸し、スタジオツァーを誘致する…これらすべては、民間の企業がそれぞれの経営判断に基づいて行う事業活動。としまえん跡でどんな施設が出来ようとも、民・民の話、問題はないし、口をはさむべきではない。こういう主張があります。
しかし、この主張は、としまえんに限って言えば正しくありません。なぜなら、としまえん跡地全域は、東京都が指定する都立公園の「優先整備区域」になっているからです。

としまえんのエリアを含む一帯を公園(仮称・練馬城址公園)にするという都市計画が決まったのは、1957年です。都市計画の区域に指定されると一定の建築や開発行為が制限され、さらにその都市計画が実際に事業化されることになると土地の収用も可能になります。収用というのは、任意の売買契約ではなく強制的に所有権を移転する手続きです。
練馬城址公園は、都市計画としては定められていますが、まだ事業としての認可は取っていません。この段階では、原則として2階建てまでの建物は新たに建築可能です。スタジオ施設は、高さは当初の19mから15mに見直されたようですが、それでも一般のマンション等であればほぼ5階建て。ただ、構造としては2階建てですから、建てること自体は法的に問題があるわけではないようです。
しかし、多額の投資をして大きな施設を建てる以上は、長期的な収支見通しや事業計画は不可欠です。建物を建てたのに、数年で公園整備が始まり土地を収用されるということになってしまえば、事業としては大いに不安定です。特に、スタジオ施設のように鉄道をはじめとした関連する様々な事業と一体となった計画であれば、なおさら長期的な事業基盤の安定は欠かせません。それは、5年10年ではなく、例えば30年、50年という単位でしょうか。そうなると、どうしても公園整備計画との兼ね合いをどう整理するかという課題を解決することが必要になります。

しかも、東京都は、『都市計画公園・緑地の整備方針』において練馬城址公園を重点的に整備すべき公園に位置づけ、としまえん全域を「優先整備区域」に指定しています。優先整備区域に指定されれば、おおむね10年の計画期間内に事業化することが目標となります。としまえんのエリアを最初に優先整備区域に指定したのは2011年の計画改定の時ですが、今年6月に改訂された新しい計画でもその指定は引き継がれました(図参照)。つまり、今現在、としまえん跡地全域が——スタジオ施設予定地も含め——2029年までに整備事業を始めるべき場所になっているということです。

練馬城址公園の都市計画図。黒い線が都市計画区域、赤の斜線が優先整備区域。
東京都『都市計画公園・緑地の整備方針』2020.7より

この計画を前提にすれば、スタジオ施設を長期にわたって運営することは不可能です。東京都が10年以内に公園にすると言っている場所で、何十年にもわたる事業を起こすことなどできるはずはない。そこで、こうなります。事業者からすれば、公園を整備する立場である東京都にスタジオ施設の長期的な運営を可能とする約束をしてもらいたい。都としては、スタジオ施設と折り合いの付く形で、公園整備計画を調整する必要がある、と。そこで出てくるのが、練馬城址公園の「段階的な整備」です。

『覚書』がなければ…

都立公園のように大規模な公園を造る際に「段階的な整備」という方法を取ること自体は珍しくありません。練馬で言えば、例えば石神井公園などはまだまだ未開園区域がありますが、長い時間をかけて少しずつ整備しています。ただ、練馬城址公園について言えば、段階的に整備するという方針が明確に示されたのは例の『覚書』(『都市計画練馬城址公園の整備にかかる覚書』)においてでした。6月12日付で交わされたこの『覚書』には、「段階的整備」がスタジオ施設計画と不可分なものとして明記されています。

(練馬城址公園整備の工程)
第5条 甲は、整備計画の策定において、乙の意見を十分に聞くものとし、整備計画策定後には、速やかに整備を進めていくものとする。
2 甲は整備計画に基づき、他の関係者と協議の上、段階的に整備を進めることとし、他の関係者はこれに協力する。
 (スタジオツアー施設等)
第6条 前条の段階的な公園整備のプロセスに合わせて、丙、丁及び戊は、対象区域の未開園部分のうち、関係者間で合意する区域(以下「開発事業区域」という。)において、スタジオツアー施設等(スタジオツアービルディング、駐車場及び外部からの到着エリアを含む。以下同じ。)の整備に向けた協議を行う。なお、スタジオツアー施設等の位置は、別紙の計画のとおりとする。
2 丙、丁及び戊は、開発事業区域において、この覚書の締結以降、他の関係者と誠実に協力して前項に定める取組を行う際、第4条に定める機能の実現の一翼を担うことに配慮する。
3 スタジオツアー施設等の設置可能期間(以下「設置可能期間」という。)は、運営開始日からの30年間とする。なお、丙、丁及び戊から設置可能期間の変更について申し出があった場合は、その他の関係者は協議に応じるものとする。
4 甲は、設置可能期間満了後の開発事業区域について、練馬城址公園の整備を行う優先的な地位を関係者間において留保する。
…以下、略…

※甲は東京都。丙、丁、戊はそれぞれ西武鉄道、ワーナーブラザーズ、伊藤忠商事。『覚書』全文は9月3日のこのブログの記事、としまえん跡の『覚書』 を参照

ここに書かれていることをまとめると、こうなります。
①都は、整備計画に基づき、練馬城址公園を段階的に整備する
②整備段階が後になる未開園部分でのスタジオツァー施設整備を認める
③スタジオツァー施設を設置できる期間は30年間までとする
④スタジオツァー施設の整備に当たっては、都が想定する公園機能の「実現の一翼を担うことに配慮する」…
この『覚書』で初めて練馬城址公園の「段階的な整備」が明示され、公園予定地の一角を使ってスタジオツァー施設を少なくとも30年にわたって設置することが公に認められました。西武鉄道などの事業者からすれば、この『覚書』を交わすことで、公園整備の主体である東京都のお墨付き、長期的な開発事業に対する担保を得たということになります。この『覚書』がなければ、スタジオツァー計画は決して陽の目を見なかったはずであり、覚書に署名した小池都知事と前川練馬区長はとても重い責任を負ったということは、まずしっかりと確認しておきたいと思います。

そして、問題は『覚書』が道を開いたこの「段階的な整備」がなんとも異様、異例なものであったということです。 (続く)

コメント