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「一知半解」

 雨水のダイオキシン問題の、ちょいとした余談です。

 「一知半解」という言葉があります。なまかじりで十分に理解できていないこと、という意味だそうです。私も、ずいぶんこの「一知半解」で冷や汗を、いや恥をかきました。熟慮し、よくよく理解しておくのはなかなか難しいこと。とりわけなじみのない分野の知識については、そうです。
 議会で他の議員や理事者の質疑・答弁を聞いていても、時々、これは「一知半解」ってやつじゃないかな、と思うことがあります。最近も、そんな答弁に出くわしました。これが実は、ダイオキシンをめぐるやり取りの中でのことです。答弁に立ったのは環境清掃部長。とても頭の切れる方です。練馬清掃工場の雨水から6.8pgという環境基準を大幅に超える値のダイオキシンが出たことを踏まえ、しっかりとした調査、説明を一組に求めて頂きたいと、私が述べたのを受けての発言です。

環境清掃部長 この間の経過につきましては、先ほど課長の方からお話のとおりでございますけれども、先ほど委員の説明の中で、水質の環境基準について1ピコグラムというお話がございました。確かにそのとおりでございます。
 ただ、これは国の基準等を読みますと、飲料水経由の直接摂取の長期的な影響の観点から数値を算定し、つまりその水を飲んだ場合ですから、環境基準として1ピコグラムだと。逆に、通常の耐容の1日の摂取量、これは体重1キログラム当たり4ピコグラムまで許容されています。つまり、50キログラムの方であれば1日20ピコグラム、これも許容されていると。こういう前提の中で、さらに排出基準については、先ほど課長の方から答弁しましたように10ピコグラムと、こういう状況でございまして、この辺がすべて、新聞報道もそうですけれども、混同されたような形で報道され、区民の方に不安を与えた。このことについては、非常に私どもも遺憾に思っているところでございます。

 この発言の真意を直接、確かめたわけではありません。しかし、まぁ自然に読めば、環境基準は確かに1pgだ、「ただ」それは飲料水としての長期摂取の問題だ、「逆に」耐容一日摂取量はなんと200pgだ(20は計算間違いですね)、「さらに」いえば、排出基準だって10pgだ…要するに、環境基準で騒ぎすぎだと、こう言いたいのだということは伝わってきます。だから部長は、雨水が環境基準を大きく超えたこと自体はまったく問題にせず、ただ変な報道が「区民に不安を与えた」、そのことが「非常に遺憾である」としか言っていないのです。
 しかし、この部長の答弁は、「?」がいっぱいです。
 まず、水質の環境基準はたんに「飲料水経由の直接摂取」だけでなく、「水質汚濁に由来する水生生物経由の間接的摂取による長期的な影響の観点」からも評価されているものです。つまり、飲み水としてだけでなく、魚などの食物の摂取による影響も考慮したものです。そして実は、ダイオキシンの摂取を考える際に、最も大きな比重を占めるのはこの食物からの摂取なのです。耐容一日摂取量4pg/kg/日は、飲料水だけでなく、食物、大気、土壌の直接暴露などの複合的な要因を総体としてみた数字であり、この4pgをそれぞれの要因ごとの基準に置き換えたものが、たとえば水の1pg/lであり、あるいは大気の0.6pg/㎥です。つまり、4は1より緩い、甘い基準なのではなく、同じレベルの基準を違った観点から数値化したものなのです。
 排水基準と環境基準の関係も同じです。排水基準が環境基準より10倍緩いのは、違った基準だからではなく、排水が公共水域に入る過程で10倍程度には希釈されるという想定を置いているからにすぎません。もしたとえば、排水が下水道を通らずに直接、河川に出たり、あるいは地下水と直結していたりしたら、適用されるべきは10ではなくむしろ1pgということになるでしょう。
 
 私のこの理解が絶対に正しいと胸を張るつもりはありません。でも、私自身も、もう10年ほど前、ダイオキシン規制が始まるころに、今の部長とよく似た“理論”にぶつかりました。そして、「一知半解」の知識に溺れそうになり、必死で規制値の意味を調べた記憶があります。たぶん、私の部長への批判は、そう違っていないと思います。

 「一知半解」な知識を振り回すことは、本当に恐ろしい。もし部長のこの答弁が、不正確で中途半端な知識から出たものであったとしたら、答弁から残るものはただ一つ、環境基準そのものへの軽視と環境行政の責任者としての無責任です。部長さん、反論はいつでもお待ちしています。

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