Access
池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

「自己管理値」 ~清掃工場の水銀(その4)~

 清掃工場の水銀問題では、最初から気になっていたことがあります。それは、排ガス中水銀濃度の「自己管理値」「自己規制値」とは何だろう、そしてそれはなぜ0.05㎎/㎥Nなのだろうということです。この問題を、少し整理して考えてみます。
  ※専門的な知見が前提となる話です。不正確なところがあれぱぜひご指摘ください。

 まずは、あらためて一組の説明を確認してみましょう。一組は、こう書いています。

 「排ガス中の水銀に関して法律による排出基準はありませんが、当組合の清掃工場の多くは工場操業協定に基づく自己規制値(0.05㎎/㎥N)の遵守を徹底しています。光が丘清掃工場は自己管理値(0.05㎎/㎥N)を定めて同様の水準で管理しています。」(報道発表資料より)

 ここでは、「自己管理値」と「自己規制値」が出てきます。両者は数値は同じですが、意味合いが違います。一組の説明はこうです。「自己規制値」とは、工場操業協定などで外部的に約束された値であり、工場の維持管理上の義務として定められているもの。他方、「自己管理値」は、協定等での定めもないが、工場の自主的な管理目標として定められたものである、と。各工場の環境報告書が一組のホームページから閲覧できますが、それを見ると、例えば光が丘工場のようにあくまで「自己管理値」でしかないところは測定数値の記載がなく、他方、板橋工場のように「自己規制値」になっているところではきちんと記載されているといった具合いに、両者の取り扱いは結構、明確に違っています。ただ、いずれにしても、工場の維持管理上は順守することとしており、従って、今回もこの基準を超えたために「自己管理値」でしかない光が丘工場も止まりました。
 しかし、「自己管理値」にせよ「自己規制値」にせよ、水銀濃度の管理はなぜ必要になってきたのでしょう?
 一組は、「水銀については法律による排出基準はない」と言っています。これは、大気汚染防止法や環境基本法などによる義務的な基準がないという点では正しい。しかし、ではまったく法令上の根拠はないかと言われれば、それは違います。大気汚染防止法は「有害大気汚染物質」を定めており、そのうち法に基づく規制値・基準値のないものについても「指針値」を定めています。水銀も、この有害大気汚染物質の一つに指定され、法による排出基準こそないものの、事業者の自主管理の指針、さらには環境目標値としての指針値(「有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値」)が定められているのです。この指針値について、環境省はこう説明しています。

 指針値は、環境基本法第16 条に基づき定められる環境基準とは性格及び位置づけは異なるものの人の健康に係る被害を未然に防止する観点から、有害性評価に係るデータの科学的信頼性において制約がある場合を含めて、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値として設定されるものである(平成15 年中央環境審議会第7次答申)。
 この指針値は、現に行われている大気モニタリングの評価に当たっての指標や事業者による排出抑制努力の指標としての機能を果たすことが期待される。

 つまり、水銀については、義務的な規制値こそないものの、維持すべき大気環境の指針が定められており、事業者はこの指針値が実現するように有害物質の排出を抑制する努力が求められているわけです。この指針値が、水銀では0.04μg(年平均値)です。そして、清掃工場における自己管理値・自己規制値は、この指針値をもとに(排ガスの拡散を考慮に入れたうえで)設定されたものなのです。自己規制値(管理値)は、指針値の約1000倍(50μg÷0.04μg)となっています。なぜそれが1000倍であって例えば100倍でないのかは定かではありませんが、しかし、自己規制値(管理値)の根っこには、法に基づいて定められてきた指針値があるということは、忘れてはならない点です。
 自己規制値(管理値)は、決して法令上の根拠がまったくないわけではありません。正確には、指針と努力義務の枠内ではあれ、大気環境の保全のために法の求めに応じて設定されたものであると言うべきです。その指針が守られなかったのです。もちろん、水銀の排出が短時間であったことも考慮すれば、環境・健康リスク自体は冷静に評価されるべきでしょう。しかし、国の定める指針が守られなかった事実、水銀のような重金属、本来、清掃工場から排出されてはならないし排出されないはずの重金属によって清掃工場が大気汚染源となってしまったという事実、しかも住宅地の真ん中でそれが起こってしまったという事実は、重大です。

コメント