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「標準」まで、道半ば ~給付限度額とは何だったのか (終)

標準的なサービス利用例、そしてそれを前提に換算された給付限度額について、もともと国はどの程度のサービス利用を想定していたか。実はこの点でも、制度発足当時、国は明快な説明をしていました。『高齢者介護費用および基盤整備の将来推計』というタイトルをつけて、繰り返し審議会等でも公になっている資料です。グラフにすると、こうなります。

 

ちょっと見にくいかもしれませんが、在宅サービスの基盤整備率、つまり標準的なサービスに対する実際の基盤整備の割合は
2000年 40% → 2005年 60% → 2010年 80%
となっています。
国としても、制度発足から10年で在宅サービスの整備率が100%になるとまでは想定していませんでした。いちばんの問題(として意識されていたの)は、全国津々浦々にサービス基盤を整えることの困難でした。それでも、2010年には80%まで整備は進む。そして当然、この数字は時間とともに100%に近付いていく。それが、当時の国の説明だったのです。
ちなみに、施設サービスについては2000年度ですでに整備率が100%、つまり“待機者”が解消されるというのが当時の想定でした。当時は、施設利用も要介護1以上ならだれでも「選択」できるメニューだとはっきりと言われていました。施設を希望する人は施設へ。在宅を希望する人は、限度額が示す水準のサービス利用を。少なくともこれが、介護保険が約束した社会的介護の姿だったのです。
では、実際にはこの基盤整備率はどうなったか。言い換えれば、介護保険の居宅サービスについて定められた支給限度額(区分支給限度基準額)に対して、実際にはどの程度、サービスは利用されてきたのか?
練馬区の実績を見てみると、要介護度によって少なくない差がありますが、しかし、なべて言えば基準額のほぼ半分程度までサービスが利用されているというところでしょうか。全国的には、この数字はさらに低くなっているようです。
介護保険が始まって、間もなく20年。「標準的」に利用すると想定された額のほぼ半分程度に利用がとどまっている。それが現状です。社会的な介護サービスを利用することへの抵抗感、利用者負担の重み、そして適切な介護サービスの不足などが絡み合って、基本的な介護の多くをなお家族に頼る状況が温存され、再生産されてきたと言うべきでしょう。
しかし、それでも確実に、じわじわと利用率は上がってきています。介護サービスの利用に対する意識が少しずつ変わりつつあることもあるのでしょうが、何より家族介護の基盤が失われ、認知症介護の必要性が高まる中で、いやでも応でもサービスを利用を増やさざるを得なくなってきているというのが実態でしょう。
介護保険制度の維持という点では、当然、財政的な基盤、保険料負担の限界などの問題としっかりと向き合わなければなりません。しかし、当面の財政的な配慮や制約への対応に追われる前に、まずはしっかりと介護の現場、高齢者のニーズとあるべき生活像をとらえ返すことをもう一度、やってみたい。支給限度額がなぜ、どのような趣旨で生まれたかを振り返る時、改めてそう思います。

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