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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

区立「ケアハウス」、廃止へ

後退する高齢者の“住まい”保障

年に4回開催される定例区議会。今年最後の定例会が11日、閉会しました。最終日の本会議では、議案に対する討論と採決が行われます。今回、採決となった議案は『軽費老人ホーム条例を廃止する条例』と『地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例の一部を改正する条例』。『軽費老人ホーム条例を廃止する条例』については、私・池尻が討論に立ちました。

そもそも「軽費老人ホーム」とは何か。聞きなれない言葉かもしれませんが、もともとは老人福祉法という法律で定められた社会福祉施設の一つです。

老人福祉法
(軽費老人ホーム)
第20条の6 軽費老人ホームは、無料又は低額な料金で、老人を入所させ、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする
軽費老人ホームの設備及び運営に関する基準
無料又は低額な料金で、身体機能の低下等により自立した日常生活を営むことについて不安があると認められる者であって、家族による援助を受けることが困難なものを入所させ、食事の提供、入浴等の準備、相談及び援助、社会生活上の便宜の供与その他の日常生活上必要な便宜を提供する

老人福祉施設にはいくつかのタイプがありますが、人が暮らす場所としては
①常時の介護が必要な人のための特別養護老人ホーム
②環境面や経済面で生活が立ちいかなくなった人を行政の責任で入所させる養護老人ホーム
③軽費老人ホーム
の3つがあります。軽費老人ホームは、常時の介護が必要ではないけれども日常生活に不安を抱えている高齢者が、「無料または低額な料金」で利用できるようにした施設ということになります。軽費老人ホームでは、食事・入浴などの生活サービス、安否確認・見守りや相談などのいわゆる「生活支援サービス」が受けられます。入居者の負担は収入に応じて定められています。

この軽費老人ホームが、練馬には一つだけあります。区立の「大泉ケアハウス」です。大泉特別養護老人ホームのある建物の4階と5階、定員50人。1999年に開設されました。この区立大泉ケアハウスを廃止しようというのが、今回の議案です。廃止されると、まずは併設の特養と同様、民営化され、民営化されたのちは建物の大規模改修に合わせて数年のうちに特養に機能転換する方針を区は明言しています。

高齢となってからの住まいのあり方が大きな議論となり、いわゆる介護施設ではないケア付きの住まいに対する関心や期待は間違いなく高まっています。ただ、たとえばサービス付き高齢者住宅や有料老人ホームは、入居費が高い。しっかりした厚生年金を受けている人であっても、年金だけでは月々の負担すら賄いきれない額になりがちです。費用負担を軽減した、ケア付きの住宅…軽費老人ホームはある意味でぴったりの選択肢だと思うのですが、なぜその軽費老人ホームを廃止するのでしょうか。

区は、廃止される軽費老人ホームに代えて「都市型軽費老人ホーム」を増やしていくと言います。しかし、この「都市型」は本来の軽費老人ホームの基準を大幅に引き下げたもの。2009年、群馬県渋川市の高齢者ホーム「たまゆら」で火災が起き、10人が死亡。そのうち6人が23区内で生活保護を受けている人であったことから、生活保護をはじめとした低所得の高齢者の住む場所がないという都の貧しい現実が大きな社会問題となります。その中で都が緊急に制度化を求めたのが「都市型」の軽費老人ホームです。施設基準を大幅に引き下げ、土地の高い都内でも建設しやすいようにするというものでした。その後、手厚い補助を受けながら「都市型」はどんどん増えてきました。練馬は23区でも一番多く、今、13施設(定員250人)もあります。

しかし、それにしてもこの「都市型」の施設基準の貧しさはどうでしょうか。様々な高齢者の施設や住居の基準を比較したのが下の表です。

老人福祉施設協議会資料より

「都市型」の居室面積は4畳半か、せいぜい6畳ちょっと。本来のケアハウスの半分以下で、トイレや洗面台もなくてもよいことになっています。常時介護が必要な人の施設である特養と同じか、それ以下。入居者の7割が生活保護受給者だと言われます。住まいを失いかねない人たちのぎりぎりのよりどころとしての意義はあるとしても、人間らしい自立した暮らしの場としての住まいとしては大いに限界のあるものだと言わざるを得ません。

区内でも、単身の高齢者、あるいは高齢者のみの世帯が急増しています。今年1月1日現在で、高齢者の単身世帯は52,776。65歳以上の高齢者のみの世帯を加えると82,977世帯にもなります。伴侶に先立たれ、あるいは認知症が始まり…様々な事情やきっかけで生活の不安を抱え孤立していく高齢者は、決して少なくありません。要介護状態の悪化を防ぎ自立した生活を少しでも長く維持するために、適切な見守りと暮らしのサポート、そしてそれを可能にする住まいを増やしていくことは喫緊の課題であり、区立ケアハウスの廃止はそうした時代の課題に逆行しています。

そんな思いから、私は反対討論に立ちました。以下、討論の全文を紹介します。採決の結果は私も含め市民の声ねりまと共産党だけが廃止に反対という残念なものでしたが、大切な論点を刻むことができたと思っています。


ケアハウス廃止条例 反対討論

市民の声ねりまを代表し、議案109号 練馬区立軽費老人ホーム条例を廃止する条例に、反対の立場から討論を行います。

もうかなり以前ですが、区立軽費老人ホーム「大泉ケアハウス」を見学したことがあります。建物の玄関には居室ごとのポストがあり、部屋には電話も引け、もちろんトイレがあり、水回りも整えられ、一人一人の住人の自律的な生活が大切にされています。それは、生活の基本が共同の空間と時間に移された特養やグループホームとは大きく異なります。

軽費老人ホームは、老人福祉法に位置付けられた社会福祉施設です。自立した日常生活に不安がある人に対し、無料または低額な料金で、食事や入浴、相談、安否確認などの生活支援サービスを提供することが、その目的です。常時の介護を提供する特養などと異なり、ここでは、見守りや食事の提供などを通して自立した生活を支えていくことが主眼であり、それは、生活支援サービス付きの住宅と表現するのがふさわしいものです。
最近、急速に増えてきたサービス付き高齢者住宅も、見守りなどのある住まいという点ではよく似ています。しかし、大きな違いもあります。何より費用負担に配慮し低所得者の住まい確保に資するという点で、軽費老人ホームはまさに福祉の施設です。
今、「住まい」は地域包括ケアのかなめの一つとされられるようになり、「高齢者一人ひとりが心身の状態に合わせて住まいを選択できる地域づくり」が大きな課題となっていますが、軽費老人ホーム、ケアハウスはこの「住まい」の欠かせない選択肢です。

議案109号は、区立の施設を民営化するというだけでなく、そもそもこの練馬から本来の軽費老人ホームをなくそうというものです。区は、かわりに「都市型軽費老人ホーム」の整備を進めていくと言います。しかし、都市型は、同じような看板を付けてはいますが、区みずから認めるように「従来の基準を大きく緩和した」ものです。とくに、施設基準は大幅に引き下げられています。本来の居室面積は21.6㎡。洗面所、トイレ、簡易な調理施設が必須です。一方、都市型は7.43㎡、わずか4畳半の空間しかありません。トイレや洗面所もなくてもよい。練馬区は事業者公募にあたって居室面積などを引き上げていますが、それでも10.65㎡、6畳にしかなりません。
練馬でも、低所得の単身、高齢者のみの世帯が急増しています。ひとり暮らしになり、あるいは家族の認知症などがきっかけで、暮らしがよどみ、気持ちが沈み、食べることも、体を清潔に保つこともおろそかになる…少しずつ生活の質と安定を削り取られていく高齢者の姿を、私たちは日常的に目にしています。常時の介護がないと生きていけないわけではない。むしろ自由でもいたい。でも、ひとりきりになることがどれほど不安で危ういことか。つながるナースコール、温かい食事やお風呂に無理なくあずかれる安心感。見守りと生活の支援のある住まいがあれば、この暮らし、この毎日をもう少しは続けられるかもしれない。そんな思いを抱いている人はたくさんいるはずです。そして、そうした思いに6畳一間で答えるのはとても難しい。
軽費老人ホーム本来の目的に照らせば、都市型は大きな限界を抱えています。それは、「たまゆら」の事件を契機に社会問題化した、生活保護受給者の住まい確保のための緊急対策という出自を、色濃く背負っています。

廃止された軽費老人ホームを、区はやがて特養に転換するつもりです。逆行しています。低所得者も利用できるケア付きの住まいを、大きく増やしていくこと。そして、都市型を、むしろ本来のケアハウス水準に見直すこと。それが、今、求められていることです。
都市型軽費老人ホームが受け止められる「住まい」のニーズは、ごくごく限られたものです。しかも、その「都市型」は多くの待機者を抱えています。一方、サービス付き高齢者住宅に入居できる経済的な条件のある高齢者は一部にとどまります。廃止される大泉ケアハウスは、定員50人。今、入居している皆さんが、それぞれにふさわしい新しい居場所を本当に見つけられるのかさえ、私は強く危惧しています。

所得の低い高齢者は確実に、急速に増えていくのに、「住まい」をめぐる区の姿勢はなんとも心もとなく、また福祉の精神に乏しいものです。区立軽費老人ホームを廃止する条例改正は、こうした区の姿を象徴するものであり、重ねて反対の意思を表明し、討論とします。

コメント

  1. 山岸 研 より:

    池尻先生 

    現在、このコロナ禍の下、区議会でお忙しいことと存じます。
    実際に御挨拶に伺いたいと思いながら、自粛すべきかとも思案し、失礼しておりました。

    さて、随分と前に拝読したものの、コメント遅くなりましたこと、先ずはご容赦下さいませ。
    先生の反対意思表明を伺い、心より賛同致します。

    介護の現場で働くものとして、身体の老いへの不安だけでなく、経済的な不安が、如何に多くの高齢者の生きる希望を奪っているかを、日々目の当たりにしてまいりました。
    私も、介護士として、行政書士として、要介護高齢者の権利擁護を訴え、取り組んでいきたいと考えておりますが、お恥ずかしながら先生の配信メールをいただくまで、ケアハウスの廃止の動きがあったことすら知らずにおりました。
    今後とも貴重な情報の発信を、切に願っております。

    この度コメントを差し上げましたのは、区の立場・考えを伺えればと思った次第故。
    不躾ではございますが、是非ともご教示いただければ幸いです。

    ① なぜ、区はケアハウスを廃止検討したのか。財源の問題を解消するための民営化がその最大の理由なのか。

    ② 区は、「都市型軽費老人ホーム」を推進するなかで、高齢者の生活の質をどう担保できると考えているのか。運営事業者となる社会福祉法人は、そもそもその推進政策に意欲を示しているのか。事業採算性や、サービス提供(介護スタッフ)の安定確保が望めるのか。

    以上です。

    当方も、まだまだ勉強不足ゆえ、指摘に誤りがあるかも知れません。その点何卒ご容赦下さいますようお願い申し上げます。
    区の立場・考えを、一区民としてきちんと理解したいと思い、コメントさせていただきました。

    お忙しいところ、誠に恐縮ではございますが、また改めて、御挨拶に伺いたいと思っておりますので、宜しくお願い申し上げます。

  2. ikejiriseiji2 より:

    コメントありがとうございました。議会日程に追われてご返事がすっかり遅くなりましたこと、お許しください。以下、私見ですが、ご返事させて頂きます。
    ① 最大の理由は、区立ケアハウスに対する区の財政負担を軽減することです。都市型だと、入居者の負担軽減のための運営費の補助が都から出ますが、ケアハウスの場合は、それがありません。民営化だけでなく、さらに施設自体の廃止を目指しているのはそのためです。
    ② 「都市型」は、10年以上前、群馬で起きた火災事故を経て制度化されました。大きくケアハウスの基準を引き下げるものであったにもかかわらず、法外の劣悪な居住に頼らないようにということで正当化されました。運営は、基本的に営利法人です。直接の介護を提供するものではないこともあり、人員基準もゆるいものです。都や区の補助が入るので監督指導の仕組み自体は生きており、一定の質は担保できているとは思いますが、生保対象の施設という限界はぬぐいがたいところがあります。
    またご意見お聞かせください。

  3. 山岸 研 より:

    議会活動で非常にお忙しいところ、返事のお手間を取らせてしまいましたこと、ご容赦くださいませ。この度は、コメントいただき有難うございました。
    老いて、他者の助けを頼みとして生きてゆくことが許容される互助、共助、公助の社会の実現には、やはり潤沢な財源が必要不可欠なのでしょうか。
    もちろん、限られた区の財源です。どこにどう分配してゆくのかを、しっかりとチェックしていく必要はありますが、当方は、低所得高齢者の生活の基盤となる「住まい」の確保は、最優先課題と考えます。介護保険保険者である区には、ケアハウスの維持存続、都市型の施設基準の引き上げ等、高齢者の目線で暮らしに寄り添う政策を行うよう、切に望みます。
    これからも、先生のご活動を応援させていただきます。
    また改めまして挨拶に伺わせていただければと存じます。